2話【男ならデートは服から入れ】
ここは本当に異世界だった。
現代ではありえないような古い石造の建物。多くの種族が共に助け合い、生活している。そして極め付けはあのバカでかい城! なんじゃありゃ。
俺は白髪の少女に連れられて市場まで来ていた。
「ここがバザールだよ。ここに世界中のものが集められるんだ」
「ふーん。なんでもか」
興味のない返事をしながら見て回った。
「君、服買わないの?」
「この服じゃダメなのか?」
本当にこの服はおかしいのだろうか?
「そうゆうカッチリとした服装は貴族がするものだから周りから視線が集まっちゃうし、金目当ての蛮族に襲われたりするの。まず前提として本来悪の象徴である黒の服はあまり着ないんだけど....」
この服自体はおかしく無いが、色がダメらしい。
その〜なんだ悪の象徴?とかいうもののせいで黒はあまり好ましく無いそうだ。
「じゃあなんか羽織った方がいいのか?」
「うん。そうだね」
少々気温は高いがこの世界のマナーに従うしかあるまい。郷に入っては郷に従えだ。
「じゃ、じゃあこれにしようかな....」
馴染みある日本模様である市松模様の羽織を着てみた。
「なんか見たことある気がするなぁ」
何故か彼女は困ったような表情をしていた。
学ランと市松模様の人なんているのだろうか。
そいつのセンスを疑うぞ。
「そ、そうか。じゃあこれにしよう」
かっちょいい茶色い革のロングコートにした。
「いいじゃない」
女の子に褒められると気分がいい。
「あっちで買ってくるよ」
俺は店員のところに向かった。
「じゃあカードで」
いつものようにスマートに決めた
「え? カード? なんですかそれ」
そうだった! ここは異世界だ。カードなんか使えるはずがない。
「あぁ、すみません。じゃあこれで」
仕方なく現金を差し出した。
「お客さん。さっきからなんなんですか? おちょくってるなら帰ってください」
体のごつい男店員の雰囲気が変わった。
「すみません! バカにしてる訳じゃないんです!」
さすがの俺もこんなビスケットオリバみたいな奴には口答えできない。
待てよ。現金が使えないなら俺、金持ってなくね?
「あぁ....最悪だ。この新条悠人、一生の不覚」
買ってもらったのだ。女の子に。年下の。
「いいんですよ。私がお金持ってないこと気付かなかったのが悪いんですから」
はたから見たら優しい言葉だが、今の俺の心には別の意味で刺さる言葉だった。
俺はまだ知らなかった。
これが女の子との初めてのデートだったということを。