【第38話】ちぎれたネックレス
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「ダッセえな。尻もちなんかついてよ」
勅使河原が笑うと、取り巻き達も同じように笑い始める。
「いやいや。俺なんてあなた達の足元にも及びませんよ」
俺はよっこらせと立ち上がり、勅使河原を見つめる。そしてちょっとため息をつき、今まで思っていた事を口にする。
「大体なんなんだお前らは。しょうもねえ嫌がらせをしたかと思えば、ちょっと煽られたらムキになりやがって。どの角度で頭ぶつければそんな風になれるんだ?」
ヒロトには煽るのはやめろと言われたが、もう手遅れだろう。
なら当初通りボロを出させる作戦でいくしかない。
俺はポケットに手を入れ、バレないようにスマホの録音アプリを起動する。
これで準備は万端だ。さあケリをつけてやるぜ。
「なんだそりゃ。俺たちがお前に嫌がらせしたって証拠はあんのかよ」
勅使河原は胸を張りながらドヤ顔でそう返した。小学生みたいな態度だ。
「わざと俺にぶつかったり、さっきみたいに騒いで言う事聞かなかったり。これが嫌がらせじゃないなら病気か何かだぞ。嫌がらせだとしても幼稚だけどな」
「へっ。何かと思えば。どれもこれも身も蓋もない話ばっかだな。第一、なんで俺がお前みたいな奴に時間を割いてやらなきゃならないんだ? え?」
勅使河原は鼻で笑い、俺に問いただす。
「理由だ? そりゃお前、恋だろ」
「は?」
「お前あれだろ。楓の事好きなんだろ? それで個人的に気に食わない俺が楓と一緒にいる所を見て嫉妬に狂い、犯行に及んだって事だ。あの投稿、楓だけは悪く書いてなかったもんな。どうだ? 違うか?」
俺が答えると、勅使河原の顔が段々と赤く染まっていく。これは怒りからなのか、それとも恥ずかしさからなのかどちらなのか。
「うるせえよ! だったら何だってんだ!」
勅使河原は叫びながら俺の胸倉を掴む。明らかに逆上した様子だ。
これはもう少し、と言うか普通にアウトだろ。
「いや別に。ただ本当にそれが理由なら面白いなってだけだ」
俺は胸倉を掴まれながらそう答える。
「だってそうだろ? 自分の恋が実らなかったからって俺に八つ当たりして憂さ晴らしなんて。小学生じゃねえかまるで」
続けて煽りを繰り出す。勅使河原の顔は梅干しの一歩手前だ。
「まあ違うってんなら別にいいんだけ」
俺が話している途中、勅使河原は両手に力を籠め、俺を突き飛ばす。その衝撃で俺は後ろから倒れた。とっさの所で受け身を取れたから良かったものの、危うく頭を強打するところだった。
「おい山崎! 暴力は不味いって!」
今まで傍観を決め込んでいた取り巻き達も流石に焦ったのか、皆必死になって勅使河原を止める。しかし勅使河原は止まらず、今度は横たわる俺の腹に強烈な蹴りを入れようとしてきた。
俺は横に転んでその蹴りを避け、その間に取り巻き達が勅使河原を止めに入る。
「おい、大丈夫か?」
取り巻きの一人が救世主面で俺に手を差し伸べる。
「うるせえよ。都合悪くなったら味方面しやがって。……あっち行ってろ」
俺は取り巻きの保身からの親切心を断り、抑えられた勅使河原の方を見る。勅使河原は羽交い絞めにされながらも未だ興奮が治まらないのか、俺を睨み付けて息を荒くしている。
「ムカつくんだよお前! 嫌われ者のくせに黒崎とつるみやがって!」
勅使河原は取り巻き達に雁字搦めにされながら俺に罵声を浴びさせ続ける。
「……馬鹿だよなお前」
俺の口からぽろっと出た言葉が勅使河原の耳に入る。その瞬間、少し落ち着きを取り戻しかけていた勅使河原が、再び興奮状態へと戻る。
「ああっ? てめえもう1回言ってみろ!」
勅使河原は叫びながら暴れ、取り巻きの拘束から逃れこちらへ寄って来る。
「偉そうに言葉並べやがって! 強がって効いてないふりすんので精一杯の癖によ!」
そう言いながら俺の胸倉を掴んで引き上げる。そしてそのまま俺を壁にぶつけ、顔を近づける。それから俺の胸元を見て舌打ちをした。
「なんだこのだっさいネックレス」
勅使河原はそう言いながら俺のネックレスを掴み、後ろへ引っ張る。ネックレスは俺の首が支点となり、四方八方へと飛び散った。
その瞬間、俺の頭の中で何かが切れる感覚が走る。
「お前何やってんだ!」
俺は勅使河原の胸倉を掴み、反対の壁に押し付ける。その時に出た声は、恐らく俺の人生で一番大きかっただろう。
何故こんな行動を取ったのかは分からない。
「お前、あれが何なのか知ってんのか? お前みたいなやつが、その場の勢いで壊していいもんじゃねえんだぞ!」
頭に血が昇るとはこういう事なのだろう。とにかく冷静では居られない。
いきなりの事に、勅使河原もポカンとしている。
「うるせえな。そんな安物。また買い直せばいいだけだろうが」
勅使河原はそっぽを向き、明らかに小さくなった声でそう答える。その返答に、俺は更に冷静さを失う。
「だからそんなもんじゃねえって言ってるだろうが!」
俺は叫びながら勅使河原を何度も壁にぶつける。
「やめろ涼川!」
「そうだ落ち着け!」
取り巻き達も俺を止めるため必死に抑え込む。さっきとは真逆の状況だ。
「うるせえ! 金魚のうんこが。汚い手で触るんじゃねえよ!」
俺は身体を揺らして取り巻き達に抵抗し、拘束を剥す。そして再び胸倉を掴もうと詰め寄り手を伸ばした時、その手を掴む別の手が現れた。
「か……楓」
突然の楓の登場に、俺を含めたその場にいる者全員が啞然とする。
「駄目だよ、慶。それ以上やったら、君も戻ってこれなくなってしまう」
楓は俺の手を掴みながら微笑む。そして俺の身体を自分の方へ向け、前から抱きついた。
「ああ、なんて声を掛けたらいいか。私の所為でこんな目に遭ってしまって」
楓は俺の顔を見つめ、手でなぞる。
「でも、もう大丈夫だよ。今回は、私が君を守るから」
楓はそう言って俺から離れると、さっきまでの笑顔を仕舞い、冷たい表情を浮かべて勅使河原の方を向いた。




