第356話 頭の中に映る王国の過去と現在
───アンゼシカ(真美)を先頭に。皆は異界と化した通路を駆け走る。もはやここは城の中なのか?空気中には赤い瘴気が幽霊のように漂い、そして周囲の天井や壁には排気管のような血管が行き渡り、そして妊娠したように孕んだ肉壁が至るヶ所に広がる。
ミリアさん、無事でいてくださいっ
ミリアの無事を祈ってアンゼシカ(真美)は走る。その途中で………。
何だ?…………。
───そのとき、頭の中に何かが映し出される。
それは大昔。とある2人が指揮官を務め、戦いの雄叫びを響かせて軍隊を率いて戦線を駆ける。
刃と刃を交え合い、血しぶきを放ち合う。そんな光景だった………。それは互いの命運、行き死にを賭けた戦争。250年前、大陸西部における王国建国の頃、指揮官はレオナルド・ミア・シュバルツとクリス・ヨハーソン。
頭の中に映る光景に、アンゼシカ(真美)は額からは冷や汗を流して立ち止まり。
「今の光景は………」
するとアレックスも立ち止まり、自身も。
「俺も見えた。頭の中に何か映り込んで来たぞ?」
「何やら、戦争をしている光景でしたね?」
デビッドは主張。するとロメロも主張する。
「それだけじゃありません………悪魔降臨におけるおぞましい儀式に、悪魔に取り憑かれたレオナルド陛下。王国建国後に2人は言い争っていました」
サウルは皆に続くように主張する………。
「それでアレだ。年月が流れて陛下の思想が変わって、民族紛争の鎮圧を機に徐々に支配が強化されて………」
サウルは言った。
「悪魔封印によりその思想が悪意に染まり、民族弾圧から始まってのエスカレート。そしてお互いの意見が破れてしまい、それを止めようとした親しい部下は謀殺され、親友は去ってしまった………」
ロメロは言った。
どうやら、この異空間の魔力がここにいる皆に過去の光景を流しているようだ。王国建国から民族支配、そして………。
───すると小さな翼はアレックスに飛びつくように抱きつき。
「おい、こんな時にっ………」
アレックスは引き離そうとする。しかし。
「アレックス、私怖い。同じ人間がたくさん捕まって、暗い建物の中に連れて行かれて………そこで………人間の赤ちゃんの声が………」
小さな翼はブルブルと怯えた様子で身体を震わせ、主張する。しかし彼女の頭の中に映る光景は皆には映らない。彼女が主張している(何か)は、皆には分からない。
「赤ちゃんの声ですか?………」
ロメロは小さな翼が主張する(何か)を察したかのように表情を険しくさせ、握り拳を震わせる。
───鬼畜の所業、現在のクロフォード王国はそこまで腐っていたらしい…………。




