第228話 さよなら、パパ………。
その日の朝。とある民家にて、とある家族。娘とテーブルに座り、男性はコーヒーとトーストの朝食を食べながら新聞を眺める。
「昨日の夜、宗教施設でテロの襲撃があったらしいわね?」
奥様は腕を組み、心配な様子で言う。テロの襲撃場所は近所なので怖い。
「………そうだな」
男性は新聞のページを広げ、答える。
「おか〜さん、ジュースおかわり〜」
娘のミランダはジュースをねだる。
「はいはい」
奥様はジュースのお代わりを渡す。
(…………)
男性は悲しい表情を浮かべ、嫌な記憶を浮かべる。忘れもしない、3年前に王国軍に故郷を奪われ、幸せを奪われたあの時の記憶を………。
★★★★★★
「嘘だッ!!」
閉じ込められている牢屋の中、男性は兵士に掴み掛かる。
───お前の娘と奥さんは死んだ。
「なら、遺体と対面させてくれ。確かめさせてくれないか?」
───無駄だ。遺体はしっかりと火葬して、遺骨は集団墓地に埋葬した。
兵士は淡々と答えた……。
「メルディ、カローラ………ぐぅっ…………」
男性は涙を流し、鉄格子を掴む。会わせてもらえなくて悔しい思い、鉄格子を掴む掌からはポタポタと血が滴る。
何で、普通に暮らしていただけなのに………。
王国に対する異端的な宗教主張とみなされ、民族支配政策の対象にされて………それで町は焼き払われた。
それから………男性は数日後、牢屋から解放された。
───故郷、家族を失い、途方に暮れていた。
もう、このまま娘と妻の後を追うか………。手には思い出のオルゴール、2個あったが、娘も持っている。
今の妻と出会ったのは、酒場で出会って、その後は心の寂しさを埋めるように、関係が進み、現在に至る。
★★★★★★
「パパっ」
娘のミランダは無垢な表情で尋ねる。ミランダの言葉に、かつての愛娘のメルディが重なる。
「なんだい?」
「どうして、悲しい顔をしているの?」
ミランダの言葉に、男性は………。
「いや、大丈夫だよ。心配かけたね………」
男性は真摯に答え、ミランダの頭を撫でる。今は愛娘、妻がいるから悲しくない。これから新しい人生を送るのだから………すると。
トントン………と、入口のドアをノックする音。
「俺が出よう」
男性は外に出る。しかし、誰もいない。辺りを眺め、地面にはオルゴールが置かれ、かつての思い出の曲が流れていた。この曲は、死んだ愛娘メルディと亡き妻カローラと一緒になって聞いた思い出の曲だ。
まさか………。
男性は思わず外を飛び出し、辺りを眺める。そんなバカな、この曲を知っているのは娘のメルディとカローラだけだ。
(さよなら、パパ………)
民家から離れるメルディ。オルゴールを置いて、肉親と別れを告げた。




