第5話
朝なのだろうか。目は覚めたような気がするがやはり本来の自分のベッドではない。ここに来てようやく自分が元の世界に戻れないのではないかと不安になり始めた。
寝た時よりは外が少し明るくなったのだろうか小さな窓があることがわかりそこから外の景色がみえる。窓から見える景色は私がいた世界と同じような雰囲気に感じる。目の前に道路が見え、薄暗く遠い為文字までは見えないが黄色と青色の濃い色の某薬局のような建物が見える。
この時間に起きるようにセットしてあるということはあの男の朝ごはんや家を出る時間に関係があるのだろうか。そう思いリビングに向かう。
まだ、男は起きてないみたいだが鞄の横に弁当箱が置いてある。これは作らなくてはいけなさそうだ。
冷蔵庫を開けさつま揚げ、卵、ほうれん草、コーン、ウィンナーなどを取り出す。元々、一人暮らしでお弁当やご飯も作っていたのでなんとかなりそうだ。お弁当と朝ご飯を作りながら考え出す。
この状態をどうすれば良いのだろうか。ここで生きていくことなど考えたくもない。とにかく情報を集めなくてはならない。けれどあの男に聞いても何か得られる気がしない。下手に声をかけても怒鳴られるだけだし声をかけなくても怒鳴られるような気さえする。自分で何かを探すしかなさそうだ。
ピッ ピー ピッ ピー
私の部屋のとは違うアラームが鳴っている。あの男が起きてくるのであろう。今日は天気が曇りなのだろうか。外は暗い。
男は機嫌が悪そうな顔で歩いてくる。
「おはようございます」
挨拶をするが完全に無視され用意してあった朝食を何も言わずに食べ始める。食べてる間も新聞を読み私の方を見ようともしない。
「行ってくる」
朝起きてから1時間弱、食事や準備、テレビの時間を含め発したのはこの言葉だけであった。
「ふぅ、、、」
1人になったからだろうか力が抜け溜息が出る。何をすれば良いのだろうか。
普段、仕事をしているし休日は友達と遊ぶか寝ているため家事は隙間隙間の時間や誰かが遊びにくるときだけに掃除をするのでよくわからない。
ただ、また怒鳴られるのは嫌なので洗濯物を回し、その間に掃除機をかけ洗い物をする。世の専業主婦には申し訳ないが家事のやり方を対して分かっておらず雑な私からしたら30分ないくらいで終わってしまった。もっと丁寧にやったり他にもやるべきことがあるのだろうか。専業主婦の方々はどうやってこの時間を使っているのだろうか。
そんなことを考え洗濯物が回し終わるまで暇になりテレビをつけてみる。番組はいつも通りのように見えた。しかし、見慣れないチャンネルが左端に見える。p チャンネルと言うものだ。不思議に思いつけてみると水を操っている女の人がテレビに移る。
「なにこれ、、綺麗!」
驚きもあったがとても美しいものであった。噴水アートと言うものを昔見たがそれがもっともっと発展していくような形で女の人の手からはたくさんの方向に水が飛ぶ。そして噴水アートとは違い水を使って様々な形を作っていく。ハートを作ったり、お花の形にしたり氷の彫刻のように見えるが女の人の手の上でふわふわと浮き形がぐにゃぐにゃ変わるのだ。変わる瞬間はスライムみたいである。
番組情報を見ると水の星3レベル能力者奇跡のショーと書かれている。ここでは能力が使えるのが当たり前ということなのだろうか観客の人たちも普通に立ってみている人もいるが浮いてみやすい位置を見つけてみている人もいる。信じられないがテレビに映っているし私自身も昨日、本やお皿を動かしたのでありえないことではない。そして今になって自分が能力を使えたことを思い出した。昨日と同じように本に指を指し持ち上げるように指を振るとやはり浮く。とても不思議だ。
番組がひと段落しテレビを消す。
部屋が静かになると頭が冴えるような不思議な感覚になる。そして、私は涙を流していた。よくわからないが急に不安な気持ちに襲われた。
さっきまでは何かやることが頭に浮かんでいたのだがテレビを見て番組の終わりの綺麗なショーとエンディングの音楽が鳴り、まるで遊園地の閉園の時のような寂しさに駆られ消してしまった。
それにより静かさが本当に身に染みてきてしまった。
「っう、、、ここどこ、、帰りたい、戻りたい。夢なら覚めてよ!!こんなに長くて怖い夢やだ!!良い加減にしてよ!意味わかんない!」
よくわからない怒りが出てくる。
「どうしたら良いの、能力が使えるようになったってこんなおばさんやだよ。意味がわからない、どうしろって言うの。私この顔であのよくわからない男と死ぬまで一緒に暮らしていくの?、、、嫌だよ」
疑問ばかりが浮かんでくる。ただひたすらどれくらい泣いたのだろうか。とっくに洗濯機はまわり終わり本当に静かだった。
泣いたら喉が渇き水を飲む。少し気持ちが切り替わり洗い上がった洗濯物を干す。ベランダに出て分かったのだがここは3、4階あたりだろうか少なからず一階ではなくベランダに乗り出して隣をみた感じ団地のような家であった。
ベランダから見える景色は住宅街。私の寝ていた部屋とは逆の位置のため見えるものが違う。ただどうしても気になってしまうのが空の色だ。曇りのようにも感じるがとても暗く感じる真っ黒い雲がかかっているように見えるのだが夜空に近く昼間のように感じない。ただ、外には人通りがあるので特に問題があるわけではないのであろう。
外を見ていて私も散歩に行ってみようと思った。自分の住んでいるところが何処なのか気になる。もしかしたら自分の全く知らない世界なのかも知れないがこればかりは見てみないとわからない。
寝室に戻り洋服を探す。別のところに気がいきパジャマから着替えるのをずっと忘れていた。そう言えば昨日からお風呂にも入っていない。でも、私としては1日経たないくらいまえに現実でシャワーには入ったのだが。
洋服はあるにはあった。透明なボックスに入っており何着かある。しかし、少なく感じる。白いブラウスとスカートを履こうと思ったがこの顔にこれでは若すぎる気や化粧もしてないこの顔で着るのに抵抗が出てしまった。
仕方なく、ジーパンにワイシャツ、薄手のコートを羽織り外出準備を済ませる。無造作に置かれた鞄の中に少しの現金は入っていたので安心だ。ちなみにお金はちゃんと日本円。
「よし!」
準備が終わりドアノブに手をかける。