第62話 10年前Part4・アンゼシカの涙
「アンゼシカ、帰還だ。ミリア姫がお前の事をお呼びがかかっている」
傷の手当を終え、アンゼシカは一息の休憩している中、隊長がそう告げた。初めての戦場、死の危険から解放された後、どれだけ疲れていても王族からの命令は絶対である。
「了解しましたっ」
アンゼシカは敬礼。正直、初めて戦場で人間の生き死にの光景を経験し、精神状態はガタガタである。両手には見えない血が頭に浮かび上がり、何人の人間を殺したか分からない。
殺した人間の数が分からない………それが恐ろしくて仕方ない。
★★★★★★
───揺れる王族専用の馬車の中、アンゼシカは両手を眺め、溜め息。なお、アンゼシカはミリア姫の世話係、丁重に扱われる。
(これが戦場………)
アンゼシカは涙を流し、震わせる。
大勢訪れ人間を殺して来た自分にミリア姫を抱き締める資格はあるのだろうか………。と、両手を眺める。
★★★★★★
────3時間後………。
アンゼシカを送迎する王族専用馬車は、城に到着。
次に軍服コートに着替え、ミリア姫が待っている部屋へと向かい、深紅色のカーペットを踏み歩く。
───ミリア様、失礼致します。
アンゼシカはドア越しに尋ねる。なお、姫殿下がドアを開けるまで、入ってはいけない規則となっており、兵士が勝手にドアを開くのは言語道断。場合によっては投獄される事もある。
アンゼシカはミリア姫が来るまで入口のドア前で待機。相手は王族、緊張感が行き渡る………。
「アンゼシカお姉様ッ!!」
袖無しの王族ドレスを着用したミリアはキュートな笑みを浮かべ、タックルするように抱きつく。
「只今戻りました」
アンゼシカはミリアの頭を撫で、一言の報告。
「入って入ってっ」
ミリアは報告を聞かない。そしてアンゼシカを部屋に連行する。
ミリアとアンゼシカは、いつものように机に座り、勉強。ミリアにとってはアンゼシカとの勉強が一番の楽しみである。アンゼシカが勉強を教えるつもりが、勉強が苦手だった事もあり、ミリアが勉強を教えるようになってしまう。
「レベルアップだね、お姉様っ」
ミリアはキュートなスマイルで抱きつく。
「恐縮です、姫様」
アンゼシカは恥ずかしい表情。ポンポンとミリアの後ろ頭を撫でる。
楽しい時間でもあり………
幸せな時間でもあった………。
アンゼシカが先程まで乗り越えた生き死にの現場の光景。辛くて怖ろしい思い出をミリア様のスマイルにより、包み込まれていく………。
すると………アンゼシカの心に(何か)が込み上がる。
「お姉様?」
ミリアはアンゼシカに心配な表情、何故なら………。
(アレ?………)
アンゼシカの瞳から涙がポロポロと流れる。手で拭うが、涙は流れ続ける………。
するとミリアはアンゼシカの頭を優しく抱き締め、口を開く。
「大丈夫、大丈夫………辛くなったら、私が、お姉様を守ってあげる。泣かないで、お姉様………」
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