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セオドア様の告白

 湖畔の別荘では、私が作ってきたランチを振る舞った。メインは、あらかじめ作っていた春野菜たっぷりのパスタソースに、茹でて冷やしておいたパスタを合わせた冷製パスタだ。

 ヘイエルダールは魔石を用いた食品の温度管理アイテムが多い。魔石片が多く採れるので技術開発が盛んなことと、冬の厳しい気候でも豊かに暮らせるように工夫する意欲が高いこと、そして何より、国境侵攻で疲弊した領地を回復させるため、精力的に技術開発に努めてきたセオドア様の努力の結果だ。


 キッチンで盛り付けてダイニングに持っていくと、子供たちはパッと笑顔になった。セオドア様も嬉しそうに皿と私を見た。


「メイドに作らせないで、貴方が作ったんだな」

「はい。手料理は趣味で好きだったので……令嬢らしくない趣味ですみません」

「『舌を包む手は崖より手放すな』、だな」

「え?」

「こちらの言い伝えだ。美味い手料理を作ってくれる人は、滑落するときに掴む崖の一端よりも手放すものではないという……な」


 ぺろりと指先を舐めながら私に言う彼に、私は体温が上がるのを感じる。

 年長の男の子、セリオが私たちを見て、唇を尖らせた。


「先生と領主父様、まぁた見つめあってる」

「ねえお似合いなんだから早く結婚すればいいのに」

「けっ結婚って……」


 声を詰まらせる私に、セオドア様は声をあげて笑う。

 私は笑えばいいのか叱ればいいのか、なんとも言えない気持ちになった。


「セオドア様と結婚だなんて……失礼です」

「失礼なんかじゃないさ。私はいつも子供たちに、クロエ嬢の気を引くにはどうすればいいかとぼやいているからな」


 爆弾発言だった。

 唖然とする私に、セオドア様は髪を揺らして首を傾げて見せる。


「気づいていないのか? 私が貴方を口説いているのに」


 真っ赤になった私の頬に、セオドア様は触れた。


「花びらが落ちている。キッチンの窓から入ったのかな」

「あ……」


 白い花びらをとると、セオドア様は私を見つめながら花びらに口付けました。 


「……私より先に、君の頬にキスするなんてずるいな」


 眇めた眼差しの強さに、私は息ができなくなる。

 気を取り直したように、セオドア様は両手の指を祈りの形に組んだ。


「さあ、美味しいうちに食べようじゃないか。……クロエ嬢も座ってくれ」

「はい……」


 私たちの様子を見て子供たちは忍び笑いのようなものを浮かべて指を組む。恥ずかしいけれどーー子供たちの大切な「領主父様」と私の様子を見て、不快にさせていないのならば安心だった。


(安心って……ううん。私は、何を考えているの)


ーー食後。


「どうして……私なんかのことを……く、口説こうとなさるのですか?」


 再び湖で遊び始めた子供達を別荘のバルコニーから眺めながら、私は子供達の前で言えなかった疑問を口にした。


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