【第17話】嬉しそうな王子様
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楓と買い物に出かけた翌日。夏が近づいて少し暑苦しい。俺はいつも通り、2人分の弁当を持って学校へ向かう。
珍しく土、日と二日連続で外出したせいか、まだ疲れが残っているようだ。
残っている疲れの内、八割はヒロト、アキラとやったペットボトルロケット野球のが占めているんだが。
おかげで家出るのがちょっと遅くなってしまった。遅刻までとはいかないが、乗る電車が二本見送ったぐらいだ。
楓には先に行ってくれって連絡したし、久しぶりの一人通学だ。先週は毎日楓と一緒に通学してたからか、一人ってのはどこか新鮮な気分になる。
電車で隣に誰もいないことに、こんな違和感を覚えるとは思いもしなかった。
何なんだこの感覚は。俺は知らず知らずのうちに楓に支配されてしまったのか?
俺が自分自身について深く考えながら駅のホームを歩いていると、どこか見慣れた顔が俺の目線に飛び込んできた。
「え、楓さん?」
そこにいたのは先に行っているはずの楓だった。
駅の柱にもたれ掛かってスマホを見ている。
見間違いかと思ったが、髪型の分け目の位置が一緒だから本人で間違いないだろう。
「あっ慶! おはよう」
楓は俺に手を振り、俺は困惑したまま楓の下に行く。
「いやあの、先に行ってくれって連絡した気がするんだけども」
もしかして電波悪くて送信されなかったのか? だとしたら悪いことしたな。
「そうだね。でもここで待っていたら君に会える気がしたんだ」
そりゃ会えるだろうよ。いつもこの駅で乗り降りしてんだから。でも俺が言いたいのはそんなの事じゃなくて。
「遅刻すんだろ」
「でも君は間に合ったじゃないか」
なるほど、なら大丈夫だな。いや全然大丈夫じゃねえな。
「いやそういう問題じゃ……まあいいや」
もう面倒くさいし。実際間に合ってるからいいやもう。
「じゃあ行こうか」
楓は半分やけくそ気味の俺を引っ張り、学校へと歩き出す。
「おい待て。自分で歩けるから引っ張るな」
この歳で誰かに引っ張られて歩くのは流石に恥ずかしい。俺の無駄に高いプライドが許さないんだ。
俺が抵抗すると、楓すんなり手を離した。
「ふふっ。すまないね」
楓はいたずらに笑う。
「どうしたお前。今日はやけにテンションが高いな。徹夜明けか?」
今日の楓はいつもと違う。普段から良く笑うやつだが、今日は何というか普段の二割増しくらいで元気だ。
そう言えば小春がまだ小さかった時もこんな感じだったな。今じゃすっかり毒を吐くようになっちゃって。
一体誰に似たんだろうか。
「知りたいかい? これさ」
楓は自身のシャツに胸元から手を入れ、ネックレスを取り出した。
「昨日買ったやつか」
なるほど、新しい靴おろした時みたいなもんか。だからテンション高かったんだな。
「お揃いだからね」
またもやいたずらに、楓は俺の胸元をなで下ろす。謎の行動に頭にはてなマークが浮かんだが、しばらくして意味を理解できた。
俺も楓と同様、シャツの胸元に手を入れてネックレスを取り出す。
「まあ一応証だからな。シャツの下ならそんなうるさく言われないだろうし」
朝支度してる時に思い立ち、一応付けてきたが、どうやらしっかりと正解だったみたいだな。
普段学校にアクセサリーは付けていかないからな。ちょっと新鮮な気分だ。
「私もさ。これを付けているだけで心強いよ」
これまた大袈裟というか大層というか。そんなお守りみたいな効果、このネックレスにあんのか?
聞こうと思って楓の方を見ると、そこにはどこか考え込む様な表情をした楓がいた。
そしてその表情のまま言葉を漏らす。
「本当に……君と出会えて良かった」
何と答えるのが正解なんだろうか。こんなことを言われた経験が無いから分からない。
でもいつも通り、思ったことをそのまま口にすればいいか。
「俺もそう思うよ」
実際こいつと出会ってから、人との付き合い方が少し理解できた気がする。何かと対処に困る行動や言動もあるが、それもまあ悪い気はしない。
「前にも言ったけど、お前といるのは楽しいからな」
楽しいと言うよりも、人生が少し豊かになった気もする。それは大袈裟か。どうやら楓のスケールの大きさが俺にも移ったらしい。
「そう言ってもらえるだけで幸せだよ」
楓はそうとだけ言って沈黙し、しばらくして再び口を開く。
「時々思うんだ。君と一緒にいる時、このまま時間が止まってしまえばいいのにって」
楓の顔はいつもの明るいものでは無く、どこか暗い。目線も少し下を向いていた。
「ずっとこの時間が続いて欲しい。そう思うくらい、君と一緒にいる時間は心地良いんだ」
「心地良いねえ」
毎度毎度、こいつからの評価は想像を超える。今まで言われたことの無い評価がポンポン出てくる。悪い気は一切しないけど。
「心地良い響の言葉だな。定期的に聞きてえわ」
「なら毎日言おうかな」
楓はいつもより大きめの声で笑い、顔も元の明るいものに戻った。さっき見せた暗い表情は何だったのか。その前の漏れ出たよなあの言葉も。
問いただそうかと思ったが、やめた。なんというか聞かない方が良い気がする。
結局俺はそのことについて問う事は無く、そのまま学校へたどり着いた。いつもより遅い時間に来ているからか、校内は人気が少ない。
久しぶりの光景だ。やっぱりこの静けさは落ち着くぜ。
「じゃあ、またお昼に」
「おう」




