第151話 夜の書斎室
───〈公爵用書斎室〉───
3台の本棚が並び、床にはカーペットが広がる。窓から月明かりの光が室内を照らし、細かい塵がキラキラと発生している。思い入れ深さ、長い年月により出来たシミ、ささくれ傷が残る樫色の高貴な机。室内にはインクの匂いが微かに漂い、机上には筆キズがポツポツと刻まれている………。この書斎はホセ公爵の部屋、勝手に入ってはいけないのは承知の上、しかし確かめなければならない事情がある。
アンゼシカ・ヨハーソンが何故、兵士となって何故、私を追放したのか………そしてヨハーソン家の謎。少し怖さがあるが、それが分かるかも知れないと思うと、いても立ってもいられない。パーティ準備により疲れていた身体、眠気が消えてしまった。
ミリアは室内、そして本棚を眺めていた。様々な書物が並び、心が惹かれる物ばかりだ。気持ちはまるで、かつて城にいた頃の自分の部屋に戻った心境だ。
(何だろう………懐かしい気分)
ミリアは微かなインクの匂いが行き渡り、落ち着いた気分になる。自分の部屋にて、アンゼシカお姉様と勉強をした事、チェスを対局した事。
───そう言えば、アンゼシカお姉様とチェスをして一度も勝った事はなかったな………。
(さて、調べるとしよう………)
───ミリアは本棚を眺める。1冊と2冊と書物に手を伸ばし、ページをパラパラとめくって調べるのである。アレでもない、コレでもない………と、机に次々と積み重ねる。(王国史)(民族文化)(民主主義)(政治学)、様々な書物が1列に整理され、興味はあるが読んでる場合ではない。早く調べ物を済ませなければ、夜が明けてしまう。後、ロメロに見つかってしまい、何を言われるか分からない。
外から誰か来ない事を祈りつつ、目的の書物を探すこと数十分間………ミリアは1冊の書物に視線を移してしまう。まるで(この書物には、君が知るべきモノが記されている)と、無意識に導かれるように………。
「これは………」
ミリアは1冊の書物を手に取り、目に映る。ドス………と、積み重ねる事で発する風圧によりホコリを漂わせ、空気中にキラキラと漂わせる。
(ヨハーソン家の歴史)。かなり昔の書物の為、表紙はハゲでおり、ボロボロである。何年、何十年、何百年………出版されている書物と言うより、かなり古い日記と表現すればしっくりくる。
「ヨハーソン家の歴史?………」
ミリアは小さな口調で書物を眺める………。そして書物を手に取り、机に足を運ぶのである。




