【第7話】友達になってはくれないか?
読んでいただきありがとうございます。
面白いと思っていただけましたら、ブックマーク、ポイントの方よろしくお願いします。
黒崎にドアを開けて貰い、俺は黒崎家に入る。ドアが閉まると、機械の様な音と共にガチャリと音がした。
自動ロックだろうか。最先端な家だな。
そして入った先にある玄関。ここだけで多分我が家より広い。
壁にはカラフルな丸の描かれたよく分からない絵が飾ってあるし、変な形をした壺っぽい置物も飾られている。
何で金持ちって意味わからん芸術品が好きなんだろう。俺も作って売りさばこうかな。
「部屋まで行けばいいのか?」
「そうだね。そこのドアを開けて貰えるかい?」
俺は黒崎に言われるがままドアを開ける。
ドアの先にあった部屋にはソファーやらテレビやが置いてあるのを見る限り、恐らくリビングだろう。
「そこの階段を登った先にあるのが私の部屋なんだ。お願いできるかな」
「当たり前だ。躓くなよ」
足元に注意を払いながら俺と黒崎は階段を登る。
にしても天井が高いな。キリンでも飼ってんのか?
「開けるぞ」
一応黒崎に確認を取り、俺は部屋のドアを開ける。
部屋の中はかなりシンプルで、ベッドと机と本棚、後はギターぐらいしか置かれていない。
あんまり女子の部屋を勝手にジロジロと見るもんじゃないが、嫌でも目に入ってきたので許してくれ。
俺は取り敢えず黒崎をベッドの上に座らせる。
「大丈夫か? 他に何かしてほしいことあるか?」
「そうだね。じゃあお水をお願いできるかな?」
「水か? いいぞ。ついでにそのペットボトルも捨てといてやる」
俺は楓から空になったスポーツドリンクのペットボトルを受け取り、下の台所へ向かう。
そこで何やら高級感を漂わせる黒色の冷蔵庫を開け、水の入ったボトルを取り出す。
もう何が見えても驚かない。ゴミ箱も蓋が自動で開いたが、平常心を保てた。
戦いの中で成長する主人公みたいでかっこいいな。
黒崎に水を渡そうと、俺は二階へ上がる。
「黒崎。水持ってき」
俺が何も考えず、部屋のドアを開け、中に入った時。
そこには着替え中なのか、上着を脱いでブラがまる見えの黒崎がいた。
「あ、すまん。別に見ようとした気持ちは一ミリも無くて。何なら興味も無くて」
完全な事故とは言えど、異性の下着姿を見てしまったのは紛れもない事実な訳で。でも俺の名誉の為に言い訳しないといけない訳で。
俺がアタフタしながら弁明していると、黒崎は笑い始めた。
「別に君なら構わないよ。何も不快感は無いからね」
黒崎はそう言いながらスカートまでも脱ごうとしている。俺は黒崎のあまりの危機感の無さに、何年かぶりにため息をつく。
「お前、ホント多少は人を疑えよ」
「君を疑う必要があるのかい?」
黒崎はキョトンとした表情で俺に問いかける。
「あるぞ。全然普通に」
何度も言うが俺は一流男子高校生だ。一流故に同級生の女子に対しやましい気持ちは持たない。相手が病人なら余計に。
しかし俺以外の奴らは基本的に二流または三流なため、黒崎にこんなことをされれば一瞬で獣と化してしまう。
だからこそ、こいつにはもっと人を疑う心を持ってほしい。というか持て。
「というか、なんでお前俺をそこまで信用できるわけ?」
個人的な見解として、信頼ってのは互いに長いこと関わっていくことで生まれるもんだと思っている。
俺と黒崎が関わったのは、廊下で定期を落とした時と、階段から落ちそうになった時に助けた時の2回だけ。
いくら俺が一流とは言え、出会って数日しか経ってない上に対して関わってもない俺を、ここまで信用するのはハッキリ言って異常だ。
「そうだね。私自身、こんなことは初めてだから、上手く言葉では言い表せないんだけど。何と言うか、凄く安心するんだ」
黒崎は制服のスカートを脱ぎ、パジャマのズボンを履きながらそんなことを言った。
安心するか。生まれて初めてそんなことを言われたな。
「だから何故か気を許してしまう。当然それには何の根拠も無い。君みたいな人に出会ったのは今まで無いからね。けど、何故かそう感じてしまうんだ」
「なるほど。そりゃ危険だな」
「現にこうして私が下着姿になっても、変なこと1つしないじゃないか」
「病人に欲情して手を出すほど人間終わってねえからな」
「だから安心できるんだ」
黒崎はそう言って笑いながらブラのホックを外す。
「おいちょっと待て。それは流石に不味いから」
俺は慌てて後ろを向く。
流石に女子の上の下を見るのはよろしくない。今のままでも十分やばいがレベルが違う。
「分かったよ」
黒崎は聞き分けよく、俺の死角で着替えてくれた。しばらくして黒崎からもう良いよと呼ばれたので、俺は後ろを振り返る。
そこにはちゃんと上下パジャマ姿の黒崎がいた。他人のパジャマ姿にこれだけ安心したのは初めてだ。
「よし。他何か欲しいものは? 薬とか氷とか」
「うーんどうだろう。薬も氷も無いからね」
マジ? 氷が無いのはまだ分かるとして常備薬も無し?
病気になった時どうするつもりなんだろうか。今がまさにその時なんだけども。
「よし分かった。取り敢えずお前もう寝ろ。そんで明日は大事を取って学校休め。いいか絶対休めよ」
俺は念を押し、黒崎に休むよう説得する。無理して学校行って悪化して入院なんて最悪だからな。
「分かったよ。流石に、この体調が1日2日で改善するとは思えないからね」
「そうだその通り」
俺は黒崎をベッドに寝かせ、布団を掛ける。
「じゃあ俺は我が家に帰還するから。何回も言うけど安静にしてろよ」
俺が黒崎に背を向け、部屋から立ち去ろうとしたその時。俺の制服の裾を黒崎の手が掴んだ。
「少し、待ってくれないか」
今までとは違う、絞り出す様な声で黒崎は話し出す。
「このタイミングで、こんな事を君に頼むのは自分でもどうかと思うんだが、聞いて欲しい」
黒崎は少し黙り込み、部屋中に緊張感が漂う。俺は何も言わず、黒崎が再び喋り始めるのをじっと待つ。
「私と、友達になってはくれないか?」
その言葉に、俺は一瞬で気が抜ける。
「なんだそりゃ」
「だ、駄目なのかい?」
黒崎はベッドから起き上がり、あっせた様子で俺を見つめる。
「いや全然駄目とかじゃねえよ。ただシリアスな雰囲気で言うもんだからさ、ちょっと気が抜けたってだけだ」
「し、仕方ないじゃないか。誰かに友達になってくれと頼むのは初めてなんだから」
黒崎は恥ずかしそうに俺を見る。
「ま、別にいいけどな」
友達になってくれと頼まれて断る理由も無いしな。というか、こいつの中での恥ずかしいに対する基準はどうなってんだ。
それより下着姿見られる方が恥ずかしいだろ普通。
「本当かい!? よかった。なら、もう1つお願いしてもいいかな?」
「なんだ?」
「私のことを、下の名前で呼んで欲しいんだ」
「いいぞ全然。楓でよかったか?」
俺が名前を呼ぶと黒さ、楓は嬉しそうに笑った。
「ああ。君は、確か」
と、俺はここで楓に名前を教えていなかった事を思い出す。名前も知らない相手にあの態度は普通に考えてやばいな。
「涼川慶だ」
俺が名前を伝えると、楓は俺の名前を何回か唱え、口元を手で隠して笑う。
「慶か。よろしくね」
「おう。じゃあ次こそ本当に帰るからな。何度も言うけど明日絶対休めよ」
楓に念押しし、俺は今度こそ部屋を後にする。玄関で靴を履いて外に出ると、すっかり赤くなった空が目に入る。
腕時計を確認すると、時刻は5時をとうに過ぎていた。
早く帰れると思って楓と一緒に早退したのに。結局部活してる時と変わらない時間になってしまった。
「さて、帰るか」
取り敢えず駅に行こうと俺は辺りを見渡す。
「俺、どっちから来たっけ」