ラストダンス
生まれて初めて書きました。
取り敢えず面白いモノが出来る訳も無いので、落着を目指して二日で書きましたので、読んでいただける方が居ればそれだけで御の字です。
わざと映像化が不可能な様に、作中に解説を書かずに、会話をメインに作り、最後に『え?』と言いたくなるように仕上げたつもりです。
まぁ、面白いかどうかは別ですが。
かつて栄えていた都市でも熱狂が冷めてしまえば、人々は掌を反す様に冷たい態度で一瞥も呉れずに、かつての生活に今の自分の正しさをぶつけて立ち去って行くモノだ。
そんなありふれている繁栄から忘れ去られた、うらぶれた街角の、更に寂れた一角。
通りの薄暗い灯りが、店の傾いた看板を照らし出し、それはまるでひねくれた人間が集う酒場である事を示唆しているようでもある。
「よぉ……。 (探したぜ……)」
「あ~ら、珍しい男が現れたわね。 さ~ん年ぶり、かしら?」
「あぁ、星が三回くらい……か。 (数える趣味は無ぇが)」
そう言いながら、男は離れた椅子に座る。
指を立ててバーテンに無言で注文をし、無言で酒を嘗め始める。
今のご時世、普通の酒場でも無頼者が集っていて騒がしいモノだが、ここは更に輪をかけて無法と言える場所であり、決して静かでは無いのだが、二人のいる場所は少し何かがズレているかのように、喧騒の外にあるようだ。
ややあって、男は面倒くさそうに口数少なく言葉を紡ぐ。
「実はな、ちょいと……。 (お前さんに野暮用があってな)」
「あらな~に? それこそ珍しいんじゃな~い? 貴方の方から私に用だなんて、どんな風の吹き回しよぉ」
「なぁに、『ちょい』とな……。 (やりてぇんだ)」
「あ~ら! もしかして私と『やりたい』な~んて? ん~!も~う! だから貴方好きよ♡」
そう言いながらグラスにゆっくりと手を伸ばし、残った酒を優雅に喉に流し込む。
「でも、あの時の傷は治ったのかしら? 結構、酷かったわよぉ~? 私、泣いちゃったんだからぁ~ん」
「あぁ……。 (不自由な生き方に不便は無ぇてぇどにな)」
「……で……、なぁに? どっかからの『受け仕事』なの? って、貴方はそんな事はしないわよねぇ~w 貴方。 自分を売るのは命を売るよりも嫌いなタチなん、だ・か・らw」
「ん~……と言う事は、私への、う・ら・みぃ~? でも私、貴方に恨まれる憶えは無いのよねぇ~。 ……愛されたうえに、愛されている憶えならあるんだけど♡」
「あぁ。 (恨みなんかじゃねぇ……)」
「……て事は……、お金でも恨みでも無くて、『貴方として』! なのね~ん♡ か・ん・げ・きぃ~ん♡ 私の為にそこまでしてくれるなんてぇ~」
「あぁ……。 (お前だけだ)」
「じゃ、邪魔の入らないうちに二人きりになりましょうよぉ。 ここは騒がしいわぁ~。 私の趣味には合わないって、ず~っと思っていたのよねぇ~。 ……貴方がいなくなったせいよぉ~。 せ・き・に・ん——、取ってくれるんでしょ?」
男の顔を横目で睨め上げる様に、媚びる様に、拗ねる様に、言葉を紡ぐ。
「……。 (俺の責任を取りに来ただけだ)」
「あらやだ。 浮気の良い訳でもしに来たのぉ~? 別に私はそんな事で怒らないのにぃ~」
男は目深に帽子をかぶると、無言に席を立った。
「……ふん。 やっぱり良い男ね……」
二人のいる場所からは既に二人は街の薄明るい光は闇の力に抗えずに、その姿を星の瞬きと競い合っている。
長らく雨が降らずに太陽に照らされ続けた大地は、その熱に晒されて乾ききり、夕闇の中でさえも、歩む度に太陽の残り香を誇ると共に、埃を湛える様に風に乗って、人生の行方のあやふやさを嘲笑う。
「い〜やぁ~♡ 貴方とベッドの上以外で『やり合う』なんて、初めてじゃな~い? 一体どんな心境の変化なのよぉ~!?」
「……俺もお前も変わっちゃいねぇ。 ……変われなかったんだ……」
「……そうね……。 だから私、あそこで待ってたんだもの。 今日の貴方が来るのを楽しみにね。 毎日遊んだわぁ……、色々ね。 ……でも、ぜんっぜん!!面白くなかったけどね」
「……全く……。 生きていたならもっと早く会いに来て欲しかったわぁ~」
「あぁ……。 (済まなかったな)」
「あぁ~ん! 責めてるみたいな言い方になっちゃったぁ? 私ぃ?」
「……」
「…………うん……、……そうね。 私、責めてるわよ? だから今日はいつもと逆に、私が太いのをぶち込んでいいんでしょう?」
「あぁ。 (もちろんだ)」
男は軽く星空を仰ぎ、言い放つ。
「こいつぁ、俺の勝手なわがままだ。 お前には付き合う義理は無いし、断る権利も当然にある」
軽く肩をすくめ手を開きバツが悪そうに言う。
「で、俺はお前の意思に逆らう権利は無い。 何しろ、わりぃのは全部俺だ。 それは地上の糞どもよりも、天上の糞ったれどもよりも、地下の怠け者よりも、何より俺自身が知っている」
「そ~んな事、初めから知ってるわぁ~。 だから愛したのよぉ。 貴方だけを」
「私に他の誰を愛すれば良いと思うのよぉ~? 糞ったれな慈愛に満ちた男なんて、お・こ・と・わ・り♡」
「私はねぇ、『生きたかった』のよぉ~。 自分を『生きたかった』のぉ~! 『逝きたかった』のぉ~! 『行きたかった』のよぉ~」
「だからここまで『来た』わぁー!!」
「だから私今、し・あ・わ・せ」
「だって今! 貴方が私を愛してくれている事が、ビンッビンに感じられるもの!」
「あぁ……。 (俺も今日、逝きそうだ)」
「さぁ、行くわよぉ〜」
……勝負は一瞬だった。
男の意思で放たれた、意思無き無慈悲な金属の塊は、易々と銃口の先にある標的を貫いた。
銃は正直だ。
相棒の意思を受けて銃口から飛び出し、手を離れた後はどのような理由や言い訳を付けた所で、止める事も戻す事も出来ない。
そして二人はその事を誰よりもよく知っていた……。
「あ〜ら、やだぁ……。 これ、助からないやつよぉ~w」
銃声の鳴りやんだ時には、弾は左胸を貫通して、肺に穴を開けていた。
力無く膝をついて、ゆっくりと仰向けに両手を広げて倒れこむ。
「やっぱり貴方、強いわぁ〜。 ジャック・ジョーカーの面目躍如ね。 怪我のブランクなんか感じなかったわよ」
「お前のも当たったぜ……。 お気にのハットに風穴を開けるとは、流石はジェルミ・ジュエルだ……」
「でもおしゃべりの時間を残してくれてありがとね。 あ〜あ、ジャック&ジェルミも今日で店じまいかぁ。 ま、楽しかったから良いかぁ」
「楽しい時間は早く過ぎるもんさ」
「私ねぇ、自分で想像していた最後の風景って昼間ばかりだったのよねぇ、何故かしらね? でも星空の最後もロマンチックよぉ。 貴方にお勧めかしら?」
「今朝ねぇ、私、『今日は死ぬには良い日だ』とか思ってたのよねぇ~。 ま、毎日思っているんだけどね。 いや、思っていた、だわね。 もう……」
息が早くなって来た。 終わりは近い。
「そろそろ最後みたい……だんだん暗くなって来たわ……」
「夜だからな」
「ふふ…久々におしゃべりね…貴方。 ねぇ……、最後に抱きしめて頂戴。 昔みたいに……、強く……」
「あぁ……」
ジャックはジェルミを冷たい大地から引き剥がす様に抱えると、抱きしめながら髪に手を這わして、熱く唇を重ねる。
幾許かの時が過ぎ、ジェルミの身体から生気が抜けて行くのを感じた。
「やっぱり…熱いわぁ〜…………焦げちゃい…そ……」
長く短い抱擁の後に、ジェルミは一言だけ残し、満足げな笑みを宿して、この世を旅立っていった。
ジャックは既に動かなくなったジェルミを その頭を支えながら静かに大地に下ろし、生気の失われゆく頬に手を添えて、もう一度別れの口づけをし、ゆっくりと立ち上がる。
ハットを目深にかぶり直してジャックは語りだす。
「俺たちがドジを踏んだ三年前のヤマで、お前は弾切れ、俺は利き腕をヤっちまった。 あの時お前に俺の銃を預けちまった俺が悪いんだ。 分かってんだよ。 悪りぃのは俺さ。 だが銃を他人に預けた事がどうしても俺の美学に反するんだ」
「自由に生きるだけが目的なのに、俺もお前も『男』の美学を求めてここまで来たが、まさかお前に先を越されるとは思ってもみなかったぜ」
しばしの無言の後、ジャックは空を仰いだ。
「どうした事だか、長話をしちまった……。 やっぱり似合わねぇ事はするもんじゃねぇな、美学に反する。 だから……」
そう言い残したジャックはジェルミに背を向けて闇の中を歩き出した。
「死が二人を分かつまで——か。 どうやらまだ別れられねぇらしい」
ホルスターに収められた愛銃に手を添えて呟いた俺は、その日まで歩き続ける……。
クレイジーダンスは終わらない。
最後のセリフの「死が二人を分かつまで」から遡って設定を構築して、頭からストーリーとネタと整合性を合わせて作りました。
読んで分かっていただけたかが心配なのですが、ジェルミは『男性』です。
つまり同性愛者の話しなのですね。
ですので、男同士の『美学』のぶつかり合いの話で、回避が不可能な悲劇に向かわざるを得ないアウトローの話になっています。
まぁ、二日で作りましたし、何しろ生まれて初めての作品です。
広い心でお願いしますw