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第11話 ダブルデート④ ちゃんと見ている

 霧素とのお喋りが終わった頃、先輩とユーイチロウが同じタイミングで戻ってきた。


「はい霧素。……巡姉ちゃんも」


「……ふんっ。いらないわ!!」


 ぷいっと顔を背けて受け取り拒否。

 そりゃ塩対応しろとは命じたけど、感謝して飲むくらいは構わんだろうに。


 ユーイチロウは優しく微笑んだまま、渡せなかったシェイクを僕にくれた。


「バナナアレルギーじゃないだろ?」


「あっ……うん。ありがとう」


 優しくするなよ浮気性陽キャのくせに。

 普段僕を無視するタイプの人間に存在を認知されると困惑しちゃうんだよ。


「か、金……」


「いらないよ。俺の奢りだ」


 あっそ。

 甘ったるいシェイクを飲みながら、モール内を散策する。


 目的も予算もない高校生4人。

 ただブラブラするだけの、退屈なデート。


 前を歩くユーイチロウと霧素は、いちいち何かしらに反応して楽しそうだけど。


「アヤメくん」


 先輩が話しかけてきた。


「霧素ちゃんと何を話してたの?」


「あー、神の娘のこととか」


「信じてくれたのね!!」


「暇つぶしに陰謀論を語ってるショート動画を見ているようなもんです。信じちゃいません」


「そう。……それだけ?」


「まぁ。なんでそんなこと聞くんですか」


「へっ!? だ、だって」


 先輩が視線を落とした。

 ごにょごにょと、小さな声で答える。


「偽彼氏とはいえ彼氏だし、アヤメくんまで霧素ちゃんを好きになったら……イヤだから」


「そ……」


 それを言ったら偽彼女とはいえユーイチロウに好意があるのは……。

 あー、違う。なし。今のなし。

 構わないさ。僕は当て馬なんだから。


 ぜひとも真の恋愛感情を学んだユーイチロウとイチャイチャしてくれ。


「心配いらないですよ。僕、恋愛とか興味ないんで」


「そうなの? 彼女いらないの?」


「いらないですよ。僕は一人を謳歌したいんです。女の子と喋ってたって、まったく楽しくない」


「え、私と話すの、退屈なの?」


「あ、いや、その……」


 先輩がしょんぼりしている。

 親に怒られた子供みたいに。


 なに強がって他人を悲しませているんだ僕は。

 本当に、惨めだ。


「先輩とは……退屈ではないですけど」


「ほんと!? くっくっく!! 私も楽しいわよ。アヤメくん、変な男の子だから」


 それは褒めてない……よな?

 キモい虫の動画見て感心するようなものか。


「そ、そりゃ、どうーー」


「巡姉ちゃん、あそこのマネキン、この前戦った宇宙人に似てない?」


 ユーイチロウが服屋のマネキンを指さす。

 本当に似ていたのだろう、塩対応を心がけていた先輩もはしゃいで、


「そっくりじゃない!! 強かったわね〜」


 普通に会話していた。


「あのときの霧素ちゃん、ナイスアシストだったわ」


「いえいえ。巡凪さんの奮闘に比べれば」


「ユーイチロウが寝坊なんてしなければ、もっと楽に終わってたのに」


 僕の知らない世界が展開されてしまった。


「巡姉ちゃんのサイコキネシスですっかり目が覚めたよ」


「他の隊員も呆れていたんだから」


「はは、次からは気をつけるよ。マナーモードにしたままなのがよくなかったな」


 あっという間にいないもの扱いだ

 つまらないな。帰りたい。


 先輩は、僕とイチャイチャする作戦だっただろうに。


 疎外感。

 普段の教室みたいに。


 周りに人がいて、ワイワイ騒いでいるのに、僕だけ仲間外れな感覚。

 幽霊にでもなったような。









「アヤメくんも聞いてよ!! あっ、大声で話すのはマズイわね!!」


「え」


「くっくっく、聞かせてあげるわ!! 私の武勇伝!!」


 なんだ、僕のこと忘れてないのか。

 そうですか。


 ふーん。

 別に嬉しくはないけど。


 そのとき、僕はユーイチロウに睨まれているのを察し、無意識に下を向いた。

 ようやく僕に嫉妬したのだろうか。それとも別の理由?


 ていうかユーイチロウは、平然と僕の前で宇宙人の話なんてしているけど、気にしていないのか?



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ただモール内をブラブラするだけなので、日暮れ前には解散となった。

 結局先輩と露骨なイチャイチャはできなかった気がするし、ユーイチロウの嫉妬心を煽れた自信はない。


 一応念のため補足しておくけど、僕は先輩とラブラブになりたいわけじゃない。

 先輩とユーイチロウを真の恋人にするために必要なだけなのだ。


「ただいま」


 家に帰ると、サアヤが自室からひょっこり顔を出した。


「……」


「なんだよ」


「セックスした?」


「してないから子供はさっさと寝なさい」


「いひひ、あにちゃん、あたしが栄養失調で死にかけている裏で、必死に彼女に腰振って、あたしの死後、あたしを助けられなった自責の念に囚われて毎晩あたしの悪夢を見るの。……素敵」


「翌日にはお前のこと忘れてるよ」


「彼女、どんな人? あたしでも消せそう?」


「だから、本物の彼女じゃないって」


 家族で晩御飯を食べて、シャワーを浴び、ベッドに転がる。

 疲れた。ドッと疲れた。


 そもそも普段から遊びに行ったりしないのに、女子と一軍男子に囲まれながら歩き回るって、新しいタイプの拷問か?


 しかも大した成果は得られなかったし。

 無駄な一日。

 何してんだろうな、僕は。


 隣の部屋からサアヤの声が聞こえてくる。

 あいつはたまにゲームの生配信とかやってるのだ。


「うるさいな……」


 壁ドンをする気力もない。

 耳障りなのに、意識が薄れていく。

 あぁ、英語の宿題、やらないと。


 ダメだ、頭が回らない。

 そういえば、霧素が解説していた神の娘の力って、どんなのだっけ。

 どうでも……いいかーー。











「アヤメくん……アヤメくん!!」


 ハッと上半身を起こす。

 暗い。夜だ。でも目の前に巡凪先輩がいるのはわかる。

 上下スウェットの、ラフな格好。


 なんで? ていうか、ここは……どこだ? 僕の部屋じゃない。暗くて周囲が確認できない。


「今日行ったモールみたいね」


「は?」


 目が慣れてきた。

 確かにモールの中だ。

 霧素と話したソファで横になっていたようだ。


 先輩の他には、誰もいない。


「夢?」










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※あとがき

前半戦終了ですかね。

こっからぐいーっと話を進めていきます。

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