14 / 剣と槍、そして拳
「うおらぁ!!」
カトラスのけたたましい雄たけびと共に、槍の一撃が放たれる。柄を剣で弾くが、その勢いを殺さずにガイは二撃目を放つ。
それも防御するが、流れが途切れて後ろに飛んで一瞬の間。
「―――……ッ!」
再び激突。数秒の内に、計八回の剣戟が行われる。
槍の先端と、剣の先端がぶつかり合う絶妙な間合い―――そして、その戦いを制したのはカトラスであった。
槍を強く弾いたところで、ようやくできた一瞬の隙に入り込む。
攻めの姿勢を崩さずに、攻撃の雨を止ませない。べランスを崩したガイは最初こそは上手く流せていたが、利子というものは積み重なっていくものであり、最初のミスが大きい負債となって彼に襲った。
「グァ……ッ…!」
決定的に、転倒した。尻から転ぶ最悪の形。
当然、それを逃すカトラスではない。すぐさま剣を逆手に持ち替え、地面へと突き立てるようにとどめを刺す。
「チッ……!」
だが、それを受けるような半端な覚悟なら、ガイは今まで生きていないだろう。
横に回転して剣を回避し、距離を取りすぐさま立ち上がる。その際、槍は倒れた地点に突き刺さったままであったが、負けるよりは良い。
すぐさまカトラスは、武器の回収を防ぐため刺さった槍をガイと反対方向に蹴り飛ばす。
―――剣を持たれては、俺に勝ち目は無い。ガイの一瞬の思考。故に、武器を落とさせるしか道はない。
回避を続けて、機を待つ。
カトラスが走ってくる……!確かに見据え、攻撃を見極める。
剣が空を斬る。またも、空を斬る。―――回避、回避、回避。防御は許されない。剣身に当たれば、それは負けを意味する。
カトラスは確かに強い。だがそれは近接戦のセンスが占めているとことが大きい。反面、ガイのセンスはカトラスに劣る。だが、基礎的な身体能力ではガイの方が勝る。
敏捷性がモノを言うこの戦いでは、ガイにいくらか部がある。
「ッ―――!!」
大上段からの切り下げ―――此処が好機。
剣の下に潜り込み、カトラスの手を強く打ち付ける。
「ぁがっ……」
剣が上に引き戻され、そこに隙が生まれる。
一瞬の隙を見逃さないのは、互いに同様である。―――すぐさま、胸に掌底打ちを放とうとする。
「クッ……」
それを無理矢理身体を捩って回避する。
それは、カトラスの圧倒的センスによるもの―――だが、無理な動きは犠牲を伴う。
今回のそれは、武器と姿勢だ。
後方に頭から倒れ込む…… その姿勢が見えた瞬間、ガイは一歩後ろに引いた。
『クレッセント』―――後方に回転しながら放つ蹴り技。
「――――!」
拳のみになった互いの視線が交差する。その瞬間、互いの拳が飛ぶ。
双方は回避を捨て、殴り合う。
もはや彼らにとってこの戦いは訓練ではなく――――
「何殴りあってんだお前ら……」
そこに、呆れながら話すキルドが来る。
それに気付いた二人は戦闘を止めて、彼の方を向く。
「もう終わったぞ、今日の訓練。何やってたんだと思ったら殴り合いの喧嘩してたとは―――」
「訓練だ」
「なるほど」
キルドの軽口は、ガイの一言で止まり。話を続けるのを諦めた。
そのまま彼は役目を終えたと言わんばかりに建物へ戻って行った。帰っていくのを見るやいなや、二人はジャンケンをして、負けたカトラスは槍と剣を拾わされて、倉庫に持っていくことになった。
「あの野郎……何でジャンケン強いんだ?」
愚痴をこぼしながら、カトラスは倉庫の扉を開く。
そこそこ重くて大きいので、開けるのは一苦労だ。
「………あ」
そこには、黙々と備品を整理するライラがいた。
小さなランタンを光源に、如何にも辛そうな体勢をしていた。
「……手伝いましょうか?」
剣と槍を決まった場所に置いて、カトラスがニコっとした笑顔で話しかける。
「大丈夫、もう終わるから」
そう言って、彼女は立ち上がって倉庫を出ようとする。
カトラスの横を通り過ぎるとき、彼女は静かに言った。
「今日の夜、訓練場に来て……」
「―――――――へ?」
カトラスが慌てて振り返った頃には、彼女はもういなかった。
言い表せない感情に、心臓を強く拍動させながら、時は夕を越えて夜となる―――
かなり短いです。ごめんそ