第127話 ホセ公爵との話
中庭テラスから広がる町の景色を眺めるホセ公爵。ふとホウキを掃いて掃除しているミリアを見て、何かを思った………。
そして思い切って声を掛ける。
「君、少しよろしいか?」
「はい、何でしょう?」
ミリアは両手で軽くスカートを上げ、失礼ないように貴族の立ち振る舞いで応える。礼儀作法は追放される前、侍女達にシッカリと教えられた為、自信はある。
「間違っていれば申し訳無いが………つかぬ事をお聞きするが、君とは何処かで会った後はあったかい?」
ホセは尋ねる。何故なら顔がミリア王姫に似ているからだ。それで思わず声を掛けたのだ。心の中では、城の王姫がこんな辺境な貴族の館でメイドをしている訳がない。そんな限り無い可能性に手を伸ばした自分を嘲笑うかのように………。
「えっ………と、わたくしは………」
ミリアは考える。まず本当の事は言えない為、別の言い訳を用意する事に………。ウソを伝えなくてはいけない為、申し訳無い気持ちにはなる。
フム………と、ホセはミリアの立ち振る舞いに違和感に少し怪しみつつ、少し間を置いてミリアは口を開く。
「申し訳ありません、公爵閣下とは今回が初めてお会いする身となります」
ミリアは言った………。今は本当の事を伝える訳にはいかないからだ。
ミリアのセリフに、ホセは再び中庭テラスを眺め、口を開くのである。
「そうかい………変な質問を尋ねて申し訳無い。何せ、この歳になると別人か本人か、分からなくなるのでね………君を見ていたら、昔ここを訪ねてきた夫人の娘に似ていてね………当時、その娘は赤ん坊で、それはそれは可愛らしい笑みを浮かべていたよ………」
ホセは笑って語る。
「その女性とは………」
「アリシア・ミア・シュバルツと言う女性だよ。その時に抱いていた赤ん坊は、娘のミリア様だった。しかし、今思えば女王陛下のミリア様、いや、今は体調不良で代理で代わりに陛下をしているんだったかな………」
(母上の名前だ………)
ミリアは母上の名前が出てきて驚く。後、私も赤ん坊の頃だが、ここに来ていた事に驚くのである。
そして中庭テラスから立ち去ろうとするホセは、後ろ向きの体勢を整え、口を開く。
「そうだ、最後に少し独り言を言わせて欲しい………。そうだな、今はとある事情で話せない立場でも、分かれ道はどちらに傾くのは委ねられた幾多の運命次第だ。私はこの国に降りかかる災厄を止める事を信じているよ………」
ホセは察したかのように立ち去る。まるで今話しているメイドの正体がミリア・ミア・シュバルツだと分かっているかのような口振りである。仮にどうして、ここで雇われメイドしているのか、あえて追求はしない。
何で、彼女の正体が分かったのか………。
それは、私に対して振る舞った礼儀作法である。普通のメイドなら、あの礼儀作法を振る舞える事は出来ないであろう。




