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07 / 労働時間


「なあキルド、なんで天井がこんなんになっちまったんだ?」


 天井で板に釘を打ち付けているキルドに、地面に立つ人物が問いかける。

 彼の名はガイ。カトラスやキルドと同じタイミングで解放軍に入隊した、いわば同期という存在である。

 

「クイナの憂さ晴らしに付き合わされて、二対一で戦ったんだ」


「うひゃぁ~そりゃこっぴどくやられたんやろうな。ご愁傷さん――」


 時刻は夜。あの戦いから数時間が経過し、家屋修復も長丁場となっていた。理由として飛ばされた屋根がボロボロになっていたこと、あと家屋本体の方も節々が崩壊しており、それも修復。そして――


「折角だから増築しない?倉庫とか――」


 なんていうクイナの一言が作業を一気に地獄に押し上げた。


「―――勝った」


「へ?」


「僕とキルドの二人で、クイナに勝った」


 その事実を聞くや否や、ガイは「ナイナイナイ」と手を振りながら否定した。


「つまんない見栄を張るのはやめようぜ、苦しくなるのはお前だ――」


 なんて面白可笑しくガイが言っていると、


「――帰ってきてたのか、ガイ」

 

 クイナが近郊の森から出てきた。


「お疲れ様です隊長」


 それを見るや否や、ガイは姿勢を正した。

 先程までの顔とは打って変わり、それは真面目なものに変貌した。


「初任務、どうだったか?」


 ガイは昨日から、初めての任務についていた。カトラスらが二か月前に初任務を遂行したのに比べれば相当遅いが、普通はガイの方が正しい。

 カトラスらが早期に初任務を迎えたのは、通常なら入隊半年後の初任務を三か月目に行うという、クイナの異常な新人育成方が原因である。

 ガイともう一人…クリストという同期は、カトラスとキルドのようなバディとなっており、カトラスらの管理はクイナが担当し、ガイらはケルインが担当していた。

 ケルインの新人育成はマニュアルに沿った一般的な方法であったので、入隊から半年の今に初任務なのだ。


「どうってこと無かったですよ。まああんだけ訓練しましたしね… ところでキルドとカトラスが隊長に勝利したって本当ですか?いやまさかそんなこと―――」


「恥ずかしいが、二人がかりに負けてしまったよ…」


「ええ!?」


 とガイは驚き、クイナとキルドを何度も見直した。


「隊長はご冗談が上手で――」


「冗談では無いぞ。まあ二体一で木剣という条件でもあったが…私自身、弟子が強くなって嬉しいものだ」


 と微笑みながら言ってみせた。

 その会話を聞いていたキルドがふと二人の表情を見てみると、ガイは口をぽかんと開けており、クイナは嬉しそうに微笑んでいた。

 ―――姐さんなんか今日戦い終わってからすげぇ笑うな、とキルドは思った。


「ところでキルド、クリスト知らねぇ?」


「クリストなら何時間か前に来た時にカトラスがいい所に来た!お前は木こりだ!なんつって連行していったぞ」


 その答えを聞いてガイは心底同情した。クリスト頑張れよ、と。 


「…クイナは何故戻ってきたんです?」


 そんな同情をよそに、キルドはクイナが帰ってきた要件を聞いた。クイナは元々木こりチームにいたのだ。


「のこぎりが一つダメになってな。一本取りに来た」


 その答えに「なるほど」と返したキルドは、またもトントンと釘打ちに戻った。


「ク、クイナァ…!?」


 ガイはキルドが隊長を呼び捨てしたことに驚いた。

 今までは姐さん姐さん言っていてビビり散らかしたキルドがこれだ。自分がいない間に何があったんだと本気で気になるガイ。


「名前で呼ばせて敬語は気になる。ため口で構わない」


「まじすか…まあいいけど」


 ガイが驚いている最中、クイナとキルドは更なる火薬を投下した。

 その会話は既に爆発していたガイの混乱を、核爆発級のものへと昇華させた。


「何があったんだ、キルドお前マジで…」


「まあそれは作業中にでも話すよ。取りあえず屋根乗れ、屋根」


「お、おう…」


 そう言って、ガイは家屋の裏手に周り、そこにかかっている梯子から屋根に登った。


「そうだクイナ。ノコギリってことは多分木こり終わっているよな。だったらこっち手伝ってくれ。流石に人手が足りん」


「分った」


 と短く返し、クイナは倉庫室に入って行った。


「聞かせてもらおうじゃないか」


 と登り終わったガイが、キルドに目を合わせた。


「まあ作業しながらな。少し長くなるかもな――」



     □▽◆▽□



「うおわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 カトラスと、クリストという男が魂の叫びをあげながらノコギリで木を斬る。

 既に必要数の木は斧で切り倒したので、後は製材だ。


「何で、俺は突然、木なんか切らされてんだぁぁぁ!」


「うるせぇ!奴隷時代を思い出せ!そうしたらちったぁ楽になんぞ!」


 木を切る時の摩擦で、木を切っている時の甘い匂いがする。

 二人の製材技術は、この数時間で各段に上昇していた。


「大体ケルインさんはどこいったんだ…さっきまで斧振ってただろ…!」


 そんなカトラスの文句に、クリストは予想を答える。


「どうせ副隊長の事だから…どっかで葉巻でも吸ってんだろ――!」


「あああぁぁ!!あのクソじじい…!」


「おいおい、俺は30代だ。ジジイなんて年齢じゃねえ―――」


「30代はもう十分に―― って、え?」


 そこには葉巻を吸いながらこちらを眺めるケルインの姿があった。そして、直前の発現を聞かれたカトラスの顔は真っ青だ。


「ち、違うんすよ、ケルインさん…」 


「何が違うんだい?」


 そういうと、ケルインは腰に携えた鞘から、剣を少し引き抜き…


「やっちゃう?俺と…?」


「結構です…!」


「じゃあ手を動かせ、俺の分もな!」


 笑いながらケルインはそう言って、近くの切り株に座る。

 ―――これが、大人のやり方…!汚い…!


「何してんだ、ケルイン」


 数分経つと、クイナがノコギリを持ってやってきた。


「何って… 俺の分をこいつらに働かせてるだけだが…?」


「お前な…」


 呆れながら、クイナはケルインの頭をひっぱたいた。


「仕事しろ」


「はぁ…わかりやしよ姐さん…」


 と言って、ケルインはクイナが持ってきたノコギリを受け取り、渋々木を切りはじめた。

 ギコギコギコ…と、他に比べて遅い音が加わる。


「――遅いな」


 ケルインの木を切る速度を見ていたクイナが一言。


「んなこと言ったてなぁ…こんなもんだろ…」


 と返すケルインに、クイナはカトラスとクリストの方向を指差して「あれを見ろ」と言った。


「―――嘘だろ…!」


 言われた通りに見たケルインは、言葉を失った。


「…残像だと―――!?」


 二人の手の動き…特にカトラスのソレは、あまりの速さに手が複数に見えていた。

 これがこの数時間で身に着けた圧倒的製材技術――二人は非常に不本意ながら、均等な木材を何枚も作り上げていた。


「随分とチンタラやってますねぇ!ケルインさん!」


 相当気味が良いのか、カトラスは作業中のケルインを煽る。限界労働で脳がハイになり、思考回路が狂い始め、通常上司に言わないようなことを言い始めた。


「うるせぇ!こちとらもう34のおっさんなんだぞ!労われ!」


「副隊長!さっき言ったことと矛盾してませんか!?」


 なんていう三人の会話を聞きながら、クイナは釘打ちを手伝う為に拠点へと戻っていった。



     □▽◆▽□



「いやぁ…疲れた…」


 カトラスが寝室に入りボフッと寝床にダイブする。

 拠点の寝室。四番隊の人数は隊長、副隊長、そして隊員4人の6人である。

 隊と呼ぶには人数がかなり少ないが、そもそも解放軍自体がかなり少ないので仕方ない。

 解放者のうち本当に少数が解放軍に志願する。残りは本島で農作業などの仕事をしているらしい。

 だがカトラス含め、四番隊の4人は本島に行ったことがないので、その様子は見たことが無い。


「取りあえず、屋根は直したから…」


 先に部屋にいたクリストが言う。

 隊長副隊長は個人部屋で、カトラスらは共同部屋だ。


「明日は増築だな」


 と同じく先にいたガイが返す。

 

「嫌だぁ…僕明日は沢山ねるんだぁ…」


 何てことをキルドがベットでゴロゴロしながら言う。


「…あぁぁ」


「おお、クリストか…お疲れ~」


 なんて雑談をしていると、クリストが凄い疲れた顔でうめき声をあげながら帰ってきた。

 それを見たカトラスが、軽く挨拶するとクリストがキレた。


「まじでさぁ…帰ってきた直後に建築とか狂ってんだろ!」


「いや、俺らは80周走った後にクイナとバトってからだから。お前らとか格が違うんだよ…!」


 お前らなんてまだまだだぞ、と言わんばかりにキルドが返す。

 カトラスが全員の顔を見てみると、どれもこれも疲労でぐったりしていた。


「こんな疲れたの奴隷時代ぶりだ…」


 枕に顔を埋めながら、ガイが呟いた。


「回復魔術で肉体が癒されるのが、なんか…逆に嫌だわ」


 キルドがそれに返す。

 訓練や労働の後、毎回クイナが魔術をかけてくれるのだが…


「体は癒されても、心は疲れてんだよなぁ… そんな状態で動かされるから心は更に疲れる…」


 とカトラスが言うと、他の四人から「わかる、それな」などと同意された。


「…でも、炭鉱よりマシ!」


 とクリストが言うと、他3人が「異議なし!」と言って、会話はそこで終わり全員寝始めた。

 そこから寝息が聞こえ始めたのは、ほんの数秒後のことであった―――


 そんなこんなの夜の先… ―――物語は次の舞台へと映る…

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