第359話 母の言葉
私は彷徨っていた。暗い、暗い道の中を………。何処に進めばよいのか、何処を見たらよいのか。それすら分からない………。
私は両手を眺め、思い浮かべる。
(そうか………私はもう………)
納得して前を進む。過去、私はどれほど多くの人間を殺して来たのだろうか………。初めは指で数えられたが、任務で活躍するにつれて分からなくなった。
───すると。
イたい………痛い。助けてくれ。
現れたのは王国軍の兵士(亡霊)。刃で斬られた事による戦傷、苦悶の表情を浮かべ、ズルズルと私に接近して手を伸ばす。
私は後退。そして、辺りには。
ヨくモ、俺達をコロシテくれたな?………。
ジゴクに堕ちろ。貴様が天国にイケると?
アレだけ多くの人間を殺してきて、ユルサナい………。
分からなぬなら、我々がツレテ行く………地獄へな………。
辺りには、王国軍の兵士(亡霊)が次々と出現して私に接近し、手を差し伸べる。
(そうだな………あれだけ人を殺せば、仕方ないな………)
私は納得した。大義とは言え、数々の人間を葬ってきた。天国行きは都合はよい、そして報いは受けなくてはならない。
さぁ、こっちだ………おいで、メルディ………。
(さよなら、皆………)
王国軍の兵士(亡霊)に導かれ、前に進もうとする私。
───そっちに行ってはダメっ!!
現れたのは赤髪の女性。死んだ母が姿を現し、私の手を掴む。
(おかあ………さん?)
私は振り向く。
アナタはまだ、そっちに行ってはダメよ。アナタにはまだ、やらなければならない事があるハズよ。
「母さん、私はもう………数々の人間を。だから私………」
報いを受ける。と、覚悟をしていた………すると私の言葉に対し、パンッと乾いた音が響き渡る。
「母さん?」
私はビンタされた頬を触り、声を吐き出した。
───アナタは、ここに来るのはまだ早い。それに、アナタには待っている人がいるのではなくて?
母は言った。
(母さん?………)
アナタは、帰らないといけない…………。生きなければいけない世界に、アナタの帰りを待ってくれている人達の為にアナタは。
「けど私は、数々の人達を………この手はもう、多く、血で濡れていて。それで私は………」
───それでも………アナタは戻らないといけない。アナタには未来がある、その未来の為に命を賭けるのが、一番の報いではなくて?
母は言った。
「私の未来?」
───そうよ、アナタしか分からない未来がある。これから沢山の経験をして、新しい世界を築いていく。それがアナタにしかできない報いよ………。だから………アナタは生きて。
そして、光に包まれ、私は母から離脱していく………。




