【第22話】四面楚歌
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翌日。俺はいつも通り弁当を作り学校へ向かう。
昨日かなり大きな口を叩いたが、俺がやる事は変わらない。いつも通り学校へ行き、いつも通り楓と接する。
特別なことをしようとは思ってないし、楓も多分望んでないだろう。
電車で席に座りボーっと窓の外を眺めている。いつもの駅で楓が車内に入ってきた。
「おう楓。おはよう」
俺が軽く手を挙げて挨拶すると、楓はこっちに気が付き駆け寄って来た。
「おはよう慶。今日もいい天気だね」
楓は挨拶を済ますと俺の左に座る。
楓の顔は昨日とは違い、すっかり元に戻っていた。昨日の件でスッキリしたのか、1回寝て落ち着いたのかは知らないが、元気になったのならよかった。
「だな。あっそうだ今日の弁当なんだが」
特別なことはしないと言ったが、今日の弁当はちょっと気合を入れた。冷蔵庫のお肉が使って欲しそうにこっちを見てたからな。
「今日は冷蔵庫に昨日の余り物の牛肉が鎮座してたから……あの、楓さん?」
俺が弁当を取り出す為にリュックを開けようとした時、楓が俺の左腕に抱きついてきた。両腕でしっかりと抱きつかれているため身動きが取りづらい。
それに加えて楓のとても立派なお胸が俺の腕に当たっているため、何とも大変な状態だ。
見るのは平気だが触れるのは駄目だ。経験値が無いからな。
「ああ、気にしないで」
「いやそれはちょっと無理っす」
元々距離感がおかしかったが、今日は一段と近い。今までがゼロ距離だとしたら今日はめり込んでいる。
何があった。昨日別れてから今日の朝までに何があったんだ。新しい自分へ生まれ変わったのか? 今日がもう一つの誕生日なのか?
「君は私の傍にいてくれると言ったからね。私も君の傍にいたいのさ」
なるほど、俺の責任でしたか。
「なら、いいのか?」
まあ楓がそうしたいと言うなら無理に否定する必要もあるまい、よな? 何が正解かのかよく分からない。
とりあえずは現状維持でいいだろう。
俺と楓は電車を降りて学校へと向かう。
あれから楓はずっと俺の腕に抱きついていたが、時間が経つにつれて俺は平常心を取り戻すことに成功した。
流石俺。脅威の適応能力だ。将来はきっと優秀な転勤族になるだろう。初任給は40万くらい欲しいな。
今は流石に歩きづらいからという理由で腕に抱きつくのは控えて貰っている。控えて貰っているが、互いの肩がほぼ触れるぐらいの間隔で歩いている。
傍から見れば完全に付き合っているように思われるだろう。
「楓。もうすぐ学校だけど」
「そうだね」
あっ、これこのまま行く感じですね。まあ別に俺はなんの支障もないから良いんだけど。
楓は何かと面倒くさいのに絡まれそうだ。相手が俺なら特に。
「お前がいいなら特に口出しはしないんだがよ。世の中には面倒くさい奴らが大量にいてな」
「どんな人だい?」
「例えばだな」
俺が何かいい例は何かと考えていた時、視界の隅に見覚えしかないキノコヘッドが移り込んだ。食い荒らされた毒キノコみたいな頭をした関西人は、叫んでる絵画の様に大口を開けて俺の方を見ている。
「例えば、あそこに大口を開けて突っ立ってる二足歩行の毒キノコがいるだろ?」
「毒キノコ……。ああ、あの子だね」
「あいつに見つかるとな、頭の中で勝手に妄想を繰り広げた挙句に正答率五パーセントぐらいのゴシップになって世界中を駆け回ることになる」
「それは凄いね」
「だから気を付けろよ」
俺は毒キノコの放置し、楓と学校に向かう。道中他の生徒から鳩が豆鉄砲を食ったような顔でこっち見てきたが、楓は特になんとも思ってはいなかったようだ。
校門をくぐって校舎に入り、階段を登って教室のある階まで着いたところで、俺達は一旦解散した。
俺が教室に入ると、ヒロトが天使の様な笑顔で俺に向かって手を振っていた。
これだけで一週間頑張ることが出来る。ヒロトの存在はこの腐った世界には欠かせない。
感謝の気持ちを持ちながら、俺はヒロトの下へ向かう。もう少しで着くというところで、教室の入口のドアが勢い良く開いた。
入口にはアキラが息を切らしながら立っていたので、俺は無視して自分の席に座り、ヒロトに朝の挨拶をする。
「おはようヒロト。今日も天使の様な可憐さだな。絵画はどこの教会に飾ってるんだ?」
「もう慶君!」
俺とヒロトの和気あいあいとしたとても素晴らしいひと時。そんな志向の時間を邪魔するかの様に、アキラが割って入って来た。
「なに人を無視してイチャイチャしとんねん! 慶、俺はお前に聞きたいことが山のようにあるぞ」
血走った眼でアキラは騒ぐ。
「っち。なんだアキラ。今日も酷い有様だな。どこの解体屋に置いてあるんだ?」
「誰が顔面スクラップじゃ。それよりも聞きたいことがあるんや。俺はな、返答によってはお前を一生恨むぞ」
アキラは俺の目をジッと見つめながらそんなことを言った。
何故だろう。こいつがやるとどんな行動でも虫唾が走る。
「慶。俺の目が正しければさっき黒崎さんと仲睦まじそうに歩いとったよな」
「そうだな」
俺が返答すると、アキラは俺の肩を掴み前後に揺さぶり始めた。
「どんな手を使ったんや! 弱みか? 何か弱みを握ってそれを餌に脅迫したんか? とっとと白状せいこのジャパニーズマフィアが!」
とんでもない言い掛かりが飛び出してきた。確かにある意味では楓の弱みを握っていると捉えられるが、別に楓をどうこうしようという気は俺に無い。
ここは楓の為にも身の潔白を証明しなくては。
「落ち着けジャパニーズマッシュルーム。俺は別に楓を脅迫したりなんてしてない」
「楓……やと」
しまった逆効果だ。いつもの癖で下の名前で呼んでしまった。
「おどれ! 俺は絶対許さんぞ。合法的に手に入る道具だけを使って確実に息の根止めたる」
「ちょっとでも罪を軽くしようとしてんじゃねえよ。息の根止める時点で犯罪だろうが」
ホント面倒くさい奴に見つかってしまった。仕方ない。ここは奥の手だ。
「ヒロトー。アキラが俺をいじめてくるよー」
俺は助けを求めながらヒロトに抱きつく。優しいヒロトなら俺の気持ちを察して戦艦レベルの助け舟を出してくれるに違いない。
残念だったなアキラ。追い詰められてるのはお前の方だぜ。
「……慶君は黒崎さんとどんな関係なの?」
しまった四面楚歌だ。助け舟どころか思いっきり敵船じゃねえか。
「え、いやその」
ヒロトの目が怖い。暗い目でじっと俺を見つめてくる。どうする。俺はどうするのが正解なんだ? 正直に「ただの友達です」なんて言って二人が信じる訳無いし。
畜生、最近やけに頭使う場面に出くわすな。今まで使ってこなかった分使ってバランス取れってかやかましいわ。
完全に追い詰められたかと思った時、教室にホームルーム開始を知らせるチャイムが鳴り響いた。これはチャンスだと感じた俺は、直ぐに話を切り出す。
「ほら、チャイム鳴ってるし続きは授業の後ってことでさ」
俺はいそいそと席に座り、授業の用意を始める。二人は今だ一切納得のいかない顔で俺を見ているが、そんなことを気にしている場合ではない。
次の授業時間をフルに使って何とかそれっぽい言い訳を考えておかなくては。




