第155話 書物から解放されるミリア
「ハァ………ハァ………ハァ………」
拘束から解放されたかのように、ミリアは書物から離した。今、記憶の中に流れていたのは祖先レオナルド・ミア・シュバルツ、そして隣にいたのはクリス・ヨハーソン。しかし、自分が城にいた頃、ヨハーソン家に関する資料はなかった。
まるで全てから、この国の歴史から消し去られたかのように………。
───過去の物語、王国建国前の話である大陸西部統一はあまりにも血生臭く、生き死にが凄絶だった。場合によっては武力行使を行使し、制圧。ある辺境の村に出身であるレオナルド・ミア・シュバルツとクリス・ヨハーソンは戦場では鬼神のように戦い、そして戦いが終わってから2人には友情と言うものを感じた。
書斎室は静寂が行き渡る。外の夜風、木々がパキパキと揺られる。
額からは汗。この先の話を知るのは怖ろしくもある。しかし、自分はこの物語を最後まで見なければ………王国の謎、歴史には明かされていない話、2人はその後何があったのか………。
(ちちうえ〜~~)
幼少期の過去、ミリアは庭園にいる父上にハグをする。昔の父上は優しかった………いつからだろう、父上が怖い存在になったのは………あの頃は母上がいて優しかった。
変わったのは………。
(ははうえ?………)
ミリアは王族の寝室にて、ベッドに伏せる母上の最期を侍女達と共に看取った。公爵家貴族が主催する社交パーティの帰り道、母上が乗った馬車に何者かによる爆撃による襲撃を受け、護衛兵士は瀕死になりながら撃破したが………。
母上が死に、悲しかったが涙は出なかった………。王族の襲撃は民族派組織の犯行だった。
───それからだった、父上が変わったのは………。
人権侵害とも言える民族、宗教、伝統の支配。陛下の逆らう者や反対勢力、民族派、全てを支配し、処刑してきた。何十人、何百人、何千人、途方もない数の屍を積み重ねて来たが、父上は止まらない。
歴史とは国の進化。しかしその進化の際、多くの人間の屍が積み重ねているのは皮肉だ。
そして僅かに思い出したのは、私がヨハーソン家に来たことある過去であった。
生前、母上に抱かれ、2階のベランダにて当時のホセ公爵らの貴族達と談笑する光景。ホセ公爵の隣には10歳頃のアンゼシカお姉様。
(アナタも撫でてごらんなさい………)
と、女王陛下に言われ、10歳のアンゼシカは恐る恐る手を伸ばし、赤ん坊のミリアの頭を撫でる。
───キャ、キャ、キャッ…………。
赤ん坊の私は笑っていた。らしい。
ミリアはもう一度、書物に手を伸ばした。そして書物は光り、ミリアの頭の中に流れる。




