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【第20話】王子様の異変

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、ブックマーク、ポイントの方よろしくお願いします。

 あの一件から数日。山なんたらは何のポーズも無く、俺はいつも通りの平和な日常を過ごしている。

 

 やっぱり考え過ぎだったんだな。金代さんの心配が現実にならなくてよかった。

 

 今はいつも通り、階段で楓と昼飯を食っている。


「このエビフライ、衣の分厚さがエビの身を邪魔しない、程よい厚さでとても美味しいよ。このレタスもシャキシャキで新鮮だね」


 楓は本日も、満足気な顔で俺の弁当を口に運んでいる。作り手としてはこの上ない至福のひと時だ。


 後、心なしか楓の食レポがハイレベルになってる気もする。このまま行くとそこらのグルメブログ顔負けの食レポを習得するかもしれん。


 それとシャキシャキのレタスは凄いの俺じゃなくて、その状態で保存してた冷蔵庫だろ。


「昨日の晩飯の残りだけどな。一日置いても結構いけるもんだ」


 冷蔵庫さまさまだな。技術の進歩と我が家の経済力に感謝。


「そうだ。慶、今週の日曜日空いてるかな?」


「埋まってる方が珍しいな」


「なら、ここに行かないかい?」


 楓がそう言ってスマホの画面を俺に見せる。そこには『天使のパンケーキ』と書かれたホームページが映し出されていた。


「パンケーキか」


「今評判のお店らしいんだ。場所も近いしどうかと思ってね」


 パンケーキはしばらく食べてないし、久しぶりに食べたいな。あのフワフワの生地と甘いメープルシロップを堪能したいぜ。


「いいな。日曜日だっけ?」


「ああ。四時過ぎには閉店してしまうから、二時に行こうかと思うんだけど。どうかな?」


「おう。全然いいぞ」


 俺はスマホを操縦し、スケジュールアプリに予定を入れる。


 買ってから一切使ってないどころか、存在すら知らなかったアプリだが、最近になって頻繫に使うようになった。


 アキラ達と遊ぶ時は基本行けたら行くのスタイルだから、予定なんか気にしないし。


「最近は、慶と何処かへ出かけるのが生きがいになっていてね。また楽しみで寝不足になりそうだよ」


 寝不足という物騒なワードを口にしながら、楓は頬を緩める。


 それとさりげなく、俺の中で楓と遊びに行くことの難易度が上がった。まさかそこまで楽しみにしてくれていたとは。


 そうなれば、全力で楽しませなければならない。日曜日まで時間があるし、下調べぐらいはしておこうかな。


「はしゃぐのはいいけどしっかり寝ろよ」


「分ってるさ。折角の楽しいひと時を、満喫出来ないなんて嫌だからね」


 弁当のエビフライを飲み込み、楓は爽やかに笑う。こんな透明感のある状態でエビフライが食えるのは、世界を探してもこいつ位だろう。




 時が経って日曜日。俺は待ち合わせ場所である駅前に来ていた。


 いつもは利用しない駅だけど、降りてみたら結構大きいし綺麗な駅だ。駅周辺も見た感じ発展してるし、店も多くて住みやすそうだ。


 引っ越す予定もお金も無いけど。

 

 俺は周りを見渡して楓を探す。日曜日ということもあって人通りが結構多いが、楓は目立つし問題なく見つかるだろう。

 

 楓の奴、相当楽しみだったのか昨日も興奮気味に電話してきたし、早く見つけて一緒に店に行かなければ。

 

 もう一度、今度はよく目を凝らして周囲を見る。すると、見覚えのあるシャツを着た人物が視界に入ってきた。

 

 楓だ。先週行った服屋で買ったシャツを着て、二人の女子に絡まれている。

 

 またか。しかし男女問わずよくモテるなあいつ。

 

 どうせまたご丁寧に対応してるんだろうし、適当に声かけて連れ出すか。

 

 俺は声を掛けようと楓の方へ向かう。楓の顔がハッキリと見えるまで近づいたところで、俺は楓の様子が、どこかおかしい事に気が付いた。

 

 俺が感じた違和感、その正体は楓の表情だ。

 

 いつも人に向けている爽やかな笑顔では無く、まるでトラウマを刺激されているような、絶望と恐怖を含んだ表情に見える。

 

 それに、いつもなら俺が近づけば真っ先に気が付いて声を掛けてくるはずだ。だけど、今日はそれがない。

 

 楓の目線は、自分に絡んでくる二人の女子に固定され、瞬きすらしていない。

 

 心なしか、その瞳にも光がない様に見える。明らかに異常だ。

 

 俺が更に近づくと、楓に絡んでいる二人の女子の話し声が聞こえてきた。


「黒崎さーん? どうしたの黙り込んじゃって。折角久しぶりに会ったんだから、もっとお話しようよー」


「私、黒崎さんのお家行きたいなー。お金持ちなんでしょ? だったら家も広いし二人ぐらい余裕だよねー?」

 

 2人の女子は、頭が悪そうに笑う。


「それとも、また昔みたいに遊ぶ?」


「いーねーそれ! たまには昔を懐かしむのも大事だしね!」


 話し方や声のトーン、その態度に至るまで、対人関係がほぼ皆無の俺ですら最悪だと分かる。


 無意識なものでは無く、明らかに悪意が込められていた。


「あ、その、私は……。今日予定があって」


 やっと口を開いた楓の声は、震えているうえに籠っている。楓のこんな声は、今までに聞いたことが無い。


 俺が声を掛けようか迷っていた時、楓の瞳から、一滴の涙が流れたのが見えた。涙は頬を伝って、下へと落ちていく。


 その光景を見た俺の心の中で、何かの決心がついた。自分でも驚くほど無意識に、俺は楓の方へ歩いて行く。


「あのーすいません。ちょっといいですか?」


 俺は二人の女子に話しかける。


「誰? あんた」


 二人の内の一人、化粧の濃い海外かぶれみたいな奴が俺を睨み付ける。初対面なのに随分とガラの悪い奴らだ。


 楓も、突然の俺の登場に驚きが隠せない様だ。おかしいな、たしか待ち合わせしてたはずなんだけど。


「いやね。ちょっと探し物をしてまして。ピンクと黄色のツートンで、二足歩行してるイリオモテヤマネコなんですけど。知りません?」


「……は?」


 女子二人の俺を見る目がガラリと変わる。先の少し困惑した目ではなく、本気で頭がおかしい奴を見る目をしている。


「あ、知らない感じで? やっぱ見た目通り頭が悪い。じゃあ七色に光って足がキャタピラのアフリカハゲコウは? あー後、流暢にスペイン語を話す迷彩柄のオオサンショウウオでもいいんですけど」


 女子二人の表情が段々と引き気味になっていく。楓はまだ事態が飲み込めていないのか、口を半分開けてポカンとしている。


「ちょっと。ヤバいよこいつ」


「行こ行こ。関わらない方がいいよ」


 2人は引き気味の顔のままこの場を去っていく。作戦成功だ。

 

 敢えて頭のおかしい奴のふりをする事で相手を警戒させ、楓から離れさせる。人呼んで『頭のおかしい奴のふりをして楓を解放させよう作戦』だ。

 

 ちょっと素が出てしまったが、おかげで楓を解放できた。


「あー楓。大丈夫、か?」

 

 こんな状況に出くわした事が無いから、どう声を掛けたら良いか分からない。

 

 というか声を掛けてもいいんだろうか。


「け、慶。……私は……私は」

 

 楓の目から大粒の涙がこぼれてくる。俺はどうすればいいか分からず、慌ててポケットからハンカチを取り出し、楓に差し出す。


「と、とりあえずこれで拭け。サラサラしてるから。その、肌触りとか良いぞ」

 

 俺はハンカチで楓の涙を拭く。この行動が正しいのかは一切が謎だ。


「後は、どうしよう」

 

 もう何も思いつかない。

 

 俺が困惑しながらアタフタしていたその時。楓が俺の胸元めがけて倒れ込んできた。

 

 何事かと思い、俺はとっさに抱きかかえる。俺の胸元で楓は、泣いて声が枯れたのか、いつもとよりも枯れた声で俺の名前を呼んでいる。

 

 ただ事では無いなんてとっくに気づいてるが、これは想定外だ。今、楓の精神状態は最悪と言っていいだろう。

 

 それに通行人の数も段々と増えてきた。中には楓の事を珍しい物でも見るかの様な目で見ている奴もいる。

 

 その内撮影してネットに上げるやつも出てくるだろう。

 

 そうなったら楓のダメージは更に深くなる。そうならないために、俺がまず取るべき行動は。


「とりあえず、どっかに移動しよう。ここじゃ目立ちすぎる。歩けるか?」

 

 楓は口では返事をせず、静かに小さく首を縦に振る。


「よし。じゃあ行くぞ」

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