【第23話】王子様襲来
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授業時間をフルに使い、更には休み時間も追加したがいい案は全く出てこなかった。
そしてやってきた昼休み。俺はいつも通り楓と飯を食べるため階段に行かなくてはならないんだが、今日はどうもすんなり行かせては貰えなそうだ。
「ヒロト。飯の時間だな」
「そうだね」
「いやその、離して欲しいんですけど」
昼休みが始まった瞬間、ヒロトは俺を羽交い締めにして離さない。本来ならとても喜ばしい状況なのだが、今日に関しては恐怖が勝つ。
「慶君が黒崎さんとの関係を正直に話してくれたら解放するよ。というか、いつも昼休みになるとどこかに行ってたのって、黒崎さん関連だよね?」
「え? い、いやそれはだな」
別に隠す様な内容でもないし正直に話しても良いんだけど、ヒロトが怖くて話せない。怖いよこの子。悪魔だよ。堕天使だよ。
「とっとと白状した方が身のためやぞ慶。俺はヒロトが怖くてあんまり近づかれへんから出来れば早めに頼むわ」
アキラに関しては最初の内は威勢が良かったのに、段々とヒロトの威圧感に圧されてすっかり野次馬に成り下がっている。こいつはもう黙っていて欲しい。
俺が対応に苦戦していた時、教室のドアが音を立てて開いた。そこまでなら別に珍しいことではないのだが、そこから現れた人物が問題だった。
「く、黒崎さん」
突然の楓の登場に、クラス中が湧き上がる。ハリウッドスターが来日した時みたいだ。空港に大勢押し寄せてやがる。
「突然ごめんね。慶……涼川君はいるかな?」
「え? 涼川?」
皆の頭にはてなマークが浮かび上がり、そして一斉に俺の方を向いた。中には俺と楓の顔を交互に見てる奴もいる。
視線が集まったおかげで探しやすかったのか、楓は俺の方へ向かって歩いてきた。
「お取込み中だったかな?」
楓は俺に微笑む。
「まあぱっと見では取り込まれてる最中だよな」
「……ねえ黒崎さん」
俺の背後でヒロトが口を開く。
「君は……ヒロト君だね」
「知ってるんだ」
「もちろん。慶から話は良く聞いてるよ。ヒロトの前では最高級のダイヤモンドも単なるビー玉になり果てる。だったかな」
楓の発言に、ヒロト小さな声で「そうなんだ」と呟いた。
「それで、どんな要件かな?」
「あ、うん。慶君とはどんな関係なのかなって」
ヒロトの発言に、クラスの奴らが耳を傾ける。皆気になり始めているのだろう。
「どんなも何も、単なる友達だよ」
楓はそう言ってまた俺の方へ近づいてきた。もう目の前に楓の顔がある。
「本当にそれだけ?」
「そうだよ。慶は私の大切な友人。ただそれだけさ」
楓は俺の頬に手を当てる。
「だから、もう慶を借りてもいいかな? 一緒にご飯を食べる約束をしているんだ」
「え? あっうん。いいよ」
ヒロトは腕を離して俺を解放した。怖い以外はとても心地よい時間だった。
「あ、あの」
ヒロトの質問が終わったのも束の間、今度は別の女子が楓に話しかけてきた。
「どうしたんだい?」
楓は相変わらず、その女子に完璧な微笑みを返した。
「その、涼川とはどういう経緯で知り合ったんですか?」
なんだその新婚限定のテレビ番組みたいな質問は。しかし楓はこの質問にどう対応するんだろうか。本当のことは言えないだろうし。
「慶とは帰り道が一緒でね。駅で偶々会って、そこから一緒に帰るようになったんだ」
「まあそうだな」
これはなかなかに上手い返し方だな。噓は何1つとしてついてないし。
「ほ、本当ですか?」
質問者の女子はまだ納得いかない様子で楓の方を見ている。
諦めろ。おおよそ事実だから。
「本当さ。それに、私が君たちに噓をついた事があったかい?」
楓は女子の顎に指先を添え、そのまま上方向へクイっと持ち上げた。
「な、ないです」
女子は楓と目が合って照れているのか、顔を赤くして目を右に逸らす。
これは見たことがある。なんかいつの間にか流行っていた顎クイってやつだ。小春が誰かにやって欲しいって言ってたから覚えてる。
「なら、納得してくれるよね?」
「は、はい」
女子はすっかり目をハートにして放心している。そして他の奴らも、男女問わず同じように目をハートにして放心していた。
そう言えば楓って本来こんなキャラだったなと、改めて認識させられる瞬間だ。
それにしても俺は今何を見せられてるんだ。
「じゃあ慶行こうか」
「お、おう」
俺は楓に手を引かれて教室を後にする。去り際に流し目で教室の中を見てみたが、大半の奴らはまだ状況を理解できていないようだった。
ヒロトはちょっと表情が明るくなっていたが、アキラは最早人の形を保っていなかった。
これあれだ。帰ってきたら質問攻めにされるやつだ。まあいいや面倒くさいしシカトしよ。




