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09 / 双剣の試し斬り


「ルールは簡単、私が倒れるか、君たちが全滅するか… 判定は副隊長に任せる」


 外では既に一番隊の隊員たちは隅に寄せられ、中央にニグがいた。

 通常より短い身の剣を二対、両手に装備している。それ以外特に武装は見られず、防具とかも無い。

 四人は来て早々、戦いに巻き込まれた。


「僕戦いたくない…」


 という正直な感想を、キルドは述べる。


「まあ逃げられる筈も無いし、やるかぁ…」


 と言って、クリストが背中に背負っていた鉄弓を構える。左手で矢筒から一本取り出し、弓につがえた。

 そんな中、カトラスが一つの疑問をニグに投げつける。


「なあ、弓も魔法もあって何で剣と槍は訓練用なんだ。ぶっちゃけ前二つに当たったらワンチャン死にますよ?」


 それを聞いたニグは不敵に笑い、答えた。


「いや、本当なら訓練用武器は私の分だけで十分なんだがな、でも君らが真剣を使うとこの木の双剣が斬れてしまう可能性がある。だから、君らのも木にしている。それだけだ」


 その答えになっているようで、なっていない答えを聞いてカトラスは納得がいかず、追究する。

 

「私の分だけで十分、それはいったい――」


「―――分らないのか?訓練用の武器は死なない為に木で出来ている。そうだろ?」


 くっくっくっ…とニグは笑っている。その姿に四人は不気味に思えて――


「―――じゃあ当てられない武器を木にしても、あまり意味はない。ということさ」


 ―――ムカついた。四人同時に抱いた同一の感情。そしてこの中で最も感情を優先して動く男が、槍をブンブンと回転させ、歩みだした。


「嫌なやつだな、アイツ」


 とガイが言う。


「だが勝てる相手ではねぇぞ」


 とクリストは返す。


「だったら、アイツを二回三回ぶん殴ってから、負けようぜ」


 そういってカトラスは剣を構える。


「―――いつでもどうぞ?」


 なんていう挑発に、四人らは全力で乗ることにした。


「俺がまず弓で牽制、その隙にカトラスとガイは接近する。その後俺らは適宜援護をしつつ、機を見て大技をぶっぱなす――オーケー?」


 クリストが作戦内容を伝えると、ガイは駆け出した。


「いつも通りってことだな――」


 ガイを追うように、カトラスも走り出した。

 『アクセル』――最も効率的な歩法・走法であり、ライル流で最初に叩きこまれる技術。

 ニグは静止して、こちらを観察している。『防戦見敵』ライル流の心得の一つ。

 二人の間を、矢が一本通過してニグの元へ届く―――それをニグは簡単に躱し、再び見敵。

 矢は発射を見られたら避けるのに十分なほど遅い攻撃である。


「なら、これはどうかな…?」


 クリストは再び矢筒から一本取り出して、弓につがえる。

 そのまま周囲の力を吸収し、魔力を生成する。


「嗚呼、我らが神々よ自然の流れを此処に――『ウィンド』!」


 周囲に風が生じて、地面から上空に向けて吹き荒れる。青い髪は上に向ってたなびいている。

 その風を微力な魔力で維持して、風の流れを掴む。


「――御身が生み出した大地の流れを人類の叡智に封じ込めよ『ウィンド・エンチャント』!」


 『ウィンド・エンチャント』―――風属性中級魔術であり、周囲に流れる風を何かしらの道具に封じ込めるという魔術。今回は風が吹いていなかったため、『ウィンド』で意図的に風を起こした。

 そしてこの魔術で、風の力を矢の羽に封じ込めた。


「万物を運ぶ風よ、その力をいかんなく発揮せよ――!」


 口で追加句の詠唱を紡ぎ、眼で狙いを定め、敵を撃ちぬく為の正確な一射を放つ。

 矢は先の一射と変わらぬ速度で進んでいき…


「―――『ジェット』!」


 風属性中級魔術。効果は単純で暴風を放つだけであるが、今回は『ウィンド・エンチャント』で封じ込めた風を利用した追加句による発動。羽から大量の風が吹き出し、矢の速度が爆発的に上昇する。


「矢が速くなった…?風魔術か?」


 突撃した二人を眺めていたニグは、自分に放たれた第二射が突然速くなるのを見た。

 ―――左右から回り込むように…同時に攻撃して回避しづらくする。カトラスとガイは同じことを考える。

 カトラスは『ダイアグナル』、ガイはライル流槍術の…確か『アーク』という弧状の薙ぐ技だったかな…とニグは二人の技を構えから予測する。

 前方左右からほぼ同時を攻撃…だったらコレがいい。


「ハァ!」


 カトラスは牽制程度の一撃を放つつもりてあり、それはガイも同じであった。

 だがそれではいけないと、直後思い知らされる。


「――気力すら込めいとは、随分と優しい一撃だな!」


 ニグが放つのはライル流『リボルバー』、一回転して全方位を切りつける技である。

 この三方位からの攻撃ほぼ同時だが、当然僅かに差がある。

 その順番は、ガイ、矢、カトラスの順番で速く、――非常に都合が良かった。

 ―――青く鮮やかに光る木の双剣が、鮮烈な円を描き、回転一回で全ての攻撃を弾いた。


「ハガッ――!」


 うめき声をあげたのはガイ。カトラスはガードに成功し、少し後ろに飛んだ程度で済んだ。転倒することは無く、立てている。


「フゥ…」


 この一撃でカトラスは確信した、この人クイナとは比べ程にならないくらい強いと。


「どっちから…」


 一番隊隊長は休む暇を与えない。ニグが呟いて、刹那の思考を開始する。

 ―――ベストは後方組から…だがそれは恐らく邪魔が入る。ならば鉄則に従って弱い方から潰す…!


「――!ガイ、そっちに行ったぞ!」


 『リボルバー』をまともに貰って、思いっきり吹っ飛んでしまったガイはまだ痛みに悶えている。

 それを見て、カトラスは気力を足に込めて全力で地を蹴った。


「――我らが創造主たる神々へ願わん、原初を司りし炎の悪なる面を此処に、地獄の底から撃ち抜く一撃!」


 ――キルドの場所はクリストから少し離れ、発射方向をずらしている。

 右手を銃のような形にして、左手は右腕を掴む。人差し指の先、そこに炎球が待機している。

 ガイがよろめきから治るまでの時間を、何としてでも稼ぐ。


「――『デストロイ・ファイア』ッ!」


 指の先端から、圧縮された炎が放たれる。レーザービームのようなそれは炎属性中級魔術。

 射程、速度、威力共に優れる代わりに、精密射撃が求められるという技だ。

 かつてキルドはこの技を苦手としていたが、クリストに弓矢の技術を教えてもらうことで克服していた。


「―――ッ!」


 背後から燃えるような音がしたと認識した瞬間、ニグは閃光の判断で体をそらした。


「―――冗談だろ…化け物じゃねえか…」


 『デストロイ・ファイア』は常人なら聞いてから避けられるような魔術ではない。

 キルドが外したわけではなく、確かにその一撃はニグがいた場所を貫いていた。

 行き場を失った魔術はガイの横を通り、ちょうどあった岩に当たり爆散した。


「――グァ…」


 フラフラとする意識を無理矢理起こす。

 キルドの一撃によりニグの到着が遅れ、ガイは動けるぐらいには良くなった。

 ―――目の前にはニグの姿。ガイは槍を構え直す。


「うぉぉぉぉあああ!!!」


 放つのは槍の一撃。ライル流槍術『チャージ』は前方に槍を突く技。

 ライル流は全ての術に通じ、あらゆる武具に技を与える。それは多岐に渡るが、槍術の技は二つしかない。『アーク』と『チャージ』の二つ、薙ぐか突くか。そして槍術はそれをいかに連続で放つか――

 疾風の如き速度の突きを、何度も放つ。

 それをニグは、いともたやすく双剣で捌く。

 ―――『チャージ』『チャージ』たまに『アーク』……『アーク』『チャージ』…!

 ガイの気力が木槍に光を宿し、薄い青の雨を辺りに散らす。

 

「ぁ――ッ!」


 槍が双剣に打ち付けられ、地面に当たる。

 片方の剣で槍を抑え、もう片方でガイを攻撃しようとする。

 ――その時、ガイは背後から風を感じる。


「――えっ!?」


 音を殺して接近し、確実に一撃を叩きこもうとしたカトラスの気配を感じ、ニグが攻撃を止めて防御に回した。

 決まったと思った攻撃が防御されたことにカトラスは困惑し、硬直してしまい――


「――『ジェット』!」


 そのピンチに、クリストが風の一射で援護する。

 それは当然剣で弾かれるが、カトラスが硬直から回復するのには十分であった。

 カトラスが『ベーシング』を放つ。

 ――それに対し、ニグは槍を抑えるのを止めて、後方にバックステップ。


「流石のコンビネーション。だが個々の実力がまだまだだな――!」


 カトラスとガイの二人は、再びニグに向って距離を詰める。

 ガイは上から下への『アーク』、カトラスは右上からの『ダイアグナル』を放つ。

 ニグはそれらを丁寧に双剣で受け止め、カトラスのものは気力を込め強く弾き、彼を吹っ飛ばした。

 カトラスは着地に成功し、ニグの元へ再び走り出す。


「ハァ――!」


 継続して接近状態のニグはそのまま『チャージ』に繋げる。

 槍を回し、突いてと連撃を繰り広げる。だがニグはそれに当たることは一切なく、ことごとくを避けるか剣で受け流す。

 まるでお遊びかのような余裕な態度で攻撃を捌き続けるニグに対し、ガイはイライラが増していき、それはガイの動きをどんどんと雑にさせ…

 ――とうとうニグの反撃を受けた。


「ガァ…!」


 ガードにこそ成功した。双剣の一撃を気力を込めた木槍の柄で受け止めるが、勢いが殺せる筈はなく、そのままかなり遠くに吹っ飛んでいってしまった。

 そのまま入れ替わるようにカトラスの攻撃飛んでくる。

 

「…なるほど」


 ニグが呟いた。

 カトラスの一撃目、二撃目を丁寧に受け流した。それは左右両方向からクロスを描く『ツインクロス』… ならば、三撃目は容易に予想できる。


「ほらね――!」


 予想通り、中心への突き。三連撃技の『トリニティ』。双剣をクロスさせ、その中心で剣を止める。

 その直後に、カトラスの腹を蹴る。

 気力が込められた全力の蹴り。それをまともに食らったカトラスはガイと同様に吹っ飛ぶ。


「―――おい、大丈夫かガイ!」


「…いてて、これぐらいなら大丈夫だ」


 飛ばされたガイにクリストが駆け寄る。ガイの方は吹っ飛ばされたものの直撃を受けなかったため傷は浅い。それに比べカトラスはもろに蹴りを貰ったため、かなりのダメージを受けている。


「ガイ、頼みがある。俺とキルドは今から上級魔術の詠唱を行う。それまでの時間を稼いで欲しい」


「ああ分った」


 そう言って槍を構えるガイ。クリストはそれを止め、もう一つ言った。


「それと何とかしてニグを浮かせて欲しい。下から攻撃するとかで…出来るか…?」


 そのことを聞いたガイは、珍しくクリストの意図を察して…


「やってみる」


 ――そう言って、ニグの方向に槍を構えて駆け出した。


「いってぇ…」


 カトラスが上体を無理矢理起こして、周りを見る。

 こちらに向って全力疾走してくるニグと…手で何かの合図をしているキルドが見えた。

 カトラスとキルドは以前、キルドが魔術名を叫んだせいで『フラッシュ』を避けられるという痛い経験をした。そこから彼らは反省し、手の動きで合図するというのを考えた。


「う…か…せ…ろ…?」


 浮かせろ…?多分ニグをだろうが… と考えていると、ニグがもう間近にいた。


「まず…ッ」


 地面に座ったままのカトラスが剣で放たれる二つ同時の一撃を受け止める。

 互いが気力を解放し、剣を押し合う。

 だがそれはカトラス側にジリジリと押されており―――


「くっ…」


 カトラスが全力で剣を押しても、返されていく…

 ニグの後ろには、こちらに向って走ってきているガイが見えている。

 ―――ダメだ、ガイが来るまでに押し切られる…!


「…オラァ――!」


 かなり遠くの位置から、ガイの声が聞こえた。

 ――ハッタリにしてもバレバレだ…声で攻撃を誤認させようとしても、ニグには意味はないだろ…


「―――ッ!」


 ニグが体をずらした。

 何故だとカトラスは一瞬思ったが、その理由を次には知ることになる。


 ―――自分の頭上を、飛翔する槍が通過した。


 ガイの気力が込められた槍の、青い一直線の軌跡が宙に描かれる。


「槍投げか…実に素晴らしい判断だが…」 


 ニグが歩いてカトラスとガイから距離をとる。


「武器を無くしたら戦えないのでは?」


 その問いかけに対し、ガイは「ハッ!」と笑って、拳を構える。


「武器なんて無くてもいい。何でもありなんだろ?」


 ガイの顔つきは真剣なものになり、ニグは不敵に笑う。


「素晴らしい心構えだ…!」


 ニグも双剣を構え直し、カトラスもその間に立ち上がり剣を構える。

 槍は遥か遠くに行ってしまい、もう拾うことはできないだろう。

 徒手空拳となったガイだが、そこに恐怖は無い。


―――第二ラウンド開始だ…!


四対一書くの超むずくね?


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