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【第40話】1ミクロン程度の感謝

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、ブックマーク、ポイントの方よろしくお願いします。

 俺がぽけーっとしていると、楓がこちらへと駆け寄って来た。


「慶! 大丈夫だったかい?」


 楓は俺に抱きつき、傷跡でも探しているのか、腕や首を必要以上に目を通している。


「ああ。まあ思ったよりはな。助かったよ。正直結構やばかった。と言うか何でここに?」


 本来なら楓は今部活中だし、ここに居るはずはないんだが。


「京さんから連絡があってね。それでスグに飛んで来たんだ」


「京さんが?」


 俺が目を向けると、京さんは恥ずかしそうに口を開いた。


「その、慶さんの叫び声がして、それでこっそりドアの隙間から覗いたんです。そしたら何か大変そうな状況だったので、どうしたらいいのか分からず、それで楓さんに連絡を」


 なる程。それは何ともファインプレー。京さんの判断には感謝の念しか浮かばない。


「慶が大変な目に遭っていると聞いてね。とりあえず証拠の動画の撮影だけお願いしたんだ。おかげでかなり効果があったよ。ありがとう」


 楓は京さんに向かって微笑む。


「そ、そんな。私はただ楓さんの言う通りにしただけで、それ以上の事は何も」


「いやいや。あそこで京さんが証拠を抑えてくれたからあのきょ……交渉をうまく運ぶ事が出来たんだ。本当に、感謝してもしきれないよ。……それはそれとして、ねえ慶」


 楓は俺の方を向き、何やら怖い顔をする。


 なんだ。何が始まるんだ今から。ぶっちゃけさっきより怖いんだけど。


「水臭いじゃないか。あんな目に遭っていたなら相談してくれても良かったのに。いや、気が付く事が出来なかった私にも責任はあるけどね」


 楓は悲しそうな顔で下を向く。


「いや、お前に責任はねえよ。俺が隠してただけで」


「何故だい?」


 楓はさっきと同じ顔を俺に向ける。


「いや、その」


 どうしよう。事実を伝えるべきなのだろうか。だとしてもこの場には京さんも居るし、ある程度は濁して言うべきだろう。


「これは俺個人の問題だったからな。俺の力で解決したかったんだ」


「違うだろう」


 楓は即座に俺の返答を否定する。


「君は私を思って黙っていたんだろう? 私を傷つけないように」


 どうやら俺の魂胆は、楓には既に見透かされていたらしい。


 こうなればもう正直に話すしかない。


「……悪かったよ。変に刺激しない方がいいって思ったんだ。傷口に塩を塗る様な真似はしたくなかった」


 俺は正直に白状するが、楓の顔は変わらない。それどころか余計に険しくなっていっている。


「君が私のことを思ってくれた上での行動である事は、私も分かってる。さっきは冷静じゃなかったから大丈夫だったけど、他の場合だったらどうなってたか分からない。正直、今でもあの時の事を完全に克服できた訳じゃないからね」


 楓は一息置いて話を再開する。


「でも、そのせいで君が苦しむのはもっと辛いよ」


 楓の声には様々な感情が込められていると感じた。怒りと悲しみ。それと後悔も。


 今回やった俺の行動。その殆どが裏目に出てしまった。


「君はあの時、私を守ってくれると言った。なら、私にも守らせてよ」


 楓は涙を浮かべながらこちらを見つめる。


「……ああ。すまん」


 俺は楓の目を見て謝罪する事しかできなかった。何度考えても、それ以外の言葉や選択肢が出てこない。


「分かってくれたのなら良いよ。これからは、2人で支え合っていこうね」


 楓は俺に向かって笑いかける。その顔にはさっきの険しさは無くなっていた。


 俺が少し安心して目を横に反らした時、京さんがオドオドとしているのが目に映った。


 そう言えば、京さんは楓の昔話を知らないんだった。そりゃ困惑もする。


「あ、あの、すいません。その、状況が理解できなくって」


 京さんは焦りながらそう答える。


「まあ、だろうな。これはその、あれだ。報連相はしっかりしようって事だ」


「そんなお仕事の心得みたいな内容だったんですか?」


「そうそう」


 俺がそう言うと、廊下のスピーカーからチャイムが鳴り響いた。時計を見ると針は五時を指している。


 チャイムが鳴り終わると、それが合図だったように周囲に漂っていた緊張感がプツリと何処かへ消えた。


「もうこんな時間なんだね。部活、抜けて来たけど怒られるかな」


 楓は冗談まじりにそう言う。


「そうなったら俺も謝ってやるよ。大元の原因だしな」


「私も一緒に行きます。楓さんを呼び出したのは私ですし」


「それは心強いね」


 俺達は笑い合う。久しぶりの光景だった。


 いつも通りの日常がこれ程までに尊い物だったと実感させてくれた勅使河原には1ミクロン程度の感謝を示そう。

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