第239話 堕ちた貴族、ホセの策略
───〈王城・地下牢〉───
その頃、城の地下牢にはとある人物が投獄されていた。罪状はテロに資金援助、民族派の人間を国外逃亡のほう助などを行った事による(国家反逆罪)。かつて侯爵家として名を残し、今では処刑を待っている立場である。
廊下の地面は岩造り、鉄格子の牢屋。岩壁の隙間から風が吹き、不気味な音を響かせて一帯をジメジメとした空気が充満している。
「さて、後はどう動くかな………」
ホセ公爵はベッドに座り、考える。
───すると、牢屋の前に看守兵士が立ち止まり、口を開く。
「大貴族が堕ちたものだな………まさか、アナタほどの御方がテロの支援をしていたなんて………」
看守兵士は言う。
「お前達が推し進める民族支配、そして戦争準備、堕ちたのはお互い様だろう………何やら、外は大変な事になっているようだな?」
ホセ公爵は尋ねる。
「何?」
看守兵士は気に障ったように、険しい表情。
「民間人を誘拐しての人身売買。それだけではない、その他にも非道な行い、我々に協力している関係者を通じ、世間にバレるのは時間の問題だな?」
「貴様、言わせておけば………」
「国中にいる民族、宗教派を尊重する人々によるデモ運動に王族に対する経済制裁。実に面白い事になっているな?」
「減らず口を………」
看守兵士は怒りで身を震わせる。
「俺を処刑しても、事態は変わらない。今の陛下に伝えておくんだな、変わるなら今のうちだって事を………」
ホセは不敵な様子。まるで怖いもの知らず、いつ処刑されても覚悟を決めたような瞳だ。
すると看守の兵士は冷静な表情を浮かべ………。
「長生きしたければ大人しくしているんだな………」
そう言い残し、牢屋から立ち去る。
「我ながら、作戦は上手く行っているようだな………」
ホセはベッドに仰向けに寝転ぶ。
───沈黙した空気、低い音のスキ間風。ホセは人生を振り返る。
(アンゼシカ、お前にこんな役割りを背負わせた父を許してくれ………)
ホセはペンダントに写る娘、アンゼシカを眺める。
そして思い浮かべる、作戦を………。自身が王国軍にこれまでの反対運動を自首、その次は自身の支持率により、各地域にいる民族、宗教派の人々が立ち上がり、反対運動が次々と発生する。これを機会に民族・宗教派の人々が決起し、クーデターを引き起こす程の影響力を強化。
(さて、後は追放された姫君に全て任せるとしよう………ミリア君、王国の未来に君が必要だ………)
ホセはそう思い浮かべる。これが本当に正しい結果なのだろうか………。自身の先祖、クリス・ヨハーソンが見たら何て思うのだろう。




