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11 / 気力の使い方


 あの激戦から一時間後、ライラ副隊長に回復魔術をかけてもらい起き上がったカトラスら一行は医務室で安静にしていた。 

 ベットが五台あり、そのうち四つを一行が占領している。

 

「なんで僕らベッドで休んでるんだ?」


 目覚めたキルドが一番に言った言葉だ。

 

「そらニグさんにやられたからだろ」


 と返したのは一足先に目覚めていたカトラス。彼の全身には何故か包帯がグルグル巻きにされていた。


「なあ、俺ら多分回復魔術かけられたよな?何で安静にさせられてるんだ?」


「普通は安静にするんだってよ。クイナが異常なだけだ。あと今日は休んでいいってニグさんが言っていたぞ」


 という問答の末、キルドは「マジ!?」と言って布団を被って寝始めた。

 ガイとクリストを見ると、寝ていた。まだ起きていないか、先に目覚めて寝たか。包帯だらけの自分の体を見てカトラスは、クイナの回復魔術スパルタ訓練法が異常だったことを悟る。

 普通の人間は回復魔術を貰ってもすぐに起き上がることはできない。いつかにケルインから聞いた言葉だったが、まさか本当だとはとカトラスは思った。


「凄い強さだったな…」


 手をグーパーとさせて、先の戦いを思い出す。

 剣技、気術、体力―――あらゆる面においてニグは優れていた。特に秀でていたのは知識…あらゆる技を初動だけで見切られ、返された。

 クイナに勝って、少し強くなったと思ったらこれだ。上には上がいる…いや、クイナもあれが本来の強さではないのだろうが…


「俺も寝るか…」


 未だ午前だというのに寝る、悪魔的快感…… その背徳感を味わいながら、カトラスは眠りについた。



     ▽〇▽〇▽



「今日からハイカ収容所強襲作戦までの六日間、四番隊の四人が訓練に加わる!」


 ライラ副隊長のよく通る声が訓練場に響く。

 兵士全員が隊列を組み、その前に彼女がいる形である。カトラス一行はライラの右前に横一列で並ばされており、その声を聞いて四人が礼をした。

 その時、ガイがほんのワンテンポ遅れていたのは恐らく話をよく聞いておらず、他三人が礼をしたのを見てから合わせたのだろう。

 それを認識したキルドは「恐ろしい反応速度…!」と心の中で思った。


「よろしくお願いします!」


 礼を終え、兵士達を見ながら四人が言う。

 

「ではランニングを始める。全体、進め!」


 その一言がかかると、隊列の端から走り始めた。

 兵士たちの足並みは完璧に揃っており、その洗練された集団行動を見てそれぐらいにまで出来るのに一体どれくらいの訓練をしたのかと、カトラスは感心した。


「では四人は隊列の後ろについて行ってください」


 ライラはそう言うと、隊の前に走っていった。

 それを見てすぐに四人は走り出した。その足の動き、手の動きはバラバラで統率なんてあったもんじゃなかった。


「いち、に!いち、に!」


 隊の声が聞こえるが、四人は特に合わせるのではなく、適当に雑談していた。

 

「なあカトラスよ。僕はあの90周以来並大抵のマラソンが散歩にしか感じなくなったんだ」


「はは、俺もだ…」


「眼が死んでる……」


 二人の会話を眺めていたクリストは、その表情を見て若干引いていた。目に光が無く、表情がピクリとも動いて無かった。

 そんなこんなで会話をしていると、マラソンはいつの間にか終わっていた。

 そこからは、自重トレーニングなどを10分ほど行い、剣の素振りに移った。


「棒を振るなんて、久しぶりにするな」


 というのはキルドの言葉だ。

 この一番隊は、魔術師だろうが気術師であろうが剣の訓練させられる。

 それはニグの教育方針であり、魔術特化より魔術戦士が優れていると考えているようだ。


「中々キレがありますね。剣を持ってみては?」


 と歩いて見回るライラがキルドに話しかける。


「まあ昔ずっ―――とツルハシ振ってましたからね。あと剣を持つ気はありません」


「そうですか……」


 ライラは少し残念そうにしていた。


「というか副隊長さんは訓練しなくていいんすか?」


「私は早起きして先に終わらせているので大丈夫です」


「……そうっすか」


 その会話を終えると、ライラは歩いて別兵士のところに行った。


「つか何でお前剣を持たねえんだよ」


 カトラスが機を見てキルドに問いかける。


「理由は一つ、前線に立ちたくないから。あんな接近で敵と戦うなんて俺は御免だね」


 その一言には、キルドの性格が詰まっていた。

 ビビりで、割と自分本位。だがやる時はやる男――それがキルドだ。そのことを知っているカトラスはため息をついて呆れる。


「おー、いた。カトラス君、ガイ君。ちょっとこっち来てくれない?」


 どこからともなくやってきたニグが二人を呼んだ。

 その姿は昨日隊長室で出会ったときのものであり、少なくとも戦っているときのソレではなかった。

 人好きのする笑顔で、手でちょいちょいと来いと合図した。


「わかりました」


 二人は素振りを止め、ニグの方向へ走って行った。

 それを見ていたキルドが「訓練抜けれていいなぁ」と言わんばかりにこちらを見つめてきたが、それは無視する。 

「さて、君たちは気術師だったね」


「そうだ」


 ガイが素っ気なく答える。

 彼は自分より上の人にはちゃんとした態度をとるということは奴隷時代からの癖で身についているが、どうやら今日は機嫌が悪いのか、ニグに対しての答え方が酷い。

 恐らく、負けて拗ねているのだろう。半年前にクイナやケルインにボコボコにされた後も、こんな感じだった。


「今日から残りの五日間。私は君たちにみぃっちり気の使い方というのを教えてあげようと思ってね」


 ガイの態度なんて気にも留めず、ニグは話を続ける。


「カトラス君。私は今から君に全力で剣を一発打ち込む。それを君も全力で受けてくれ」


 そう言ってニグは剣を構える。彼が構えるのは双剣ではなく、他の隊員が持つような普通の木剣。


「全力で打つぞ。これなら壊れても替えはいくらでもあるからな――」


 木の双剣は彼の手製であったが為に、壊されたくない。その思いで、先の戦いでは二人の武器を木製の物にしたのだ。

 カトラスはニグの構えから技を『フォールン』と判断し、剣を横に構えた。

 ―――瞬間、膨大な気力の流れが辺りに沸き起こる。


「――!?」


 それに気付いた訓練中の兵士達は、こちらを見つめた。

 お互いの剣が膨大な鮮やかな青色の光に包まれる。


「いくぞっ!!」


「はい!」


 そこ掛け声と共に、閃光の一撃が放たれる。

 その『フォールン』はカトラスが放つものよりも、何倍も威力がある一撃。

 気力の爆発が起こり、辺りに衝撃波が発生する。

 

「なんつう威力……」


 ガイの呟き。最も間近で見ていた彼は、衝撃波から身を守っていた。

 そして彼は見た。剣が衝突する寸前、ニグの剣が禍々しい赤色になったことを。

 土煙が二人の周りに舞って、それが晴れたころ……


「カ、カトラスゥゥゥゥゥゥ―――!!!」


 ぶっ倒れたカトラスを見て、キルドとガイとクリストが叫んだ。

 ニグは涼しい顔をして立っているが、持っている剣はボロボロに崩れていた。


「まあ、こんなもんか」


 平然とした顔でニグが呟く。慌ててライラが走ってくると、カトラスに中級の回復魔術をかけた。

 優しい緑がカトラスを包み、傷が癒される。


「はっ!」


 傷が癒された瞬間、カトラスはガバッと起き上がり、辺りを見渡す。


「だ、駄目ですよカトラスさん!安静にしなきゃ」


「いえ、大丈夫です」


「えっ…でも…」


 むくりと立ち上がり、ボロボロになった剣を見る。


「カ、カトラスさん……」


「大丈夫だよライラ。多分彼、慣れてるから」


 というニグの言葉を聞いたライラは、カトラスの表情を見る。


「目が……死んでる……」


「治療即起床は四番隊の基本です」


 その言葉にガイは「うんうん」と首を振って同意し、聞いていた魔術師の二人も心の中で同意していた。


「起きなかったらビンタ。最悪ぶん殴られます」


「……治療したのに??」

 

 カトラスは虚空を見つめていた。


「四番隊出身はね、大体こんな感じだよ。なまじクイナさんがとんでもないレベルの治癒術師だからね、六秒あれば致命傷からも一瞬だよ」


「えぇ……」


 ライラが引いた。


「上級回復魔術はポンポン使ってくるし、たまに超級まで使うからな」


 ガイの言葉に、ライラが更に引いた。


「私中級までしか使えないのに……」


「まあ隊長と副隊長だし……実力に差はあると思うよ。むしろライラさんはこれから――」


 というカトラスの励ましに、落ち込んでいたライラの顔が少し明るくな……


「――まあクイナさんとライラ同い年だけどね」


「ニグさん!?」


「あっ……ごめん」


 そのことを聞いて、ライラはまた落ち込んだ。

 ―――あの人スゲェ天然だな。と聞いていた素振り中の魔術師二人は思った。



     ◇ ◇ ◇



 あの後ニグは何事も無かったかのようにし、ついでにガイが持っていた剣を奪った。


「気術とは気力で武具や身体を強化する。それが本質で間違いはない。だが気術を使いこなし、その全てを発揮する為には魔術と同様に訓練が要る。だが、君らにはどうやらその知識がない。元々クイナさんが魔術側だから気術に明るくないのだろう」


 ニグは片手で剣を持ち、そこに気力を流して光らせている。


「まずは気の意志について話そうか」


 そう口走ると、剣の気力が増した。


「気術というのは、術者の心境に大きく依存する。”殺す”や”壊す”といった気持ちで剣に気術を使えば、気は鋭さを上げる。逆に”守る”と思いながら行使した気術はその強度や硬度を上げる。つまるところ、気術は何を目的に使うかで、その強さの方向性が変わってくる。だが、今のお前らはただ漠然と気術を使っている。ただ”強くなるから”という理由で使う気術は、弱い」


 そんなことを言いながら、ニグは近くの木まで歩く。


「だから、―――”斬る”という明確な意志を持って、十分な気力量さえあれば……」


 ニグは木剣で、『ベーシング』を放つ。赤色の奔流が迸り、木を切り倒した。


「こんな剣でも、木ぐらいは切れる」


 それを見て、二人は戦慄した。昨日の戦いは、本格的に手加減されていたのだと悟ったのだ。

 癖なのか、ニグは血振りをして鞘が無いことに気付いてコホンとせき込んで、話を戻す。


「さっきの一合。私は”斬る”と意識して剣を放った……だが、君はどうだ?」


「何も…とは言いませんが、確かに漠然とした意識で気術を使っていました」


「そうだろう」


 ニグはふふんと目を瞑り、得意気な顔をした。


「そして次に、君らは気力の使い方が下手だ」


 ニグは剣を二人の方向に剣を向ける。


「君らは気術を攻撃の時のみ使っているようだが、それはいけない。常に気力を全身に回し、最低限の防御力は確保しておくべきだ。特に君らは防御に気を回すという行為に慣れていない」


「つってもニグさんよ、常に全身に気力を回すなんてできんのか?」


 手を挙げて、ガイが質問する。


「そこは訓練だな。日常から気を纏うんだ。力を吸って、それを気力に変換して、全身に回す。何も意識しなくても、呼吸と全く同じように気を生成できるようにする」


 カトラスとガイが目を凝らすと、ニグに薄っすらと気力が纏われているのが分かる。


「コツは、膜を帯びると考えること。薄くていい、”守る”ことを意識した気力の膜を張る」


 ニグは身体に張っていた気の膜を厚くしていき、それを剣に移行させ、気力を集中させた。


「この”気の膜”が出来るようになれば、気力の瞬間的な生成可能量は各段に上昇する。そうすればこんな風に、必要な時に、大量の気力を行使することが出来る」


 そう言うと、剣の気力量を自身の身体へと戻した。


「この気の膜をどれくらいの厚さ張っているかで、そいつがどれ位強いかが簡単にだが測ることができる」


 空いた方の手を腰において、再び二人を見てニグは言う。


「これが出来なくては話にならない。だから、君たちには作戦までの残りで気の膜を張れるように、みっちりと猛特訓してもらう」


 ニグの表情は最初とは異なり、どこか訓練のときのクイナを思わせる表情へと変わっていた。

 カトラスとガイは喉を鳴らし、覚悟する。

 ―――修行の六日間が、始まった。



ハンターハンターのGI編中の修行パートとか好きですよね?僕は好きです。

面白かったら感想とかください(乞食)

乞食が不快だったら止めます

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