ただの通りすがりです!
はじめまして。楽しんでもらえたら幸いです…。
「おまえ!!!俺の可愛いプリシラに怪我を負わせたらしいじゃないか!!!」
中庭を歩いていた私の前で、それは始まった。
「…え?」
可愛いプリシラと呼ばれた、ブラウンヘアで目がくりくりしてる女子生徒を見つめる。たしかにかわいい。
でも「あざとかわいい」ほうの可愛い女の子で、たぶん、見た目だけをあまり信じない方が良いかな。あの男子生徒は分からないのだろうが、すごく、目が嗤っている。
おまえと呼ばれた女子生徒は首をかしげた。長い黒髪がその動きに合わせてサラッと肩から流れ落ちる。こちらも系統は違えど、目を引く美人だった。
「どなたですか?」
「なっ!!!ど!どういう意味だ!!逃げる気か!!?」
「いいえ、あの、プリシラさんとは、その、腕にしがみついている方ですか?」
なんと黒髪美人さんは、『プリシラ』さんを知らないらしい。
それであの言いがかりか?と通りすがりで足を止めていた私も首をかしげた。
「とぼけるなよ!?プリシラが可愛いから嫉妬をして嫌がらせをしたんだろう!!」
「今が初対面ですし、キース、なんの根拠があってそんなことを言ってるんです?」
「根拠など必要か!!?お前こそ自分がやってない証明でもできるのか!!友達もいないくせに!!!」
最後のは、明らかに余計な一言だなこいつ。
それにしても、あの馬……ごほん…考えが足りてなさそうな男子生徒はキースさんっていうのね。
心の中にメモを取りながら、成り行きを見守る。だんだんギャラリーも増えてきていて、先生を呼びに行った生徒もいるらしい。
ここは、フォーレスト学園の中庭である。そして、2限目が終わって昼食を取ろうとしていた生徒が行き交っていた。
「では、いつ怪我をされたのですか?」
「…え?」
割りこんで私が質問してしてみた。
制服のポケットからメモ帳とペンを出して、どうぞと『プリシラ』さんを見つめる。
「あんた、だれ…」
「今日だ!!!先ほど通りすがりに突き飛ばされたと言っていた!!」
「ふむふむ…」
要点だけ書きながら、黒髪美人さんを振り返りながら質問を続ける。
「だそうなんですが、心当たりございます?」
「いいえ…」
そうだろうねぇと思いながら、こちらもふんふんと頷きながらまた振り返る。
「そちらのプリシラさん、でよろしいでしょうか?どこを怪我なされたんですか?」
「えっ、と…足を……」
「あら!足を……お大事になさってください…」
そうわざとらしく、心配ですっていう顔をしてみた。
ちょっと引きつった笑顔をつくりながらありがとうございますと返された。
まだ話が出来てえらいかもしれない。
「では、キースさん?でよろしいでしょうか?」
「ああ!!」
「あなたはそれを見ていたんですか?」
「いや!見てはいない!だが!!プリシラがとても痛そうにして…」
「そうでしたか、その割にはそちらの方だと決めつけてましたけどもぉ」
キースさん?の声を遮るように言葉をかぶせながら相槌を打つ。
「は?」
「気のせいでしたか?」
「おまえ!!!どっちの味方なんだ!!」
「味方?強いて言うならあちらの方ですかね」
と言いながら黒髪美人さんを見る。
なんだかよくわからないみたいな顔をしているが、首を突っ込んでいる私も、私がよくわからない。
「そろそろ先生方が来ると思いますので、落ち着いたほうがいいですよ」
そう言って、メモ帳をポケットに仕舞おうとする。
「ふ、ふざけるなよ!!!」
「……耳痛い」
煩わしさに目を細めて、どうどうと手のひらをかざしていると、慌てたように数人の先生方が出てきた。
職員室は中庭から少し遠いので急いできてくれたのだろう、髪が乱れている。
「な、何があったんですか?」
「こちらのキースさんがあちらの方に喧嘩を吹っ掛けてました」
「なっ!!!」
「ぶっ!…」
誰かが吹き出した。
「君は、新聞部の……」
「はい、エマ・ホワイトです。」
「また、メモをしてくれてたんだね…」
「たまたま、通りかかったものですから」
うふふと圧をかける。
別に巻き込まれたくて巻き込まれに行ってるわけじゃなくて、たまたまなのだ。
前だって、別の男女が中庭の噴水にかってに落ちたとか、落とされたとかで揉めた。
また別の男女は、大切なものを盗んだとか、嵌められたとかで揉めていた。
他にも、教科書を破かれたとか、靴を隠されたとか、お弁当を台無しにされたとか、陰口を言われたとか。
これらが全て、別々の男女のあいだに起こっているのだから怖い。
別に好きで巻き込まれに行ってるわけではないのに。
お昼ご飯を食べようと思って中庭に来ているだけなのに。
でも、なりゆきとか、気になるから聴き取りのようにメモをしてるだけだ。
そのメモを先生に見せて、その事実確認をしてやらかした方々にお灸を据える。この流れがここ1ヶ月で出来てしまっている。
「ま、まぁ、ありがとう。助かるよ」
そう言って、私の新品のメモ帳を受け取る先生。
男性教員2人がかりでキースさんは抑え込まれて、『プリシラ』さんはおろおろとその周りをうろうろしている。
黒髪美人さんは女性教員から話しかけられている。このまま生徒指導室に行って、話し合いだろうな。
「シア、大丈夫?」
彼女にそっくりの背の高い男子生徒が黒髪美人さんに心配そうに話しかけた。そのままボソボソと小さめな声で語らっていて、私にはその内容は聞こえてこなかった。
周りに視線を向けてみる。
みんな先生が来たし、お腹すいたし、休憩時間が減っちゃった、というように解散しだした。
一回目の揉め事の時は野次馬が多くて、少し困ったのだが、もうほかの人たちも慣れてきたらしい。
私もご飯を食べようと、中庭の隅のベンチに行って、おばあちゃんが作ってくれたお弁当をちまちま食べる。
うーんと中庭でいざこざが多くなっている理由を考えながら、人だかりがだいぶ薄くなった中庭の中心を見る。
すると、こちらを見ていた黒髪美人コンビと目が合った。
思わず会釈をすると、二人で顔を見合わせてぺこりと頭をさげた。
すると、先生が2人に近ずいて、行こうというような仕草をして、2人ともばいばいと言うように手を振った。
これで一件落着だと清々しい気持ちで2人を見送った。
午後の授業を受けて、部室に向かう。
「お疲れ様でー……す」
「お疲れ様ぁ」
ゆるく部長は返事してくれたが、これはどういうことだ。
美人さんコンビが部室にいる!?
「え、なん、なんで」
「なんか、お礼言いたいんだって〜」
「あ、そう、なん、ですね?」
ドアを開けたままの体勢で固まっていたが、後ろから部員が続々と来たから退かざるをえない。
とりあえず2人の向かい側のソファーに座ってみる。
どう切り出せばいいのかわからず、部長を見た。
どう解釈したのか拳を握りしめてぐっとされた。
なんなんだ…と目を戻すと2人はもじもじというふうにお互いに目配せして押し付けあっていた。
これには思わず笑ってしまった。
それに反応してこちらを向いた2つの美人顔にうっとダメージを受けた。
「…今日は、お疲れ様、でした?」
「名前も名乗らずにすみません」
「いえいえ、私も名乗ってなかったですし。私、エマ・ホワイトと言います。よろしくお願いします。」
「私は、アレクシア・ブラックです」
「僕は、ヴィクトル・ブラックです」
「「よろしくお願いします」」
「私たちは」
「双子で」
「私が妹で」
「僕が兄なんです」
「昼間はお世話になりました」
「お話を聞きました。ありがとうございます」
さすが双子と言うべきか。
交互に喋っているのにすらすら文章を作っていた。
「いや、全然。先生から聞いたかもしれないですけど、ここ最近ああいうことに遭うことが多くて…」
「聞きました」
「毎回関わっていて、とても不思議だと」
「うっ」
どうして?と言うように2人揃って首を傾げている。
「お昼ご飯を食べに行こうとしたら、いるんですよ……」
まるで、あの黒光りする害虫がいるみたいに言ってみる。
きょとんとしていたがくすくすと笑ってくれた。かわいい。
「それと」
「お礼と」
「「新聞部に入部したくて」」
「えっ」
「仲良くなりたかったし」
「記録を取る、ってなんだかすごいって」
「「思ったんです」」
声をそろえて語るふたりがとても眩しい。
「入部届け貰ったんだよ〜」
「そうなんですか!?」
そう告げた部長に、思わず大きな声で聞き返した。
「「はい」」
「これから」
「「よろしくお願いします」」
そう言ってくれた2人に嬉しくなった。
「よろしくお願いします!!」
美人コンビが来てくれるなんて、これまで以上に部活に来るのが楽しくなりそう!
「ホワイトさんいらっしゃいますか〜」
「っはい!!」
2人と夢中になって話していたら事務の先生が顔をのぞかせて、名前を呼ぶ。
びっくりして、思ったより大きい声が出てしまった。
「あの、いつもの…」
「あ、はい!大丈夫です」
じゃあちょっと行ってきますと部室を出る。
「じゃあ、確認するだけではあるんだけど、ごめんね。時間取って」
「いえいえいえいえ、大丈夫です」
「話の流れとかは聞いてたけど経緯は知らないんだっけ?」
「はい」
こんな感じらしい。
まず、キースさんはアレクシアさんとヴィクトルさんの幼なじみらしい。
3人は意外にも昔は仲が良く、一緒に遊ぶ仲だったらしい。
でも、中等部に上がってからはクラスや人間関係で遠くなって、関わってなかったそうだ。
では、なぜ突然喧嘩を吹っかけられたのかと言うと。
例のプリシラさんが幼なじみだから仲がいいだろうとテキトーに敵にしてしまったがゆえに起こったそうだ。
「てきとうに…」
「だいぶ端折ってはいるけど、言ってたのよね」
「なんと…?」
「会ったこともないし、名前も知らなかったと」
「ええぇえ……」
まさか名前も知らなかったとは思わなかった。
さすがに知らない人のせいで幼なじみに詰られて戸惑わないわけはなく、アレクシアさんは混乱状態だったらしい。
そこに私が割って入ったものだから、プリシラさんは困ってしまったけど、アレクシアさんは精神的に助かったと。
兄のヴィクトルも、お門違いな嫉妬を向けられたことがあるらしく心配していた時に起こったようだった。
「はい、メモありがとう」
「あ。ありがとうございます」
「今回はちょっとメモの量が少なかったわね?別にそれで困りはしないけど…」
「だんだん先生方も対応が早くなっているので、そこまで聞くことが出来なかったんですよね。それに…」
「それに?」
「あの、キースさん?の声がうるさくて、あまり耳に入れたくないなと……」
「ぶはっ。…ふふっふっ。それは、そうかもね…。………っ、ふふふふっ」
「カレン先生…ちょっと笑いすぎです…」
キースさん(?)はあの後もしばらくうるさ……騒がしかったらしいが、さすがに大人の男性教員に囲まれたら大人しくなったらしい。
カレン先生もうる…騒がしいと思っていたんだろうな…。
後日。
まぁいろいろあって、私に対する傷害でキースさん?は自宅謹慎となった。本格的に取り調べを受けるらしい。私もだけど。
わりと大怪我だったので、シアとヴィックには心配をかけてしまった。
2人とは愛称で呼びあえるくらい仲良くなれて、嬉しい。知り合えた事件がアレなのが残念なところだが。
たまには物語のようなほんとにあるのかと思わせるような、記事を作ってもいいかもしれない。
そういうお話を集めて雑誌風にまとめるのもいいかもしれない。
事件がひと段落着いてそう考えていた。
あれだけたくさんのネタを提供してくれたのだ。(様々な男女が)
それを活かさない手はないだろう。
おまけ
キースプリシラ事件の日の帰宅後
「はあああぁかわいいねぇキーースーーー」
そう言って、抱きしめてもふもふするのは猫のキース。(ラグドールのイメージ)
去年の秋頃、親とはぐれたのか必死に鳴いているのを見るに見かねて保護した。
幸い、両親も大の猫好きで、こっちに遊びに来るまでに元気にさせるという条件でお金を送ってくれている。
正直、条件になってないが、おかげでキースをちゃんとお世話できている。
さすがに学校にいる間はどうにもならないから、下宿しているこの家の主の叔母に頼んでいる。ちなみに彼女も猫好きだ。
それにしても。
「ナタリー姉ちゃん〜、今日やらかしたバカがね〜キースっていう名前だったんだよね〜…」
「え!!?」
「やだよねぇ、あんなのとウチのかわいこちゃんが同じ名前だなんて」
「キースとは違うキースだからいいんじゃなあい?」
そうおばあちゃんが言う。
そっと私の膝の上で居心地のいい体勢を探していたキースを撫でる。
「名前変える?キース。でもなぁ…」
キースと名付けたのはホワイト家の末っ子のマリーなのだ。
「マリーちゃんが泣いちゃうわね」
「そうなんだよ〜。むしろあっちが改名すればいいのに。ね〜キース」
仲良くなった双子を叔母さんの家に呼んでキースを紹介すると、驚かれたのはまた別の話。
いつか連載で続きを書きたい。
前半部分を書きたくて勢いで書き上げましたものです。しりすぼみな展開かもしれませんが楽しんでもらえたら幸いです!
2025/1/16