アレス2
他の門番にそこを任せてギルドに向かう間も、
スキンヘッド門番はよくしゃべった。
俺を記憶喪失の類だと思ってくれてるらしい。
俺もこうなりゃヤケだと思って、なんでも聞いてみることにした。
街の名は「ララヴェル」。
東のゴア大森林の果実と、俺が産まれた南のソラ平原の穀物と肉、西に流れるトルナ川の水の恵みによって成り立つ街だ。北には大きな山脈が連なっていて、鉱物の産出もそこそこにある。
大きな石垣に囲まれていて、北以外の3方に出入口があるような構造だ。
ともかく恵まれた立地であるララヴェルには、特産というか、名物があった。
―舞踏大会。
年に1度行われるそれは遠方の街をも巻き込んで、大いに盛り上がるそうだ。
なかでもララヴェルの豊富な資源から来る出店の数々と、この世界でも有数な取引市場となるララヴェル広場は、舞踏大会目当ての客以外をも虜にする賑わいと熱気を見せるらしい。
そこまで聞いて、俺はどうしても気になることを足を止めて聞いてみた。
「なあ、あんた名前は?(この世界に魔法はないのか?)」
…間違えた。
「あぁ!?おいおい、俺の名前まで…いやいい、いいんだ。どうやらアレスだが正直もうアレスじゃねえようだし、答えてやろう。俺の名はジニー。ララヴェルの門番長といやあ、この俺様!ジニー様よ!」
「あ、ああそうかジニー、それともう一つ」
「なんだって答えてやるぜ?」
「魔法って、ないのか?」
そう、異世界とくれば、魔法。鉄板だ。
だがこの世界にはそんな雰囲気すら感じない。
「ま、マホ、う?なんだいそりゃ」
「え?」
「作法だか罵倒だかわからんが、ねえよ、そんなよくわからんもんは!ほんとに大丈夫かよ?アレス」
魔法が無い異世界…!?
そんなもんがあるのか…!?
俺———アレスは聞く限り、街でも有名な不愛想、変わり者であるらしい。
いくら記憶喪失のような症状があるからと言っても、そんなアレスがこれ以上よくわからないことを聞き続けるのもおかしな話か。
俺はそれ以上聞くのをやめて、黙ってジニーについていった。
街はいわゆるファンタジーな街並みだ。
露天に果物や肉魚等の食材、木材を加工したような工芸品が並んでいて、人通りもそれなりにある。
人々の服装は至って普通だ。派手さは一切ない、みんなが同じような布の服で、武器をもってるやつは俺と同じようにアーマーを着こんでるのもいた。
うん、ザ、最初の街、だな。
武器屋やアクセサリー屋なんかもあるようだから、いずれ行ってみよう。
装備を整えるのはRPGの醍醐味とも言える。
しばらくすると、屋敷の前でジニーは止まった。
「ここが冒険者ギルドが入ってる酒場『鷹のはばたき亭』だぜ」
おお、これが冒険者ギルド…!
街に並ぶ木製の家とは違う石造りの大きな建物で、これぞといった雰囲気をかもし出している。
「ありがとうジニー、すまなかったな、何から何まで」
「やめてくれ、気味が悪いぜ、わはは。ともかく中に入りゃあ後のことはノルドがどうにかしてくれるだろうよ、アレス、頭よく見てもらえよ、まあ俺は今のお前の方が数倍マシだがよ、おっと気分を悪くするんじゃねえぞ、俺は本心しか言わないんだ、まあなんだ、気を付けてな、俺は基本南門で門番してるからよ、なんかありゃ言うんだぜ。それじゃあな、わっははは」
「あ、ああ」
最後までよくしゃべる男だ。
少し本音が出やすいが面倒見のいい、良い男だったな。
なにかあったら頼らせてもらおう。
俺はギルドの扉に向き直る。
こういうのは緊張するな。初めての職場に入る時みたいだ。
おはようとか言った方がいいのかな。
俺はまとまらないまま、ギルドに入るワクワクにまかせて扉を開いた。