第137話 夜の社交ダンスパーティ
昼間の交流会から時間は流れ、三日月が空に登って夜になる。
────〈大広間・ダンスホール〉────
場所は公爵邸館内の大広間。床は大理石、正面の窓には色彩豊かなステンドガラス、天井にはシャンデリアがカチャカチャと僅かな音を響かせて吊るされ、灯りが広間全体に行き渡る。昼は前座の交流会、夜は本番であるダンスを兼ねた社交パーティである。
広間中には使用人達が料理を運び、乳白色のシーツが敷かれたテーブルに置かれている。
───ダンスホールには招待された方々である貴族、平民達が談笑を楽しんでいる………。
(この感じ、懐かしいな………)
ミリアは肌で感じる社交パーティの雰囲気に懐かしい気持ちになる。城にいた頃、姫君である自分は主催者側に立場の王族としていた。深々と敬意を払う同年代の貴族達や高身分な貴族、そしてアンゼシカお姉様とダンスが思い出として頭に浮かぶ………。
───私とダンスを踊ってくれますか?
───このアンゼシカ・ヨハーソン、喜んでお相手を致しましょう。
───お上手です、ミリア様っ
貴族達がダンスを踊る中、アンゼシカにエスコートされ、ミリアはダンスの思い出が頭の中に映し出される。その光景がまるで昨日の事のようであり、高身分な貴族相手に神経を使う今までの社交パーティとは違い、アンゼシカお姉様のダンスにより楽しい気持ちになり、荒れ果てた荒野に四季彩の花畑が広がるような感覚になった。
………しかし今は追放されて冒険者、今は依頼によりメイドの立場。
身分が変わり、今まで見ていた景色や雰囲気、視点が………こうなってしまえば皮肉である。
「ミリアさん。黄昏れるのはいいですが、今は仕事中です。料理を運ぶのを手伝って下さい」
ロメロは歩きながら豪勢なスイーツ料理が盛られた皿を抱え、ミリアに厳しい口調で告げる。
「すいませんっ」
思わず黄昏れてしまった………。ロメロの言葉に思わずミリアは我に返って厨房に足を運び、仕事に戻るのである。
招待客達はテーブルに置かれた料理をつまみ、口に運び、談笑を楽しみ、一方の使用人達はテーブルに料理が無くなった皿を下げ、厨房に足を運び、新しい料理を運ぶのを繰り返す。
ミリアにとっては、余計な神経を使わないので気が楽である………。
───少し落ち着いたのか、ミリアは会場内を見回り、歩き回る。招待客から(何か)を頼まれたらサポートするのが、メイドの仕事である。
───アリシアッ!!
ミリアの後ろから聞き覚えがある声。




