第89話 サウルの暴走
───扉を開き、中は広間が広がっていた。
石造りの地面が行き渡り、人種、民族、宗教、様々な人々が手を取り合い、人々の繁栄を表した壁画が壁や天井に描かれている。
しかし、時代の流れにより壁画の絵は薄くなり、時の流れや自然の力、そして文化の荒廃の前では人々は無力を表している。
サウルはバッグから依頼書を取り出し、確認。
「よし、発見っ」
サウルは言ってガッツポーズ。
依頼書には(魔の宝玉)の納品。広間の奥には祭壇、台座には本物の(魔の宝玉)が鎮座している。
ここまで辿り着くのに長く感じた気持ちであり、今までの依頼とはひと味違う達成感。
2人は少し近づく………。
───2人が台座に接近すると、(魔の宝玉)が赤黒い輝きを広間全体に放つ。
ドクン………と、立ち止まるサウルの記憶に(何か)が思い出される。
父さん、母さんッ!!
1人の少年は、火災が広がる景色にて父親と母親の死体を前に泣き叫ぶ。辺りには他の人達の死体が行き渡り、その光景は地獄である………。
少年は王国軍の兵士達に追われ、草の茂みに身を隠し、逃走。息を殺し、感情を殺し………そして甘さを殺した………。何でこんな事を………自分達の民族は普通に暮らしていただけなのに………。
★★★★★★
少し成長した少年は、茂みの中の広地にて、出血した腕を押さえ、苦悶の表情。
辺りには仲間のメンバーが倒れ伏し、胸や背中を出血し、絶滅していた………。
遺言を聞いてやるよっ………。
少年が睨みつける相手は報酬袋を持ち上げ、ゲスい笑い声を響かせ、そして周囲には武装したならず者の傭兵達がロングソード、ハルバート、ランスを構えている。
クソッタレがッ………。
───そして少年は涙を流し、ポタポタと出血した腕を押さえ、逃走。経験した………。
やはり仲間を受け入れるには注意深く疑っていたらこうはならなかった。おかげで報酬金は失い、一文無しだ。
「サウルさん?………」
ミリアがサウルに駆け寄る………。
全てを………破壊。
力を、あらゆる全てを………受け入れろ………
「うあああああああッ!!」
全身から赤黒いオーラを放出し、サウルは頭を抱え、叫ぶ。記憶の中のトラウマ、それらが(魔の宝玉)の能力により引きずりだされ、魔の力となる。
そして………赤黒いオーラを発生させるサウルに反応し、1体、2体、3体、4体、5体の漆黒の聖職者のモンスターがランスを構え、赤黒い裂け目から出現する………。
「これは一体?………」
ミリアは驚愕して後退しつつ、片手でショートソードを構え、臨戦体勢。




