第122話 無くなった恐怖
それから………ミリアは部屋に引きこもる。他の皆は、彼女の気持ちを察したのか入って来ない。
───〈下宿部屋、兼ミリアの私室〉───
(…………)
壮絶かつ、生き死にが激しい依頼から帰還し、ミリアはベッドの上で仰向けに寝転がり、天井を眺め、ボンヤリと考える………。激しい雨が降る中、戦場で戦っていたのに、体調は楽だ。人をあれだけ殺したのに、何とも皮肉だ。再会したババ族の男性を殺したのに、何も感じない。
───もう、みんな大嫌いッ!!
私は皆に何て事を言ってしまったんだろう………皆は自分の為に動いているのは分かっている。それなのに私は、酷く皆に当たり散らして………まるでワガママな子供だ………。と、ミリアは寝返りを打ち、横になる。
そして十数分………沈黙。ミリアは再び仰向けの体勢を整え、頬を撫でる。
(…………)
撫でている場所はマスク・ド・aにビンタされた所だ………。いつも優しくてピンチになれば助けに来るマスク・ド・aにビンタされた為、裏切られた気持ちと言うか悲しい気持ちと言うか………複雑な心境になる。
本当は自分が悪い………それは分かっている。けど今は休みたい、そんな気持ちだ。
(ハハハ、またか…………)
ミリアは右手を上げ、右手首に浮かび上がる赤黒い文字を眺める………文字の列がポツポツと増え、まるでタトゥーのように不気味に浮かび上がっている。何故か恐怖は感じない、自分がいずれ迎える成れの果てを受け入れているかも知れない。
1時間、2時間…………と、時間が経過していく。今、何時頃なのか分からない。
ミリアは瞳を閉じ、時間に身を任せ、そして戦場の光景を思い出す。
───まるで悪魔か獣のように………。赤黒い瞳を光らせ、敵を1人、2人、3人………ショートソードを振るい、全身に返り血を浴びつつ、降り注ぐ豪雨の中、次々と敵を斬り伏せる。グシャ………と、肉を斬るような重い感覚、あの感覚は何処か独特で心地の良い気持ちになる自分がいる。
殺人犯のような気持ち。かつ人間じゃない気持ちだ。普通なら嫌悪感が働き、人間性と言う名のクサリがそれらに制止を働き掛け、行ってはいけない理の外に出ないようにバランスを形作る。
そうか………コレがDによる理解か……。人間性のクサリが破壊され、そして精神を赤黒く支配され、人ならざる者へと形成していくのか………。
「ハハハハハハッ…………」
ミリアは両手を上げ、苦い表情を浮かべ、笑う。最初は恐かったDの声。人を殺した感覚が、今ではもう怖くない。




