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【第36話】事態の悪化

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、ブックマーク、ポイントの方よろしくお願いします。

 翌日。俺の悪い予感は見事に的中した。

 

 俺の机の上には花瓶が置かれ、椅子も見当たらない。考え方を変えれば、今までのキャラが集まって共闘する激アツ展開だ。

 

 面倒くさい嫌がらせもこれで最終章。だと思いたかった。

 

 しかし現実は悲惨だ。これを機に嫌がらせの頻度は更に加速していく。今までは週に1、2回程度のペースだったが、この日を境にほぼ毎日行われるようになった。

 

 ある時は腕箱の中身をグチャグチャにされ、ある時は机の引き出しにゴミが敷き詰められていた。

 

 毎日様々なレパートリーで俺に嫌がらせをしてくる。これを考える思考力と実行に移す行動力をもっと他の事に使えよ。大した事できないだろうけど。


「流石にこれは酷いよ」

 

 ひっくり返された俺の筆箱を拾いながら、ヒロトは呟く。


「慶の性格を改善すれば事態も終息するかと思ったが、逆効果やったな。この実験は失敗や。俺は責任を取って辞任するわ」

 

 こいつ。自分に火の粉が降り注がないうちにとっとと離反しやがった。辞任すれば責務を果たした事になると思ってるお偉いさんみたいな思考してんな。


「それにしても、一体誰がこんな事してるんだろう」


「さあな。よっぽどの暇人か、それかわざわざ時間作ってる馬鹿かのどっちかだろ」

 

 正直な話、犯人の目途は付いている。昨日の勅使河原の目と、今日のこれ。こんなに分かりやすく犯人ですと主張してるのも珍しい。

 

 だけども証拠が無い。俺が勅使河原の下へ行って「お前が犯人だろ」って言っても白を切られて余計に立場が悪くなるのが落ちだ。

 

 かと言って証拠を集めようにも難易度が高過ぎる。やってることの割にリスクマネジメントはちゃんとしてるのがムカつくな。


「また何もしないの?」

 

 ヒロトは不安気に尋ねる。


「どうしようもないしな。それにしょうもない暇人に構ってやるのも癪だろ。なっアキラ!」


「やめろやめろ肩に手置くな。二次被害防ぐ為に離反したのに台無しやろうが。いつも辛辣やのに調子いい時だけ友情を演出しやがって」

 

 やっぱりこういう時アキラは便利だな。道連れにしても全く心が痛まないしむしろ爽快な気分になる。

 


 

 それからも俺に対する嫌がらせは続いた。犯人は毎度毎度、俺が居ない合間をぬって机に何かしてとっと姿を消すため犯人の特定は相変わらずできていない。

 

 何で机だけなんだよ。もうそろそろ机君限界だぞ。最終ラウンドのボクシング選手ぐらいボロボロだぞ。


「……ちゃん。……いちゃん。お兄ちゃんってば!」


「えっ?」


 知らぬ間に上の空だった俺の意識は、小春の声によって地面へと着地する。


「もうお兄ちゃんどうしたの? 何? 大した事してないのに疲れてるの?」


「俺だって色々頑張ってるんだぞ」


 興味ない連中の名前覚えたり笑顔の練習したりして疲労が溜ってるんだ。仕方ない。


「んもう。心配だよ小春は。最近ボーっとしてる事多いし」


「そうか?」

 

 小春の言い分だと、さっきが初めてじゃないっぽいな。それに覚えがないって事は、気が付かない内にボーっとしてたって事か。

 

 家に着くと気が抜けるからその影響もあるんだろうけど、そこまで疲れてるなら俺も気を付けないとな。


「とにかく気を付けてね! 倒れたりされたら嫌だから」

 

 小春は呆れ顔でご飯をかきこむ。


「言われなくとも分かってるよ」

 

 


「なんか腹立ってきたな」

 

 俺は最早恒例となった荒らされた机の片づけをしながら呟く。

 

 因みに今日は筆箱の中身が散乱していた。ネタ切れだろうか。


「確かに狭い歩道走ってるチャリって腹立つわな」


「若干わかるけどちげえよ。この嫌がらせについてだよ」

 

 昨日は人格矯正による疲労かと思ったが、そもそもこの嫌がらせがなければ人格矯正自体がなかったんだ。

 

 そう考えると、くだらないことだと嘲笑ってたこの行為も途端に腹が立つ。なんで俺があんな奴に悩まされなければならないんだ。


「でもどうするの? どうしようもないんでしょ?」


「だよなあ」

 

 犯人の目星は付いてるが証拠が無い。誰かに頼ろうにもそんな奴はいない。

 

 京さんに背負わせるには荷が重いし、楓は論外だ。あいつの嫌な記憶を無理に思い出させる必要はない。

 

 となると、向こうが尻尾を見せるのを待つしかない。つまり俺がとるべき行動は。


「だってそうだろ? 俺の事嫌いなくせして、毎度毎度こんな手の込んだクッソつまらない嫌がらせの為に朝早く来て時間使ってんだぜ? 本当にどうしようもない馬鹿だよな!」

 

 俺は他の生徒にも聞こえる大きさで声を上げる。この行動に、何人かが耳をピクっと動かせてこちらを向いた。


「いきなりどうしたの慶君」


「ついに現世に未練が無くなったんか」


「人を地縛霊みたいに言うな」

 

 俺がとった行動。それは勅使河原を挑発することだ。俺の独断と偏見によると、勅使河原は感情的になりやすい性格だと見解が出ている。

 

 恐らく煽りまくればもっと直接的な行動に走ってボロが出てくるだろう。そこを抑えてジエンドよ。完璧だなこの計画。


「思ったんだ。恐れるだけ無駄だってな」

 

 俺は流し目で勅使河原の方を見る。案の定というか、勅使河原は苦虫を嚙み潰したような顔で俺を見ていた。


「じゃあ今回も何もしないの?」


「時間の無駄だからな」

 

 俺は勅使河原の方を向いて返事をする。勅使河原の表情はもう限界の様だ。

 

 正直見ている分には面白い。これはアキラを超える逸材になるかもしれない。

 

 俺が娯楽を楽しんでいると、早速向こうから反応があった。勅使河原はおもむろに立ち上がり、無意味に教室を一周して俺の前を通り過ぎる。

 

 その時、わざとらしく俺の机を自分の太ももで蹴り上げた。俺は日々鍛え上げた腕力で荒ぶる机を固定し、無事に被害を抑えることに成功した。


「っち」

 

 勅使河原は俺にも聞こえるぐらいの音量で舌打ちをし、そのまま去っていった。

 

 これもう「自分が犯人です」ってアピールしてるもんじゃねえか。これは相当頭に来てるな。

 

 だけどまだ証拠としては弱いな。もっとこう、どこに出しても恥ずかしくない決定的な証拠が欲しいもんだ。


「嫌がらせして不発ってやっぱり馬鹿だと思うんだよ。なっアキラ」


「やめろやめろ背中叩くな。俺を同志みたいに扱うんやめろ」

 

 とりあえず追加で挑発してみるが、これといった反応は見られない。

 

 流石に最低限のラインは弁えているのだろう。俺から見ればかなりオーバーしてるように感じられるけど。


「慶君もしかして、山崎君の事煽ってる?」


 ヒロトが俺に詰め寄る。


「まさか。俺はただ持論を展開してるだけで」


「そういうのいいから」

 

 ヒロトは顔を俺にグイっと近づける。


「いや、まあ、若干と言うか……それが目的と言うか。その、ヒロトさん怖いっす」

 

 俺を見つめるヒロトの目はいつになく真剣だ。アキラも隅でビクビク震えている。

 

 ヒロトは勅使河原、もとい山崎の方をチラッと見てから再び口を開く。


「あのね慶君。山崎君は慶君が思ってるほど利口な人じゃないんだよ? 感情的になりやすいし、要所要所で幼稚だし」


「結構ズバズバいくな」


「事実だから。つまり何が言いたいかと言うと、あんまり挑発したら大変な事になるよ」

 

 まさかと言いたいが、あいつならやりかねないってのが正直な感想だ。いい案だと思ったんだが、やっぱりやめた方がいいのか。


「わーったよ。とりあえず他の手を考える。できるだけ平和なやつ」


「絶対だよ!」

 

 ヒロトは人差し指を立て、俺の顔に近づける。

 

 ここまでされたら守るほかあるまい。結局俺は勅使河原を煽るだけ煽って自ら危うい状況に陥っただけだ。

 

 選択肢を間違えたか。いい線行ってると思ったんだがな。

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