【第34話】変わらぬ事態
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授業中、俺はアキラに言われた通り、先生に当てられた生徒の名前を覚える事に徹した。
意外と当てられる奴らが多かったのもあって、結構な名前を覚える事が出来た。
「あいつは?」
「えーっと高橋?」
「あの子は?」
「確か、山本だ」
「じゃああいつは?」
「や、やま、いや違うな宮本だ」
それからもテストは続き、最終的に俺は三分の一程度の生徒の顔と名前を一致させる事が出来ていた。
「うーん。まずまずってとこかな」
「せやな。まあ最初にしては上々かな。正味二人ぐらいしか覚えられへんと思っとったし」
「俺の事舐めすぎだろ」
「日頃の行いじゃボケ」
アキラの返答に、ヒロトも「そうだよ」と乗っかかる。
「まあこのペースやったら1か月もすれば全員分覚えれるやろ」
アキラから地獄の様なワードが聞こえて来たが気のせいだろう。これが後1か月近く続くなんて俺の勘違いに決まってる。
「よし、次は家庭科や。因みに先生の名前ぐらいは覚えとるよな?」
「……」
「論外やな」
「どうやってこの先の人生を歩んでいくつもりなんだろうね」
ひでえなボロカスだよ。俺が何をしたって言うんだ。
「とりあえず先生の名前と、他の生徒の名前両方を覚えるんや。行くぞ慶。ついてこい」
アキラは意気揚々と立ち上がる。なんか他人の振りしたかったけど、ヒロトも元気よく立ち上がったので俺も続く。
アキラの後ろを歩き教室へ出ようとすると、横からドンっと誰かに追突された。俺はバランスを崩し、持っていたノートと教科書を散らかして倒れる。
「おう涼川。教科書を汚すとは学生の風上にも置けない野郎だな」
俺にぶつかって来た張本人。勅使河原と不快な仲間達は、倒れた俺を嘲笑って教室を出ていった。
「慶君大丈夫?」
ヒロトは天使の様な顔を俺に向け、手を差し伸べる。まるでお釈迦様が垂らした一本の蜘蛛の糸のようだ。
「ああ、痛みが走るがまあ大丈夫だ」
俺はヒロトの温かい手を掴みながら起き上がる。
「あいつらお前が来るのを待ってたみたいやったな。絶対狙っとったで」
アキラが勅使河原達に苦言を呈す。
「ずっとこっち見てたしね」
「なるほど。つまり暇人って訳か」
俺を突き飛ばす為にわざわざ。うっおいたわしい。相当やる事が無いんだろうな。
「まあ、言われてみればそうやが。本人の前では言うなよ」
アキラは廊下を歩いている途中でくるっと回り、俺を指さす。
ヒロトとかがやるならともかく、こいつにやられるとムカつくな。
「俺がそんな奴に見えるか?」
「当たり前やろ」
「何ならさっきも時間さえあれば言ってたよね」
相も変わらず散々な言われようである。俺の事を理解しているのかそうじゃないのか分らんな。
その後も俺は順調に生徒と教師の名前を覚えていった。二週間後にはクラスの七割ぐらいは顔と名前が一致するレベルにまで到達出来ていた。なんて聞き分けのいい子なんだ俺は。
因みに先生の名前はうろ覚えである。
今は移動教室からの帰りで、俺はアキラにグチグチと言われながら廊下を歩いている。
「よし、もうそろそろコミュニケーションに移行するか。それをするにあたって何よりも重要なのはスマイルやスマイル」
アキラは両手の人差し指で頬を指し、笑顔を強調する。
「先ずはお手本や。ヒロト、頼むで」
ヒロトは少し困惑した後、俺に向かって満点の笑顔をして見せた。
心が浄化される。今までの悪行を反省し、天へと召されてしまいそうだ。
「慶。お前はここまでとは言わんでも、せめて今よりかは愛想良くなれるように努力するんや。一先ず一週間ぐらい笑顔の練習やな」
アキラは偉そうな口調で助言しながら、教室の扉を開ける。
「うるせえな。俺は元より愛想いいだろ」
「ヒロト。鏡持ってきたって」
「美容院とかに置いてる二枚組の奴持ってくるね」
なんて冗談と思いたい会話をしながら席へと着くと、ある異変が起こっていた。
俺の机には花の添えられた花瓶が1つ置かれている。いつもは教室の後ろの棚に飾られているやつだ。
「おいアキラ。一応聞きたいんだが、俺って今足あるか?」
「能は無いけど足はあるな」
「そうか」
俺に対する嫌がらせも、ここまでくると悲惨だな。
「しゃあねえな」
俺は花瓶をアキラに渡す。
「なんやねん」
「行って来い」
「物が物やったら完全に鉄砲玉やな。現実はパシリやけど」
アキラは文句を言いながら花瓶を持って後ろの棚へ向かう。
聞き分けのいい奴だ。
「2回目だね。慶君の机に何かされてるの」
「そうだな。前回椅子隠されて、今回は花瓶か。無駄に労力のかかるしょうもねえ行為だ」
「でも怖いよね。今はこれだけで済んでるけど、ずっとこんな感じって訳でもないだろうし」
「これから酷くなるか、飽きてやめるかの二択か。前者だけは勘弁して欲しいな」
正直言って俺からどうこうする気は一切ない。こんなしょうもない奴にわざわざ構ってやる気は無いし、それこそ時間の無駄だ。
だから飽きてやめてくれるのを祈るほかない。でもわざわざ祈るのも癪だから誰か代わりに祈ってくれ。




