第301話 サウルと買い物をする妹のリーシャ
その頃、西の通りにて………。通り沿いに立つ街灯、そして幾つもの露店が構えられ、普段はお目にかかれないあらゆる素材、道具や衣類などの代物が売られている。
「珍しいな?兄貴と謝肉祭を回るなんて、どんな風の吹き回しだ?」
通りを行き交う観光客の中、サウルは尋ねる。何故なら隣には………。
「別に………たまには兄妹と謝肉祭を回りたくなる気分よ」
妹のリーシャは言った。まるで年頃の娘のような接し方で………。普段の戦闘用の漆黒コートとは違い、上は黒のビキニスーツ、上着として半袖の革のジャケットを着用し、下は短パンにブーツ。革のジャケットの胸部には紋章が刺繍されている。
サウルは用心深く、真剣な視線をリーシャに向ける。何故なら妹は敵、服装は違うが反民族支配主義の幹部であり、何を考えているか分からない。
「本当の目的は何だ?あと、それは俺らのいた民族伝統の紋章だ。そんな刺繍を入れて歩いていたら捕まるぞ?」
サウルは言う。しかし、リーシャは何も動じない気持ちで口を開く。
「別に良いじゃない?もう、存在しない民族なんだし、気づかないわ………」
リーシャは冷たい口調で言った。
リーシャのセリフに、サウルは影のある表情を浮かべ、古物商の露店にて販売している古びたコインを持ち、リーシャに視線を向ける………。
「そうかい………もう、存在しない民族か………なぁ、リーシャ?」
「何?」
「俺やお前が死んだら、全てから忘れられてしまう………。俺らの先祖、そして築いてきた歴史や伝統、民族もだ。死んだら、全ては過去の化石。それらがどうして伝統を、歴史を、築いてきた事はすら忘れられてしまうんだ、このコインのようにな………」
サウルは古びたコインをリーシャに突き付ける。
「怖くないか?って事?」
「そうだ、死んだら全ては(無)だ………何の価値もない。そうだろ、旦那?」
「何か、意味深な事を言うな小僧?そのコインは、とある国、滅びた時代で使っていたコインだ。ま、どんな価値か分からないが、知り合いから安く取引してな、500SV位で売ってやるよ」
「分かった、買うよ旦那」
「毎度あり」
と、サウルはコインを買った。
───そして2人は西の通りを歩く。サウルはチャリン………と音を立て、コインを親指でコイントスする。
「何で買ったの?」
リーシャは尋ねる。
「まぁ………気分かな?。このコインだって、時代を築いてきたが一因で滅びた事で皆に忘れられしまった。何かさ、これで500SVなんて、何か悲しくてな………だから、覚えておく為に買ったのかも知れないな………」
サウルは答えた。
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