【第1話】俺と王子様の出会い
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人生っては不思議なもので、思いもよらないことが起こったりする。
例えば、階段を上っていたら前にいた絶世の美女が落ちてきたとか。
そしてその美女を助けて、放課後一緒に遊んだり家に行ったりするほどの親密な関係になるとか。
やけに具体的だなって?
そりゃそうだ実体験だからな。
俺は今まさに、その絶世の美女を助けている最中だ。
落ちてきた美女を階段の途中で抱きかかえている。
「え、あ、その」
その美女は何が起こったのか理解できていないのか、はたまた俺に抱きかかえているこの状況に照れているのか。
顔を真っ赤にして混乱している。
なんでこんな状況になったのか。
それを理解するには今朝からの少し長い回想が必要だ。
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月曜の朝は最悪だ。
金曜の夜には浮かれ、土曜は満喫。日曜に「明日から学校か」と現実を突きつけられた後だからな。
しかも今日は春休み明け二週目。クラス替えも終わり、授業が本格スタートする。
爽快な気分の奴なんて、絶対いない。
俺――涼川慶も、どんよりした気分で教室のドアを開けた。
「あっ! 慶君おはよう!」
教室に入った途端、窓際から弾けるような声が飛んできた。
俺の重い気分を吹き飛ばす、可愛い声。
声の主は、河合ヒロト。
銀髪に小柄な体型。真面目で、こないだの中間テストじゃ十位以内の秀才。
それでいて、男なのに女の子みたいに可愛い。
白くきめ細かな肌に、ふわっとした銀髪。クリクリした大きな目。
しかも性格も良くて欠点がない。
「おう、ヒロト。おはよう。今日も相変わらず可愛いな」
いつもの挨拶に、ヒロトは顔を赤らめた。
「も、もう慶君! 僕は男の子だよ。できればカッコイイって言ってほしいな……」
頬を膨らませる仕草。
そこらの女子より女子してる。
「そういえば、アキラ君は? 一緒じゃないの?」
ヒロトがキョロキョロと教室を見渡す。
「アキラ? ああ、アイツなら、揚げ足取りすぎて生活習慣病になったらしい。今夜が山場だとか」
ちょっと愉快で、ちょっと不快な奴だったが、いなくなると寂しいもんだ。
「誰がやねん! ピンピンしとるわ!」
背後からツッコミが飛び、噂のアキラが現れた。
「アキラ君、おはよう! 今日は遅かったんだね」
「電車がな、五分遅延しとった。どうせなら一時間ぐらい遅れてくれたら良かったのに……」
アキラ――井上アキラ。俺とは入学以来の付き合いだ。
赤毛に適当な寝癖直し、ボロボロのスニーカー。
大阪出身で、中学の途中に引っ越してきたらしい。
「いちいちツッコミが長ぇんだよ。キノコみたいな髪型しやがって」
「そりゃ慶様の美しい金髪には負けますわ。でもな、キノコは栄養たっぷりなんやぞ。カズノコみたいな
前髪しとる奴に言われたないわ。なんやねん、右だけやたら長い前髪」
「カズノコも栄養満点だろうが」
俺の髪型はアシンメトリーだ。カズノコではない。
第一、カズノコに見えるわけがない。
「怒るとこ、そこかい」
ワーワー言い合ってると、担任の数学教師が教室に入ってきた。
「おーい、座れー。チャイム鳴ってんぞー」
手を叩きながら、ホームルーム開始。
「今日の欠席者は、なし。今週英検あるから、机の中身全部ロッカーに移しとけよー。……よし、今日も一日頑張ろうな!」
そそくさとホームルームを終えると、教師はさっさと職員室へ戻っていった。
「一時間目なんだっけ?」
「数Ⅱだよ」
なんで月曜の朝から数学ぶっこむんだよ。
ただでさえ嫌な数学に、月曜補正がかかって嫌さ三倍増し。
時間割組んだ奴、絶対許さん。
着払いで高級寿司送りつけてやるからな。
長い、長すぎる。四時間目終了のチャイムが鳴るまで体感時間的に二日ぐらいたったんじゃないか?
3時間目は地獄だった。一番腹が減るからな。
「やっと飯だ。手洗いに行こうぜ」
俺はリュックから弁当箱を取り出し、アキラとヒロトにそう促す。
「僕はさっき洗ってきたよ」
「まじで? いつの間に」
本当にいつ行ったんだ。確かに数分見かけなかったけど。
「あー俺はええわ。洗面所まで遠いし動くの面倒くさい」
アキラはそんなことを抜かしやがる。
「いいか、お前みたいな手洗いを怠る人間がいるせいで、この世から悲しみは無くならないんだぞ」
「そんな規模で説教されなあかん内容なんか」
「まあまあ二人とも。アキラ君には僕の除菌シートあげるから。慶君もいる?」
「いや、俺はいいわ。立っちまったし洗面所行く」
昼休みということもあり廊下は賑わっている。歩きづらい。
「ん? なんだあれ」
階段の踊り場辺りがやけに騒がしい。芸能人でもいるのかってくらい人が集まっている。なんかキャ
ーキャー聞こえるし本当に芸能人がいるのかもしれない。
誰だろう、まさか人気お笑い芸人のレザーボーイズ? まじかどうしようサイン欲しい。
俺はウキウキしながら人混みの奥を覗き込む。
しかしそこにいたのは人気お笑い芸人でも、レザーボーイズでもなかった。
「黒崎さんこっちむいてー!」
「ヤバい、握手してもらえちゃった!」
黒崎と呼ばれる女子生徒は、その整った顔立ちをウルフカットとセンターパートが混ざった髪型でより
際立たせ、おまけに身長もやたらと高かった。多分170cm前後はあるだろう。
そいつを囲う女子達は、王子だのプリンスだの叫んでいる。
よく見れば男もちらほらといるな。
何者なんだ一体。
「黒崎さん! これ受け取ってください!」
「ありがとう。頂くよ」
黒崎は次々と押し寄せてくる群衆一人一人に、微笑みを浮かべながら対応している。
こう見てみると群がってるこいつらはファンか? やけに多いな。
確かに見た目は良いし、女子がキャーキャー言うのも理解できるけど。でも何と言うか、その笑顔に違
和感があるというか。
でもまあどうでもいいか。とにかく早く飯食いたいからどいて欲しい。
「はいはい邪魔邪魔どいてどいて」
どいてくれそうもないので、俺は人混みをかき分けて洗面所へと進んでいく。
途中何こいつみたいな目で見られたがそんなことはどうでもいい。お前らがこんな場所に群がっているのが悪い。そうは思わなくてもそう思え。
「あ、君。ちょっと待って」
俺が群衆の中を強引に進んでいると、聞き覚えのない声と共に肩に手の様な感触を覚える。
振り返ると、そこには俺の肩を掴んだ黒崎が何やらカードの様な物を持って立っていた。
「定期券、落としたよ」
「え?」
俺は慌ててポケットいうポケットを手探りで確認する。あらかた探り終えたが、確かに定期券の感触はなかった。
「危なかった。どうもな」
俺は黒崎から定期券を受け取る。
にしてもホントに危なかった。定期券無くしましたなんて親に言ったらブチギレされるどころではないからな。
「お役に立てて嬉しいよ」
黒崎はそう言って俺にさっきの様な微笑みを向ける。その瞬間、俺の後ろの方で何人か鼻血を出して倒れていったが気にしないでおこう。
「こっちも親に怒られなくて嬉しいよ。ほんじゃな」
俺は黒崎に心からの感謝を伝え、会釈してその場を後にする。
去り際、また黒崎の囲いから「何こいつ」みたいな目で見られた。民度低いな。