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セオドア様と二人で

 鉱山視察に訪れる王族も招待するというレストランは美しい作りで、見事な料理でもてなされた。

 食後のアイスケーキと紅茶を飲みながら、私とセオドア様は穏やかな時間を過ごした。


「貴方の故郷ーー旧マクルージュ領の鉱山は、今どうなっている?」

「私は……そちらの管理についてはサイモンに任せていました」


 恥ずかしくなりつつ、私は正直に答える。


「子供の時は父の視察に何度もついていきました。けれど、嫁ぎ先……ストレリツィ伯爵の領地となってからは、すっかり見に行く機会を失っていました。領地の経営に口を出すことを、義母が嫌っていましたし、女主人としての修行や家政の都合で本邸を離れる余裕もありませんでした。それに」

「それに?」

「何より……父の思い出がある場所がマクルージュ領ではなく、ストレリツィ伯爵領になっている姿を見るのが辛かったというのもあります。父が本当にこの世からいなくなってしまった事実を、改めて突きつけられるような気がして」

「辛かったのだな……」

 眉を寄せて痛ましそうな顔をするセオドア様に、私はハッとした。

 なんて幼稚で浅ましい感傷を口にしてしまったのだろうか。


「申し訳ありません。せっかくのお食事中なのに……こんなことを」

「いや。話してくれて嬉しいよ」


 セオドア様は首を横に振る。銀髪を結わえた組紐が、黒い正装の肩を滑って鮮やかに揺れた。


「無理に何でも一人で背負いこむものではない。貴方は十分やってきた。……実の親の死を悼むことに、何のためらいがあろう。私相手なら尚更だ。私も、敬愛するマクルージュ伯爵の思い出話をできることは心の慰めになる」

「セオドア様……」

「貴方が鉱山や領地をサイモンに任せていたのは英断だった。クロエ嬢のことを大切にしたいと願う人々に、肩の荷を預けて任せるのは決して悪いことではないよ」


 セオドア様はテーブルの上で指を組み、穏やかに私に語る。

 私はこの土地に来てーーただただ大切にされて、優しい言葉をかけられて。


「もう一人ではない。私は家族だ」


 意志の強い灰青色の瞳でそうまっすぐに言われては、心が甘やかに溶けていくのを止められない。


「……セオドア様……」

「貴方の苦しみが少しでも和らいだら、いつの日か旧マクルージュの魔石鉱山に共に行こう。クロエ嬢とお父上の思い出の地を、私も共に感じたい」

「ありがとうございます……そうですね。一緒に行ける日が来れば、是非」


 彼はその時、目を微かに眇めて言った。


「いずれ行けるようになる。サイモンに任せていれば、万事うまくいくだろう」


 断言する彼の言葉の強さに、私も促されるように「はい」と頷いた。

 セオドア様がそう言えば、きっと未来は笑顔で、旧マクルージュの魔石鉱山に行けるような気分になった。


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