【第19話】金代さんの心配
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あの後何度か山なんちゃらからの視線を感じたが、それ以外は特に何も無く、体育の時間は静かに幕を閉じた。
アキラもあれからずっとメソメソしていたが、さして支障は無かったし。なんならこれからもあれぐらいのテンションでいいな。
放課後、俺はいつも通り図書部へと足を運ぶ。図書室の扉を開けて中へ入り、いつも荷物を置いている場所へ行く。
そこには丁度、机に鞄を下ろしている金代さんの姿があった。
「あっ。す、涼川さん。こんにちは」
金代さんはどこかぎこちなさそうだ。そう言えば、昨日のこと聞きたいな。
もしかしたらそれと何か関係あるのかね。
「こんにちは金代さん。そう言えばちょっと聞きたいことあるんだけどいい?」
「えっ。は、はい! どうぞ! 何でも聞いて下さい!」
何か覚悟を決めたような目で、金代さんは俺を見つめる。
そんな決死の戦いに向かうみたいな。俺もちょっと緊張するじゃねえか。
「えっと、昨日の件なんだけど」
「あっあの時はすいません! お二人の邪魔しちゃって!」
腰を曲げて何回も頭を下げる金代さん。俺は慌てて訂正を入れる。
「いやいやいや! 別に金代さん何も悪くないから! ていうか、薄々思ってたんだけどさ」
金代さんの慌てようと言い、昨日の逃走といい。
俺の推測が正しければ金代さんは多分。
「金代さんって、もしかして俺とかえ……黒崎が付き合ってると思ってる?」
昨日も逃げる時ちょっと顔が赤かったし。何ならさっきもちょっと赤かったし。
「え? 違うんですか?」
金代さんは『そんな訳がないだろ』みたいな顔で俺を見つめる。
まあ、その気持ちは分からんでもない。楓は距離感がちょっとおかしいからな。
俺じゃなかったら超えてはならない一線を走り幅跳びで越えているだろう。
「違う違う。俺と黒崎はただの友達だから」
「ほ、本当ですか?」
金代さんはまだ信じられないようだ。
「ホントホント。仏に誓ってもいい」
「あんまりそっちに誓う人は居ないんですけど。じゃ、じゃあ昨日一緒にいたのは」
「ただ一緒に遊んでただけ。黒崎が行きたいって言うからさ」
「なる……ほど。じゃあ本当に私の勘違いだったんですね」
金代さんも納得したのか、そっと胸をなでおろす。
「そういう事。誤解が解けてよかったよ」
このまま誤解されたまま、微妙な空気で過ごすのは嫌だしな。
「まだ少し納得はいきませんけど……。でも、なんか安心しました」
金代さんは安堵の表情を浮かべる。
きっと俺と楓が変な奴に絡まれないかを心配してくれてたんだろう。
しかし、やっぱり楓と一緒に居ると傍から見たら付き合ってる様に見えるのか。
俺は別に全然構わないし、何なら楓もあんま気にして無さそうだけど。変な奴に見られたら面倒くさいことになりそうだ。
あいつ有名人だし。昨日も変な奴らに絡まれてたし。
「まあ、俺が聞きたかった事ってそれだから。それよりもう部活始めようか。今日って床掃除と本棚の整理だっけ?」
「そうですね。先に床だけ掃除しちゃいましょう」
俺と金代さんは掃除ロッカーからモップを取り出し、床を磨いていく。
やたらめったら広いこの図書室は、磨いても磨いても一向に掃除が終わらない。普段はあんまり思わないけど、初めて海を見た時ぐらい図書室が広大に見える。
マジでこれ二人だけでやらせるの? 正気?
バイト雇おうぜ。時給600円ぐらいで。
「そ、そう言えばなんですけど。あの、大丈夫でしたか? 今日の体育」
横で熱心にモップをかけていた金代さんは、心配した様な口調で俺に尋ねる。
「大丈夫って?」
「体育の時、山崎君と揉めてた様な気がして」
「ほーう。見てたんだ」
「い、いや! その、授業中グランドを覗いたらたまたま見えて」
慌てて弁明する金代さん。こうして見ると、金代さんってなかなか愛嬌があるな。ヒロトと同じ位あるかもしれん。
アキラは愛嬌もIQも無いのに。
「別にそんな焦らなくていいよ。俺も見るし」
授業中って、何故か偶にグラウンド見たくなるんだよな。俺の場合はグラウンドしか見てないけど。
「ていうか、金代さんも山崎のこと知ってるんだ。あいつそんな有名人なの?」
「はい。中学が同じで」
まじ? ヒロトと金代さんって同級生だったの? 今も同級生だけども。
「それで、良くない話も耳にしてて」
良くない話。ヒロトも言ってたな。
そこまで評判悪いのかあいつ。
「それ、ヒロトからも聞いたけど。山……咲って何したんだ?」
よっぽどのことがない限りここまで言われないだろ。流石に。対人関係の経験値が少なすぎてよく分からないけど。
「私、山崎君とは小学校から一緒で。とは言っても話したことはないんですけど」
金代さんは少し口を紡ぎながら、歯切れの悪そうに口を開く。
「小学校の時も中学校の時も、山崎君はリーダー格の存在で」
まあそれには納得だな。
逆にリーダー格じゃなくてあの態度なら、別の意味でやばい奴だと思う。
かといってあいつの態度を肯定するつもりは毛頭ないけども。
「交友関係も広くて、常に沢山の人に囲まれてました。クラスを1つにまとめてて。最初は、すごく頼もしい人だって思ったんです。……でも」
「でも?」
「ある時、クラスの1人と喧嘩したんです。意見の違いか何かで。それで、ちょっと険悪な関係になって。最初は、ちょっと雰囲気が悪いなって感じだったんです。でも、段々と悪化して。山崎君がその子のことを無視したり、仲間はずれにしたり。聞いた話だと、他にも色々いじめてたみたいで」
金代さんの話し方から察するに、思い出したくもない記憶の様だ。
「喧嘩がエスカレートしていじめに発展したって感じか」
「はい。それで、その子学校に来なくなって。そのまま小学校を卒業して、中学校に上がっても、別の人が同じ様な目に遭って」
「学校に来なくなった?」
「はい。みんなそのせいで誰も山崎君に楯突かなくなって」
「なるほどね」
ここまでの話を整理すると、あいつは家が金持ちで顔が広く、コミュニティの中でも影響力がるので、喧嘩したら未来がない。
なるほど。もしかしら俺は今、とんでもない状況にいるのかもしれない。
「まあでも、だからって俺が同じ目にあるってわけじゃないしな」
「だったらいいんですけど」
金代さんは不安そうな表情を浮かべる。そんな顔をされるとこっちまで不安になる。
「まあ、今は掃除しようぜ。また帰るの遅くになるし」
「え、あはい! がんばりましょう!」




