3話【豪邸と性悪執事】
俺たちはバザールから出ると、日はすっかり沈んでいた。
「君、泊まるあてはあるの?」
今話しかけてきたのは、俺が異世界に来てから最初に喋った人間であり、初デートの相手であり、自分の服を買わせてしまった女。いわゆる母親みたいな人である。
画面の前のお前らも生まれてから初めて喋り、初めて二人で出かけたのも、服を買ってもらったのも全部母親だろ? ということはこの女の子はママなのだ。
これからはママと呼称することにしよう。
「泊まるとこ? 無いよ。お金無いし」
「ですよね〜」
少し呆れられた気がするがそれはスルーしておこう。
だが泊まる場所がないのは事実だ。野宿するっていう手もあるが、さっきの話を聞く限り蛮族ってのもいるらしいからな。なるべくそれは避けたい。
「じゃ、じゃあうちくる? 一人暮らしだけど....」
謎のラッキーイベントが降ってきた。
「お願いします!」
ここで断るアホはいるはずがあるまい。
「まだ着かないのか?」
「まだだよ。うちはここの街の郊外にあるからね」
小一時間は歩いた。気付くと周りは真っ暗。
月の光だけが道標だ。
遠くに家の灯りが見えた。
「あの灯りのところか?」
「そうだよ。まぁここから2時間はかかるけどね」
その瞬間俺の心は折れた。
「着いたよ〜」
放心状態で歩いていた俺を彼女が目覚めさせた。
「本当にこれか?」
「うん」
「一人暮らしって言ったよな?」
「うん。正しくは、家族はいないけど使用人が25人いるね」
それは一人暮らしとは言わないし、目の前にあったのは庭付きの豪邸だった。
一人暮らしって聞いて狭い部屋に二人きりとか考えてた時期が僕にもありました。
「早く入って。疲れてるでしょ?」
「あぁ。ありがとう」
ドアを開けると先程言っていた使用人が全員並んでいた。
「お帰りなさいませ。お嬢様。
お食事の準備が整っております」
「ありがとう。セバスチャン」
え?セバスチャン?実在したとは....
「しっかし広いなぁこの屋敷」
「そう?まぁいいや。食事にしましょ」
俺は言われるがまま食堂に向かった。
「美味そうだな」
「もちろんよ。一流シェフを10人集めて作らせているんだもの」
こいつ何者なんだ。
食事を終えるとセバスチャンさんが部屋に案内してくれた。
「案内まで....ありがとうございます」
「いえ。では、楽しんで」
そういうとセバスチャンさんは部屋から出て行ってしまった。
「なんの事だ?」
そう言って部屋を見渡すとキングサイズのベッドの上に枕が二つなら並んでいた。
「ま、まさか。来るのか? ママが....」
俺はテンションが爆上がりするとベッドで一晩中ママが来るのを待っていた。
しかし彼女は朝になっても来ることはなかった。
「ゆっくり眠れた?」
可愛いレースのついた寝巻きを着たママが話しかけてきた。
「いいや。クソッ‼︎ この詐欺師セバスが!」
「ごめんなさい。セバスチャンがなにか悪いことした?」
なんか俺が悪いことしたみたいになってしまった。
昨日に引き続き災難なスタートで一日が始まった。