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アレス4

部屋を出るとノルドの姿は無かった。

だいぶ話し込んでしまっていたしな。


ひとまず1階へ戻る。

道すがら、アーリヤから聞いた話を思い返していた。


この世界には魔法はないが、大別すると、根幹を呼吸として3つの技があるらしい。


1つ目は治癒技。大地の息吹による奇跡の御業。

簡単に言えば回復系だ。

話を聞く限りは自然治癒力を高めるもので、四肢欠損や致命的なものには効果がない。

だが使える人数はかなり少なく、家系や血筋によるところが大きいそうだ。

ゆえにアーリヤはああして狭苦しい部屋に、半ば囚われているような状況でいるのだ。


2つ目は破壊技。大地の脈動による努力の御業。

これは攻撃系だな。

大地の脈動…アーリヤの口ぶりから、おそらくは重力だと思う。

それを自在に操作し、剣や拳から打ち出すようなことができるらしい。

ただ、現在ではその技術は口伝か古臭い教本に記されている程度で、冒険者たちが高ランク冒険者の動きを見様見真似で使用しているのが大半だそうだ。


3つめは支援技。大地の抱擁による恩恵の御業。

補助系なのかな。

そもそもが使える人数が少ないようで、アーリヤもよく知らないようだった。

聞いた話程度だが、天気の動きを見たり動物たちの目を借りたりできる技者もいるらしい。


使える人数は、破壊、治癒、支援の順で少なくなる。

世の中にいる大半の冒険者は、1度覚えた1つの破壊技を生涯使い続けるのが基本とのこと。


人数だのなんだのこのあたりはノルドの方が詳しいのじゃ、と追い出されてしまったが、まあアーリヤの話をまとめるとそんなところだ。

ちなみにアーリヤは、この街の治癒技士として派遣されている名家のお嬢様だそうで、けしてロリBB…いやまあ、よそう。


「まて、アレス」


階段を降りかかったところで後ろから声がかかる。

この声はアーリヤだ。

身長は俺より20㎝くらい小さい。スラっとしていて、シスター服だが、顔は薄い布で隠れている。

布から覗くブロンドがキラキラと輝いていた。


「これを持っていけ。見せると話が早かろうて」


気が付けば傍まで来ていたアーリヤは俺に手紙のようなものを差し出す。


「診断書みたいなものじゃよ。これでおぬしが変なことの理由が付く。ひとまずは良くしてもらえるのじゃ」


「すまないな、世話になった。ありがとう。アーリヤ」


「…っ!よ、よいのじゃ。あんなに真剣にワシの話を聞いてくれたのは初めてじゃったし、その、悪い気はせんかったし、」


「ん?どうした?」


「なな、なんでもないのじゃ!はやくゆけ!」


俺を押そうとするアーリヤ、布が揺れて顔がちらりと見えた。



ああ、異世界美少女万歳…



いろいろ聞いたこともいったん端に置いておいて、現実離れした、のじゃロリブロンド美少女に背中を押されて、歩き出す。


ある程度見送って「またくるんじゃぞ」みたいなことを言うとアーリヤは部屋に戻っていったみたいだ。


ともかく、魔法はないが不思議パワーはあるんだな。

と雑な感想を思いながら。


少しの安心とこれからの期待、そして診断書とともに、俺は1階へと降りて行った。




「おう、アレス…どうだったんだ」


ノルドだ。うかがうような表情で1階に降りてきた俺に声をかけてきた。


「とりあえず、アーリヤからこれをもらいました」


「む、見せてみろ」


ノルドは俺から診断書をひったくると、広げて読みだした。

顔色がまた悪くなっていくのが見える。

察するに彼は中間管理職的な立場なんだろうな。

新種の発見に討伐、討伐した部下の急病…頑張ってくれ。

俺は自分が起こしている事態であるにもかかわらず、他人事のように応援しておいた。


「記憶喪失…」


ノルドが脱力するように言った。

ふむ、アーリヤはそう書いてくれたのか。

俺にとって一番都合がよさそうだ。ナイスアーリヤ。

心の中で礼を言う。


「はあ、俺はこのことをギルマスに報告してこよう…アレス、お前はマネロのとこへ行ってこれを見せろ」


「マネロ?」


「…受付にいる赤髪の女だ」


記憶喪失であることを再確認したのか、俺がマネロが誰かを聞いたとき、ノルドは苦虫をかみつぶしたような顔になった。少しだけ良心が傷んだ、ような気がした。


「わかりました」


「はあ、もう、わかった、でいい、今更気味が悪いからな。楽なしゃべり方をしてくれ。それじゃあな」


ノルド、意外といいやつかもしれない。


俺は受け取った診断書を今度はカウンターに持っていく。


「マネロ、さん、いますか」


「おつかれさ…ヒィ!」


「リル!どうしたんだい!ってまたあんたかい。今度はどうしたんだ」


「これを、アーリヤから」


「ん、見せてもらうよ」


マネロはゆっくりと目を通した。


「記憶喪失、ねえ」


「そうみたいです」


俺は最大限申し訳なさそうな顔をしてみた。わざとらしいかな?


「…わかったよ。仕方ない。イルナ!イルナ!」


「はい、ここに!」


「この可哀想な子犬男を助けてやっておくれ。見た目はアレスだがもうアレスじゃないと思っていいよ」


申し訳なさそうな顔が効いたみたいだな。


イルナと呼ばれたメイドは黒髪で、長さは肩くらいで切りそろえられている。

メイド服は身体に合わせて作られているのか、非常によく似合っていた。


「あちゃ…記憶喪失ですか」


アーリヤの手紙に目を通して呟くと、イルナは俺を見た。

エメラルドのような深緑の輝きを湛えた瞳は、俺をまっすぐに捉える。

その控えめなたれ目からは柔らかな印象があふれていた。


かわいいな。


「どうかしました?」


「ああいや、アレスだ、よ、よろしく」

(ちょっとみとれてたなんて言えないよな)


「えへへ~?

変なの。前から知り合いなのに!

でも今のアレスさんとなら仲良くできそう。

改めて私はイルナ。よろしくね」


カウンター越しではあるが挨拶をかわし、

ようやく俺の物語が始まる気配を感じたのだった。

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