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信じてほしい

 夜。

 いつものように談話室にて、ソファに向かい合って私とセオドア様は話していた。

 アルコールを飛ばした葡萄酒を傾けながら、私はセオドア様にオーエンナとの顛末を伝えた。嫉妬ではなく事実として伝えられるように、心をしっかりと保つように努めた。


「そうか。彼女は私を狙っているのか」


 彼は思わせぶりな笑みを浮かべ、足を組んで葡萄酒を揺らす。


「想像以上に上手くいって何よりだ」

「あの……セオドア様。差し出がましいようですがお伝えさせてください」

「ん」

「彼女は……貴婦人としての教育も仕事も行ったことのない女性です。もし万が一彼女を奥様として娶った場合は、彼女を補助する方を幾人かつけた方がよろしいかと思います。……これは、あくまで彼女を選ばれる際のことですが……」

「なんだ、私が彼女を選ぶと思っているのか」


 彼はクスクスと笑い、カップを置いて私の手を引き寄せる。バランスを崩して、私はよろけて彼の上に覆いかぶさるような形になった。

 顔が近い。赤くなった私の髪に、彼はそっと触れた。


「信じてほしいと言った通りだ。私は貴方以外の女性を、妻に迎えることは決してない。約束する」


 恋心を自覚してしまった身には、この言葉は甘い毒だ。

 視線の強さに思わず目を逸らした私に彼は微笑み、そのまま髪にキスして解放する。


「もうしばらくの辛抱だ」


 彼は頼もしい声音で私にはっきりと言う。


「私はストレリツィ伯爵夫人や御令嬢と誤解を受けるような場所には決して行かないし、そもそも領民は皆、私がずっと焦がれていた思い人がいるのも知っている。もちろんクロエ嬢のことだ。……彼女の思惑通りにはならない」

「セオドア様……」

「それより私が気になるのは、ストレリツィ伯爵夫人ではなく彼女の娘のことだ」


 セオドア様は父性を滲ませた顔になる。


「私の養子たちと仲良くしてくれているのは嬉しいが、いずれあの母親と共にまた領地に帰ると思うと……何かしてやれることはないかと考えてしまうな」

「そうですね……」


 私はアンのことを思う。アンはこちらに来て随分と明るくなった。子供たちも彼女の境遇を察しているようで、少しでも楽しく過ごせるように気遣っている様子だった。


「アンもれっきとしたストレリツィ伯爵令嬢です。彼女にとって、辺境伯の子女と親しいつながりを作っておくことは、いずれ彼女の未来の助けになることもあると思います。……私が、縁故により貴方に助けられたように」

「……そうだな」

「親も生まれも子供は選べません。親でもない私にできることだって、少ないです。けれど大人として、彼女が少しでもよりよい未来を選びとれるためにできることはしたいと思っています」

「私も同じ意見だ、クロエ嬢」


 私たちは見つめ合い、微笑み合う。



 ーー話が急転直下で動き出したのは、その次の日のことだった。


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