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【第9話】寝坊したからお見舞いに行こう

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、ブックマーク、ポイントの方よろしくお願いします。

 ここはアメリカはフロリダ州マイアミ。

 

 俺は今、アリの大群の様に押し寄せてくる敵と立ち向かっている。

 

 仲間は既に倒れ、頼れるのは俺が持っているライフルのみ。俺はライフルに弾を込め、物陰に潜みながら反撃の時を伺う。

 

 そしてタイミングが来た時、俺は物陰から立ち上がり、ライフルのトリガーを引く。


「うおおおお!」

 

 雄叫びと共に発射される弾丸が敵を打倒していく。しかし、敵のまぐれの一発が俺の肩を貫く。

 

 俺は怯むが挫けない。

 

 その後も続く銃弾の雨が俺の身体に穴を開けるが、俺は負けじと両腕を広げ叫ぶ。


「俺は不死身……あれ?」

 

 さっきまで広がっていたマイアミの美しい海と数多の敵の姿はそこに無く、広がっているのはベースやらパソコンやらが置かれた俺の部屋だった。


「夢か。せっかくギャングのボスに成り上がったのに」

 

 絶対昨日寝る前に見た映画のせいだな。ていうか俺、不死身だって言いながら目覚めたのか。

 

 やべえな魔王じゃねえか。


「あー学校行かなければ。目覚ましはまだ鳴って、鳴って、な、え?」

 

 目覚ましの方へ眼をやると、そこにはとんでもない数字が表示されていた。

 

 8時45分。

 

 1時間目の授業開始が8時50分からで、更に我が家から学校までは20分近くかかる。

 

 つまりどうやっても遅刻になる。

 

 しかし俺は至って冷静だ。

 

 俺は追い詰められたら普通に諦めるタイプの人間だからな。どうせ遅刻なんだし、朝はゆっくり過ごそう。

 

 取り敢えずそうだな、普段は土日しかしない朝シャワーをしよう。平日の朝っぱらからシャワーなんてできる男みたいでカッコイイよな。

 

 俺は口笛を吹きながら服を脱ぎ、シャワーのハンドルを捻る。

 

 丁度いい温度のお湯を頭から浴びると、さっきまで寝癖まみれだった髪が下に降りていく。全部降りた髪は顎の先まで届いていた。

 

 俺って結構髪長かったんだな。

 

 数年前まではスポーツ刈りだったのを考えると、俺のセンスというか趣味が変わっているのを実感する。

 

 シャワーを終えて時計を見ると、時刻は九時ジャスト。

 

 身体を拭いて適当な服に着替えた俺は次に何をするかを考える。うーんと頭を捻らせていると腹の虫が鳴き始めた。

 

 これは今すぐ飯を食わせないと腹を突き破って亡き者にするぞという警告だろう。

 

 もうちょっと長生きしたいので、俺は害虫を静かにすべく台所へ向かい、何を食べようかとおもむろに冷蔵庫を開ける。

 

 冷蔵庫にあった食べても良さそうなのはレタス、トマト、ハム、卵に食パン。

 

 これはサンドイッチを作れと言う神からのお告げ。神からの使命を達成すべく、俺は冷蔵庫からさっきの食材を取り出す。

 

 食パン二枚をオーブンに入れ焼きあがるのを待つ間にトマトを輪切りにしておく。そしてフライパンを取り出し、そこに卵を投入。

 

 出来上がったのは丁度いい具合の固さに仕上がった目玉焼き。

 

 後はオーブンから取り出した食パンの上にレタス、トマトを載せ、そこにマヨネーズをぶっかける。その上にさっきの目玉焼きとハムを載せ、もう1つの食パンで挟む。

 

 食べやすいように真っ2つにぶった切れば俺特製サンドイッチの完成だ。

 

 そしてダメ押しにインスタントのコーヒーも用意。これで腹の害虫も収まるうえ俺の気分も上がる。

 

 なんて素晴らしい朝食なんだ。

 

 自分のセンスに酔いしれながら、俺はサンドイッチとコーヒーをテーブルに並べる。

 

 そして椅子に座り、ゆっくりと優雅に朝食を楽しむ。サンドイッチの出来栄えは良く、一個ぺろりと平らげてしまった。

 

 コーヒーを啜り、おもむろに壁にかかった時計を眺める。

 

 時刻は10時5分。

 

 少し優雅に過ごし過ぎたようだ。今から急いで用意しても学校着くころには昼前か。

 

 これは遅刻して行くよりも欠席した方がいいな。小春にも遅刻するなって言われてるし。

 

 兄として、妹との約束は守らねばならぬ。そもそも五日の疲れが二日程度の休みで取れると思ってるのがおかしいんだよな。

 

 ということで欠席しようと決心したタイミングで、俺のスマホから着信音にしている音楽が流れた。誰かと思って画面を確認したが、アキラの名前が表示されていたので拒否する。

 

 そしたらすぐにヒロトからも電話がかかってきたので、俺はコールセンターよろしく神業級の速度で電話に出た。


「よう。ヒロトどうしたんだ?」


「どうしたもこうしたもあるか。お前なんで俺電話無視したんや!」

 

 とてもヒロトの声とは思えない、荒々しい声が俺の耳に入ってくる。


「いや、別にアキラだったらぞんざいに扱ってもいいかと思って」


「ええ訳ないやろ。俺も平等に扱え。世界人権宣言知らんのか」


「俺は過去を振り返らない主義なんだ」


「現在進行形で続いとんねんあれわ」

 

 スマホからアキラのため息が聞こえる。自分からかけてきてため息とはいい度胸だ。


「それで、慶君なんで休んでるの? 昨日早退したのと関係ある?」

 

 アキラのため息の後に、普通の男よりも少し高いヒロトの声が聞こえる。


「いや。たった2日の休みで疲れが取れると思ってる現代社会に対する平和的抗議活動だ」


「つまりズル休みなんやな」


「違う。断じて違う」

 

 アキラはまるで俺が寝坊したからズル休みしたという口ぶりで語るが、断じて違う。

 

 俺は現代社会に疑問を抱き抗議に尽力しようと思ったが、それには体力を消耗するためいつもより長めに睡眠時間を取ったんだ。

 

 今そういうことにしたんだ。時代は目まぐるしく変わるからな。


「まあいいや。慶君のズル休みなんていつものことだしね」


「それが問題なんやけどな。でも黒崎さんまで休みなんはモチベ下がるわー」

 

 電話越しにアキラのため息が聞こえる。

 

 そうか、楓の奴ちゃんと休んだのか。


「なんでクラス違うのに休みだって知ってんだよ気持ち悪いな」

 

 楓がちゃんと休んだことにホッとしたが、冷静に考えたらたクラスの欠席事情知ってるのは普通に気持ち悪い。


「いやいや。欠席すれば他クラスまで情報が広がる。それほどの影響力がある人なんや黒崎さんは」

 

 つまり楓は我が校におけるインフルエンザってことか。あれ、インフルエンサーだっけ?

 

 自身の語彙レベルを再確認したところで、授業開始のチャイムが鳴ったのが聞こえてきた。


「つー訳やから。来週はちゃんと学校来いよ」


「ちゃんと来てね!」

 

 スマホからプツと音が鳴り電話が終了する。

 

 最後のヒロトの声可愛かったな。にしても楓がちゃんと休んでくれてホントにホッとした。

 

 今ごろは熱もちょっと下がって、軽い飯くらいなら食べれるようになってることだろう。

 

 そこで疑問なんだが、あいつの家ってちゃんとした飯あるんだろうか。昨日の会話だけでも大分不安だ。

 

 そう言えば家にレトルトのおかゆがやたらあったな。確か母ちゃんが懸賞か何かで当てたんだっけ。

 

 好きなだけ食べてって言われたけど、おかゆってそんな頻繫に食うもんじゃないんだよな。

 

 しょうがねえ持ってってやるか。暇だし。



 

 俺は手提げにレトルトのおかゆ三パックと、一応で熱さまシートを一箱入れて楓の家に向かう。

 

 この前盛大に迷子になったおかげか、楓の家周辺には結構詳しくなっていた。

 

 駅から楓の家まではすんなりと進み、今は玄関の前。

 

 流石に病人の家にいきなり押しかける訳にはいかないので、ドアノブに手提げを掛けてさっさと帰ろうと思ったんだが。

 

 そこで緊急事態。玄関のドアノブが我が家と違う。

 

 オートロックという近未来の技術を使っている楓の家は、我が家の様な築三十年のマンションとは違うということか、なんだか弧を描く様な形をしている。これでは手提げを掛けれない。

 

 とは言っても別に焦ることではない。普通に床に置けばいいだけだ。

 

 俺はドアの横に手提げを立てかける様に置く。ついでに手提げに俺が置いたって分かるように手紙も入れておいた。

 

 用が済んだならこんな何故かソワソワする高級住宅街に長居する必要はない。

 

 さっさと帰って映画でも見ようとしたその時。玄関のドアがガチャと音を立てて開いた。


「あれ? 慶。どうしたんだい?」

 

 中からラフなスウェットにマスク姿の楓が表れた。


「いや、お見舞いと言うか押し付けと言うか。てかお前こそどうした」

 

 ぶっちゃけまだ顔色も悪そうだし。外に出るのはちょっと早すぎないか。


「私はお昼ご飯を買いにね。家に何も食べ物がないものだから」

 

 俺の危惧した通り、楓の家には食べる物すらないらしい。持って来て正解だった。


「ならこれやるよ」

 

 俺はさっき置いた手提げを拾い上げ、楓に渡す。


「これは、おかゆと熱さまシート?」


「家に何故か腐るほどあってな。持ってきたんだ。作れるか?」


「電子レンジなら使えるよ」

 

 その口ぶりからするに電子レンジ以外は使えないのか。


「あーこれ電子レンジ使えねえな」

 

 パッケージの裏を見てみるとレンジ不可と書かれてあった。鍋に水入れて沸かさないと駄目なタイプだこれ。


「お前電子レンジ以外何使えんだ?」

 

 楓は頬に指を当て数秒後考えた後。


「冷蔵庫なら」

 

 つまり何も使えないんですねこの子。この先どうやって生きていく気なんでしょうか。

 

 俺は深くため息をつく。


「作ってやろうか? 嫌じゃなけりゃ」

 

 何となくこいつに火を使わせるのは危険極まりないと思う。多新聞に豪邸全焼なんて載ってるの見たくない。


「それはぜひお願いしたいね。君に作ってもらうおかゆは美味しそうだ」

 

 俺が作ったら美味くなるのは確かにその通りなんだが、レトルトに作り手の技量は関係無いと思うんだけど。


「じゃあ、入ってもいいか?」


「もちろんだよ。キッチンへ行こう」

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