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08 / 一番隊拠点へ


「実は一週間後、一番隊がハイカ収容所への強襲を行うんだ」


 カトラス、キルド、ガイ、クリストの四人組は早朝からクイナに呼びつけられ、そう伝えられた。

 それを聞いた全員は、だからどうしたという顔をしていた。


「…で、それがどうした?」


 真っ先に返したのはキルドであった。


「五天王会議の時に一番隊のニグからお前らを作戦のときに貸してくれって言われていてな――」


「それで一週間後くらいに行けと。なるほど、分りました」


 とガイが理解し、踵を返そうとすると…


「――行くのは今日だ」


 それを聞いた一同がぽかんと口を開けて、ガイはクイナを方向に振り向いた。


「何で事前に言わなかったの?」


 とカトラスが聞くと、クイナの口から衝撃の事実が紡がれた。


「―――すまん、忘れてた」


 四人の開いた口が限界突破して塞がらない。まさか隊長ともあろう御方がそんなミスをするとは――なんて驚愕が彼らの心中を埋め尽くした。

 でも冷静に考えたら結構そういう面もあった気がすると、彼らは開けた口を引っ込めた。


「いや、連絡の使者自体は三日前くらいに来たんだが…そのときお前ら丁度任務に出ていてな…」


 ―――三日前、思い出せばその日は全員任務に出ており、ガイとクリストは夜襲の遠征、カトラスとクリストはローブを深く着込んで街に情報を取りに行っていた。

 フードを深く被れば、案外人間であるとバレない。細いゴブリンやオークと誤認してくれるためそれを利用する。


「で、後でいいやと思っていたら……」


「今日まで忘れてたんですね…」


 と、クリストが言うとクイナは非常に申し訳なさそうな表情をした。


「という事で悪いんだけど今から準備してくれない…?装備と向こうで寝泊りするから服を二か三着ぐらい…」


「分りました。何時出発ですか?」


 とクリストが訊くと、クイナは本当に申し訳なさそうに人差し指を一本立てて…


「一時間後…」


「急げお前ら!!!」


 その一言を聞くや否や、カトラスが叫び、全員が走って部屋を出た。



     □▽◇▽□



「はぁ…はぁ…お前ら早すぎだろ…」


 外にケルインが用意した転移陣の前に乗る三人に、遅れて走ってきたクリスト。

 

「まあ弓と短剣を使うお前に比べりゃそりゃ早いよ」


 事実をキルドが返す。

 三人の装備は、なし、剣、槍だった。さらに剣をもつカトラスと槍のガイは普段から武器の手入れをしていたのに対し、魔術師であるクリストの武装はサブであってため、整備を怠っており、矢の補充とかに時間が食われていた。


「つかキルド、お前も短剣の一本ぐらい持っておけよ」


 魔術師は主に2パターンに分れる。杖などを持ち、後方支援や遠距離攻撃・範囲攻撃を担当する魔術特化型か、剣や弓などの近接武装を持ち魔術と近接攻撃を合わせる魔術戦士型。

 前者はクリスト、後者はクイナが挙げられる。クリストはその二つを合わせたハイブリット型である。弓や短剣で時間を稼ぎ、魔術を叩きこむ。どちらかと言えば、魔術戦士型寄りと言える。


「やだよ、刃物とか物騒で持てないね!」


「だったら杖は使わないのか?」


 さっきまでクリストの方向を見ていたカトラスがキルド見ながら訊いてみると、


「いや、僕も持ちてえんだよ。で、クイナに杖くださいって訊いてみたんよ」


「うん」


「そしたら何ていったと思う? ――杖…魔石は二番隊なんだよなぁ…私あそこの奴らと話したくないんだよなぁ… うーん、無理! だぜ!酷えよなぁ!」


 ということを聞いて、カトラスとクリストは笑いをこらえるのに必死だったのだが…


「ブッハハハハハハ!!!そりゃあ酷えなぁオイ!」


 直後、二人の努力を無視するかの様にガイが大笑いをした。

 ―――このやろう…と二人は内心でガイを恨んだが、こらえるのに必死でそれどころじゃなかった。


「お前後でぶっ飛ばすからなぁ!」


 とキルドがキレたところで、転移陣の横にいたケルインが手をパンパンと叩き、会話を止めた。


「漫才は別の所でやってくれ。ほら、転移石だ。さっさと飛んでくれ」


 と言ってケルインは転移石カトラスに投げ渡し、拠点に戻っていった。


「よし、じゃあ行くか――」



 と言った直後、カトラスは転移石を砕いた。

 転移石は男の人の親指ぐらいの大きさであり、少し力を入れれば簡単に崩れる。

 ――投げ渡して落として割れたらどうすんだよ。カトラスはそう思うが、ケルインが特に何か思っている様子は無かった。

 そんなことを思っていると、砕けた転移石が光となり、転移陣に吸収されていった。

 そうすると、転移陣から白く強い光が発されて…

 ―――四番隊拠点から四人の姿が消え、転移陣が書かれた布のスクロールも焼き消えた。



     ▽▽▽▽▽




「―――なんか、差を感じるな」


 というのは一番隊拠点の外へ飛び、建物を見たキルドの台詞だ。

 その外観は石造りの巨大な建物であり、四番隊のモノと比べるのはとてもかわいそうな程であった。 

 周りを見るとざっと30人程の兵士が木剣で打ち合っていた。


「すげぇな。俺ら4人だぜ」


 というのはキルドに同調したカトラスの発言。

 その言葉に、他の三人も「うんうん」と同意する。


「…何で僕ら4人なんだろうな?」


「聞くところによると、隊長教育終えた新人は別の隊に押し付けてるらしいよ」


 キルドの素朴な疑問に、クリストが答えた。


「そらなんでよ」


「新人教育は義務だが、その後の処遇はこちらに一任されているから、だってよ」


 またも訊くカトラスに、今度はガイが答えた。

 おそらく二人はその旨をケルインから聞いたのだろう。

 

「うひゃあ…そりゃまた何と…ん、何で僕ら異動されてないんだ?」


 という疑問に、二人は同時に「知らね」と答える。


「ふーん、まあいいか。さっさとニグさんの所に挨拶しに行こうぜ」


 とカトラスが指揮を取り、歩きだした。


「どこいるんだ?」


「あの訓練の中に居なかったら、拠点の中だろ」


 ガイの疑問に、カトラスが答える。

 しばらく歩いて訓練している場所の近くにつく。


「あの人か?」


 と、ガイはある人物を指す。

 それは訓練している兵士を眺めるようにゆっくりと歩く鎧姿の女性だ。


「違うな。クイナから一番隊の隊長は赤髪のいい感じの男って聞いている」


 というキルドの言葉に、カトラスは「いい感じって…」とクイナの雑さに呆れるように呟く。


「いねぇな、赤髪のいい感じの男。あの女の人に訊いてみるか」


 と言ってクリストは女の人の元へ走り出し、他三人はそれについていく形となった。


「すみませーん」


 気さくな挨拶からクリストは入った。

 三人が追いついたのは、それに気付いた女の人が「はいっ!」姿勢を正し、ピンと伸ばした手を額の前に持っていく…俗に言う敬礼というやつをしたタイミングぐらいだ。


「ニグさんはどちらにいらっしゃいますか?」


 というクリストの質問の対し、女の人は若干機嫌を悪くし…


「質問の前に、まずそちらが名乗るべきとは?」


 と言った。まるで絶対そうでないといけないと考えている感じ…


「…硬い人だな」


 と、キルドが聞こえないぐらいで呟いた。


「失礼しました。我々は作戦の為、四番隊から貸し出された者であります。右からガイ、クリスト、キルド、カトラスと申します」


 と、一番左のカトラスが紹介しました。


「なるほど。私は一番隊副隊長のライラと申します。ニグ隊長でしたら拠点三階の隊長室にいらっしゃると思います」


「ありがとうございます。行くぞ、お前ら」


 とカトラスは感謝し、拠点に向い歩き出した。

 

「僕ああいう硬い人苦手なんだよね…」


 とキルドが愚痴ると、ガイは笑いながら返す。


「じゃあ隊長は?」


「あの人は結構融通効かない?そういう観察眼絶望的じゃないか、ガイさんよ」


 と少し煽りながらキルドが返す。

 なんて会話をしていると、拠点内部に入った。


「やっぱ広いなぁ…いいなぁ…」


 キルドが羨む。


「いや、こんな必要無いだろ」


 カトラスがツッコむと、キルドは「そっかぁ…」と少し残念そうに答えた。

 石造りの建物の無骨な内装の廊下を歩き、階段を上るとそこに不自然に少し立派な両開きの扉があった。


「…ここだろうな」


 扉の上を見れば「隊長室」とご丁寧に書いてある。


「失礼しまーす…」


 扉の片方を開け、カトラスを先頭に四人がぞろぞろと入っていく。

 前回の反省を活かして挨拶から入ろうと思った瞬間、部屋の奥から外の訓練風景を眺めている男がこちら向いた。


「黒、茶、白、青…うん、君たちが四番隊の例の人たちか」


 先に切り出されてしまった…


「黒、茶… 何のことだ?」


「髪のことだろ。お前は白で、俺は青じゃねえか」


「ああ…なるほど」


 という会話を、ガイとクリストが小声でしていた。ちなみに黒はカトラスで、茶はキルドである。


「まずはようこそ、一番隊へ。私は隊長のニグ。『双剣』なんていう肩書を一応貰ってはいるが、大した者じゃないさ」


 自己紹介を済ませるニグ。それに対し、カトラスは丁寧な人物だなと思うと同時に、言葉の最後に猜疑心を抱く。

 大した者じゃない――大嘘つきもいい所だ。彼は人類解放軍で一二を争うほどの実力者、そうクイナから聞いていた。単なる謙遜であろうが、圧倒的な強者が力なんて無いよって言っても不快になるだけな気がする。

 何でも神剣を解放したクイナとも五分どころか勝つことが出来たらしい。


「君たちのことはだいたいクイナさんに聞いてるからいいよ。そんなことより――」


 ニグの表情が穏やかなものから、鋭いものに変わったのをガイを除いた三人は感じ取った。


「君ら…カトラス君とキルド君が木剣とはいえあのクイナを打倒したんだよね?」


「……はい」


「いや、別に怖がらせてるワケではないんだ。それは誇ってよいことだ。いくら木剣だったといえ、半年の者が彼女を倒すのは並大抵のことじゃない… だから気になるんだ――」


 そういうと、ニグはカトラスはどこから取り出したかわからない木剣と槍の訓練用の先端に布が巻かれたを、投げて渡した。

 それをキャッチしたカトラスは… ――かつてないデジャブを感じていた…


「――君たちの強さがね」


 その表情が笑みでこそあるが、より鋭いものへと変わっていく。


「僕これ何か先が読めるぞ…」


「奇遇だな、俺もだ――」


 そんな会話をしているよそ、ガイは何のことかわからないという顔をしており、クリストは薄々感づいていた。

 そしてニグ自身は二本の木剣を持ち出した。


「―――戦おうか、四体一だ。魔術、弓、剣…何でもありだ」


 そして、隊長室の窓。それはそこそこの大きさがあった。

 ニグはそこに乗り出し…


「―――全力でかかって来い」


 そう言い放って、ニグは外へ飛び降りた。

 中に取り残された四人…その表情はポカンとしており…


「取りあえず、外行こうか…」


 そのクリストの一言から、四人は隊長室を出て外に向って歩きだした――― 

一応ですが、章が変わります。


あと評価とか貰えると、すごくうれしいです。

感想とかももしよろしければ書いてくださると…別に批判とかでも全然かまわないので…

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