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06 / 神剣は笑う


「――我らが創造主たる神々へ願わん」


 カトラスはキルドの詠唱時間を稼ぐためクイナへ向かう。

 ライル流――『ダイアグナル・アクセル』距離を詰める為の技を放つ。

 『ダイアグナル』は左右どちらかは問わないが、斜めから斬る技だ。それに『アクセル』がつくことで移動技になる。


「フッ…」


 コン!という木と木がぶつかる気持ちのいい音がした。

 クイナも同様に、『ダイアグナル』を反対側から放ち攻撃を防ぐ。

 ライル流の基本技術『カウンター』という、相手と同じ技を方向だけ逆にして弾く技。

 カトラスとクイナは鍔迫り合いになり、互いを睨み、腕に力を入れる。

 ―――いくら2歳の差があれど、さすがに男の俺の方が力で勝つ。と考えて、カトラスはいっそう力を入れる。


「―――我らが神々よ、太古の竜が放たれし…」


 まずい、詠唱を開始した。

 魔術が完成することに危機感を感じたカトラスは、二撃目に移る。

 『フォールン』を放つ。だが初動で読まれているのか、クイナは即座に剣を横にガードをして、攻撃を防ぐ。


「息吹、雄大なる大地に―――」


 互いの剣が弾かれ、カトラスは一歩下がってしまう。

 それを機と見たクイナは『ベーシング』をすぐさま放った。

 横っ腹を切り裂く一撃、剣では受けられない―――


「こうだ―――!」


 天空に剣を投げ、自身はその場から後ろに倒れるように剣を避ける。

 胸の直上に剣がスレスレで通り、思わず肝が冷える。 

 そのまま両手を支えにし、回転して体勢を再び整える。剣を天に投げた理由は両手で体を支えるため。


「風の形を刻め―――」


 飛び上がり、空中で回転する剣を手に取る。

 そのまま次の技を放つ。

 ライル流―――『ライトニング・フォールン』上空からの剣撃。その一撃は通常の『フォールン』の数倍に及ぶ。

 剣撃に追加で通常では乗せられない自身の重量が乗る。

 ――流石にこの一撃は防御は不可能であり、木剣で防御したらおそらく剣が砕ける。


「『エアロ・スピア』!」


 クイナは剣を天に掲げると、そこから風の槍が吹き出した。


「まずぃ――!」


 風の槍を木の剣で受ける。刺突こそ防げても、風は防げない―――

 その風圧に体が飛び、遥か上空に吹っ飛んだ。恐らくまともに着陸したら大怪我じゃ済まない。


「…―――灼熱の雨を。天から生まれし煉獄は、善悪を見ず全てを焼き尽くす!」


 ―――ここだ、ベストは今。カトラスは食らわずに、クイナ姐さんは魔術による相殺が行えない。

 故に避けるしかないが、これから行使する魔術は広範囲故回避は困難。


「『バーニング・レイン』!!」


 あの夜は、詠唱が中途半端だったために出現する炎はたった一個だったが、今回は違う。

 天から無数の炎の雨が降りつくす。その発生は宙に浮かぶカトラスよりは下にしてある。

 炎は地面につくと、大きな爆発を生み、あたりを煙に包んだ。


「これなら――やったか…?」


 いや、安心してはいけない。この程度で勝てたらクイナ姐さんは四番隊隊長なんていう大層な肩書は持っていないはずだ。

 ―――だから、必殺技を使う。


「炎は全ての叡智の大本となり、原始の命の恐怖となる。灼熱は賢者に大いなる文明を、咎人には永劫の苦しみを与える!―――『バーニング・ヒート・エリア』!」


 炎属性上級魔術――『バーニング・ヒート・エリア』。クイナがいる辺り一帯に円形の魔法陣が出現する。そこから豪炎が吹き上げ続ける。

 この魔術は、広範囲に炎の大地を作り上げる大魔術。『バーニング・レイン』で空を制したなら、あとは地上の回避行動を封じる。

 依然として炎の雨は降り続け、地面は燃えあがる。

 これこそがキルドの奥義。四日前、たまたま書物でこの魔術を発見したときに思いつき、すぐさま習得した。

 名付けて『地炎天獄』。回避困難、防御不能の広範囲攻撃だ。


「―――やるねぇ、キルド君」


 ケルインは拠点の屋根の上から戦いを眺めていた。たまたま手に入れた貴重物資の葉巻を吸いながら、灼熱地獄を俯瞰する。


「その歳で上級魔術を二連続で行使し、それを持続させる程の実力。天才だね」


 吸って、フゥーと煙を吐き出す。


「それにカトラス君も、いくら木剣とはいえあのクイナとまともに打ち合える。大したもんだ――だけど」


 『地炎天獄』の中心ぽつんと存在している影を見ながら…


「その程度で倒せたら、俺がとっくに倒して隊長になってるね――」


 己の必殺技を、キルドはただ眺める。

 カトラスを見ると、今降下に突入したところだ。―――飛びすぎだろあれ。

 いくら風属性中級魔術の『エアロ・スピア』を食らったってあんな飛ぶか…?とキルドは今更ながらクイナの魔術師としての実力に驚嘆する。


「『メテオ・ストーム』!!!」


 灼熱の中心地から、透き通るような美しい声がして、さらにとんでもない風が吹いて…

 ―――キルドの必殺の炎を全て打ち消した。


「『メテオストーム』…!?」


 風属性の上級魔術――…『メテオ・ストーム』…流星の如き勢いの暴風を辺りにまき散らす超絶魔術。

 その一撃は、周りの木々の葉を吹き飛ばし、家屋の屋根が飛んだ。

 確かにクイナ姐さんが超級魔術まで使える凄い魔術師であることは知っていた。だが、あの上級の長ったらしい詠唱を灼熱の攻撃の中で唱えられるものなのか…?

 キルドは吹っ飛びながら、クイナの魔術に再三の驚嘆を思う。

 やがて木にぶつかり停止したキルドは、その衝撃に耐え体を動かす。


「―――ッ!」


 その目には、こちらに向って高速で走ってくるクイナと…

 ――天空で、こちらに向って全力で降下しているカトラスが映っていた。

 概算で、クイナがキルドに接近し剣撃を放てる距離に来るまで4秒。中級魔術の詠唱を終えられるくらい――

 ―――魔術師の禁忌を侵す。近接攻撃手段に乏しい魔術師が、武装が無くとも行える奥義…


「自爆するしかねぇ――!」


 自身も魔術を食らう代わりに、相手にも超近接距離で魔術を食らわせられる最後の技。

 ――死ななきゃ回復魔術で戻れる…


「生者は骸に変え――」


 魔術師が近接された場合、取るべき行為は回避。その後にカウンターの一撃を入れる、――キルドはクイナにそう教えられた。

 だからクイナはキルドが回避をすると考えているはず―――そこに勝機を見出す!

 自爆を悟られてはいけない。回避の準備をしながら最低限身を守る体勢の、ふりをする。

 

「大地を穿つ――」


 あっという間に、もう至近距離。

 クイナの剣は振られ、確実に肩に当たる一撃。その一撃を放ったその時まで、クイナはキルドが必死に自身の攻撃を避けようとする姿を幻像していた。

 刹那、キルドは牙を剝く。


「『フレア・―――」


 その一言を聞いたクイナは、キルドの覚悟に驚き、直後自分の身に起こることを想像した。


「―――!自然の流れを此処に――」


「――ボム』!!」


 キルドが剣を食らいながら突き出した手から、小爆発が生じる。

 炎属性中級魔術『フレア・ボム』――小さな爆発を起こす技。中級魔術の中で屈指の威力を誇るが、飛んでいくのが異常に遅かったりと使い勝手が悪い魔術だが…自爆には最適だ。

 

「――『ウィンド』!」


 その魔術から一瞬後、クイナが風属性初級魔術『ウィンド』を放った。

 内容として少し強い風を吹かす程度だが、直撃を防ぐにはそれなりに機能する。

 ――ああ、やっぱり凄えや。あの刹那で、魔術を行使することへの判断。とても自分には真似できない芸当だとキルドはボロボロの体で感心する。

 服は焼け、肌は焦げ、あらゆるとこから血が流れている。


「――お前、何故そこまで…」


 クイナも直撃こそ防いだものの、かなり食らってしまった。特に左手を大きく負傷し、動きそうにない。


「―――決まってるすよ…」


 キルドが見るのは、少し上の空。クイナの少し後ろにいる絶賛降下中の男を見る。


「勝てば、明日休めるんでしょう――?」


「それだけの為に―――」


 ――――ドガァァァア!!

 キルドが言い放った直後、クイナの数三十メートルほど後ろの大地から大きな音がして、辺りに土煙が舞う。


「――!?」


「任せたぜ、相棒……」

 

 ―――気術による、身体強度の強化により着地衝撃を耐える。落下地点はかなりクイナ姐さんに近い…!

 痺れをもろともせず、カトラスはクイナの元に走りだした。

 

「――なるほど…!そういうことかお前ら…!」


 クイナは動く右手の剣を握る力を強め、立ち上がり、迎撃の姿勢を取る。

 

「うおぉぉぉぉ!!」


 放つのは、『ダイアグナル』――!剣を右上から思いっきり振る!

 全身の気力を、ただこの一瞬にかける。剣は赤色に光っていた。


「はぁぁぁぁ!!」


 両者の叫びが木霊する。

 クイナも走り、剣を振る。


 ――――コォォォォォン!!!


 木がぶつかる音が、最初より激しく鳴る。

 ――またも鍔迫り合い… だが!


「勝つのは、こっちだ!」


 カトラスが力勝負に勝ち、クイナの剣が手から離れる。

 そのままなし崩し的にクイナを押し倒し、馬乗りになり、剣を顔の横に突き立てる。


「ハァ…、ハァ… 勝ちました…」


「そうだな、負けてしまったな…」


 カトラスの表情は清々しく嬉しそうで達成感に満ちていて…、クイナの表情は嬉しそうで、悔しそうだった…

 勝てると思っていた勝負に負けた悔しさ反面、弟子の成長を喜ぶ気持ち。


「まあ、まだまだ一対一なら負けんがな…」


「そうですね…、でも、勝ちは勝ちです」


 その力ない一言に、クイナは少しムっと来て…


「なあカトラス…」


「何です、姐さん?」


「神剣、使っていい?」


 そんな一言にカトラスは青ざめて「ダメですよ!?」と慌てて言った。


「はは、当然だな」


 悔しいと思った自分の心が、まだまだ子供だなと思う。よく考えれば私はこいつらと二つしか変わらないのかと、クイナは思う。それなのに自分の方が圧倒的に上だった感じがしたのは…強さからだろうか…?


「そうだろうな…」


 カトラスに聞こえないくらいの声で呟いた。

 神剣を持ってから数年、思えば生活が変わったのはあれからだ。周りが大体自分より弱くなって、隊長になってからはちゃんとした大人と関わることが増えて… 私自身は、こいつらと同じだったんだなと、クイナは思う。


「というかいい加減どけ、カトラス」  


「―――無理です」


「何故だ…?」


 その一言に、カトラスは震えながら言う。


「足の骨が折れて… 立てません…」


「―――まあ当然だよな…」


 そらあんな高いとこから落ちたら骨の一本二本ぐらい折れるだろうと。

 逆に何で折れていたのに追撃できたんだよ、と…

 何であんな高さに行ったカトラスをキルドは信用できるのか…


「ハァ… 我らが神々よ、癒しの天使の力を、我らに再起の力をもたらしたまえ『ハイ・ヒーリング』」


 ちょいと回復魔術を唱えると、カトラスの骨折はたちまち治り、そして立ち上がった。


「ありがとうございます」


「私はキルドにかけてくるよ」


 そう言って、キルドの元に向って魔術をかけた。

 そしてキルドは起き上がるとすぐ勝敗を聞いた。


「おいカトラス、勝ったのか!?」


「勝ったぞ!」


 その報告を聞いていなキルドはカトラスの元に跳んでいき、ハイタッチをした。


「「しゃあぁぁぁぁ!!!」」


 そんな光景を見てクイナは思う。

 ―――これが、自分の欲しかったものなんだと。

 自分は、周りより強くて、周りから浮いた。だから、友と呼べる存在がいなかった。

 互いに信じあえる仲間、友が欲しかったのだ。

 そしてそれがない『空白』を隊長としての仕事で埋めていたのかもしれない。

 そうした結果、自身も同じ隊長のように大人でいることに強いられて…


―――もう少し、私も『自由』になっても良かったのだな…


 負けて、彼らを見て、気付いた

 そうしたら、この『空白』も埋まるかも知れない。そして友が出来るかもしれない。

 彼らと―――友になれるかもしれない。


「クイナの姐さん!本当に明日は休みでいいんですか!?」


 あらかた勝利をたたえ合ったキルドが、こちらを向いて聞いてきた。


「ああ、いいぞ。ゆっくりと休め―――」


 クイナは、二人のいるところにゆっくりと歩く。


「二人とも、少し聞いてほしいことがあるんだが…」


「どうしたんですか、そんな改まって?」


 カトラスが不思議そうな顔で訊く。


「私のことを、姐さんとか、隊長とか、じゃなくて―――」


 心臓が何故かドクドクと止まらない。こんなの初めての感覚だった。


「――クイナ。ただそう呼んでほしい」


 そのことに、二人はすごくキョトンとして、空間が無言になり…

 やがて、クイナがだんたん辛くなったころに…


「「アハハハハ!!」」


「え…」


 二人は大きく笑い、それがクイナの不安を掻き立て…


「何いってんすか姐さ… いやクイナ」


「別にそれぐらい構いませんよ、あね…クイナ」


 二人はクイナのお願いに普通に「はい」と言って、笑ってみせた。

 その答えを聞いて、クイナの不安も消し飛んで―――

 そしてクイナは思う。今は形だけかもしれない。でも、いずれは本当の―――

 周りには笑いが満ちている。二人は大きく笑い、一人は微笑んで…


「おい、お前ら屋根直すぞ!」


 そんなムードをぶち壊すように、森からケルインが出てきた。


「カトラス、キルド、来い。人手がいる!」


 さっきの戦いで吹っ飛んだ屋根を直すためにケルインから召集をかけられた二人は「はい!」と大きく言って森の方へ駆け出した。

 それを見ながら、クイナは少し考えて森に向って歩き出した。 


「おや、クイナ姐さんあんたも来るんかい…?」


「ああ、私も行ってやらんとな―――」


 と言って、クイナは小走りに二人の後を追った。

 

「何があったんだか、あとで聞いてみっか――」


 ケルインは見た。走るときのクイナの顔が、いままでにないくらい笑顔であったことを―――


カトラス飛びすぎやろ、私も思いました。魔術とか気術ってすごいんですよ

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