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婚約宣言

 私は代替案を口にする。


「……ではせめてオーエンナ様に家政の取り仕切りの引き継ぎだけを」

「違う! だから言ってるだろう。離縁を取り消せと! わからないのか!?」

「しかし……」


 その時。

 私の隣で、発言したのはセオドア様だった。


「ストレリツィ伯爵。なぜ貴殿ははっきり言わないのか? あの魔石鉱山の名義上の管理者としてクロエと婚姻を結んでいなければ、ストレリツィ家が没落しかねぬ状況だと」


 私は弾かれるようにセオドア様を見て、続いてステッファンを見た。

 ステッファンは言葉を詰まらせる。その表情はセオドア様の言葉が真実だと告げていた。


「……そうだ。だからクロエには戻ってきてもらわねば困る。我が領地はこのままでは取りつぶしになってしまう」

「そ、そういう事なら……さっさと戻ってきなさいよ、クロエさん!」


 顔を真っ赤にしていたオーエンナも手のひらを返すように、私に再婚を迫る。


「私は……」


 困った。

 ストレリツィ家には未練はないけれど、私のせいで家が潰れると思ったら胸が痛い。

 魔石鉱山の管理に関しては、父が存命だった時からサイモンに全て任せていた。だから知らなかったのだ。

 ーーこんな大切なことを私はなぜ、ずっと知らされていなかったのだろう。


 サイモンは沈黙を貫いている。

 私はハッと気づいたーーサイモンは敢えて、私に教えていなかったの?


 隣で、さらにセオドア様はとんでもない発言をした。


「二人がそう責めたとしても、もうクロエ嬢は戻れない」

「どうして!? 家庭教師なんて、いつだってやめられるじゃない!」


 敬語も忘れて叫ぶオーエンナに、セオドア様はゆっくりと首を横に振った。


「辺境伯は独自の法律を作っていいと定められている。ここの法律では、男女が三日三晩、同じ葡萄酒を口にすればそれを婚約と認める法律が制定されていてね。……かつて、この領地が独立した小国だった時代、葡萄酒は婚姻の儀式でしか呑まれない特別な酒だったことに起因していてね。もちろん今でも、自家製かつ特定の条件下ならば『独自の風習』として成立している」


 ーー失礼。

 私にだけ聞こえる声音で囁き、セオドア様は私の肩を抱いた。

 ふわりと、セオドア様の匂いに包まれる。

 温かな熱量に、胸が高鳴った。


「彼女はすでに、私の婚約者だ」


 ステッファンとオーエンナだけが目を見開き、今日最も驚いた顔を見せる。

 二人以外は皆平然とした顔をしている。もしかして、彼らは皆、口裏を合わせているのだろうか。

 私はただセオドア様の「口裏を合わせてほしい」の言葉を信じて、平然とした態度を保った。


「じょ、冗談は辞めていただきたい辺境伯。離縁成立後一年は結婚も婚約もできないはずだ」

「そうよ。だって私も公式にはストレリツィ伯爵夫人にはなれていないのに!」


 セオドア様は動じず、落ち着いた声で答える。


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