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ザラームの初仕事 舐めたことをしてくれた奴らの首を取ってこい


「しかしまあ、やってるな君たち……」

 極彩色の男は酒場と少年のつぶれた左腕の惨状を見て言った。

「……申し訳ありません、シェザードさん」

「すいません、師匠」

 ラクダの獣人と外套の少年が極彩色の男に頭を下げる。

「まあ、いいさ。子供は元気なほうがいいからね……直れ」


 極彩色の男がつぶやいた瞬間につぶれた少年の左腕、えぐれた地面、散乱した酒場が時を巻き戻すかのように直っていく。

 真言術、神が生み出したとされる力であり口に出した意思を実現させる魔術である。しかしただの一言でこれだけの奇跡を起こすのは達人の域を超え、極めたと称するべき実力である。


 魔術の腕を誇るでも、驚かれるでもなく極彩色の男……シェザードはつづけた。

「あとは自己紹介して早速仕事にかかって欲しいんだがね」

 その言葉にまず従ったのは外套の少年だった。 

 

「ザラームです。見ての通り命刀士です、あとは暗殺術を少し。実は神理者として活動するのは今回が初めてなのでご指導よろしくお願いします」

 素直に頭を下げる少年……ザラームに毒気を抜かれたように先達二人も返した。

「ダールだ、蟲甲士」

「ロクサナ、真言術士よ、あとは風術を【幸運の風】だけは使えるわ」


「真言術はどの程度まで使えるのですか?いや何か使えないものはありますか?」

「第四階位までならすべて使えるわよ、経験がないわりにそう聞いてくるということは誰かの受け売り?」

「ええ、師匠から魔術士と組むときは何が使えるかしっかり確認しておけと言われまして。使えて当然のような魔術が抜けてることがあると」

「ああ、言ったね」


 極彩色の男の呟きにラクダの獣人は反応した。

「シェザードさんの弟子なんですか、こいつ?」

「ああ、そうだよ。そこそこ出来はいいよ」

 その言葉にダールは考えた、シェザードが弟子をとることは珍しくない、というより弟子を育てるのが趣味のような男だ。

 自分は神理者としてのロクサナは魔術士としての弟子といっていい。他にも弟子といえる者は両手の指では数えきれないぐらいに思い当たる。


 だが基本的にシェザードが弟子にするのは身寄りがない切羽詰まった孤児だ。ザラームは仕立てのいい外套からいいところ……おそらく貴族の出だろうと思った。

 たまに貴族が神理者になることはある、神理連への反発からだ。だがそんな裕福な子供はシェザードは弟子にはしない。

 つまりザラームはかなりイレギュラーな存在だとダールは理解した、それが良い方向にか悪い方向かは分からないが留意する必要がある。


「さて、とりあえずここにいる四人が新生≪月夜≫央都支部のメンバーだ、できれば暗殺士が欲しいところだけれど、それは置いとき早速初仕事に行ってほしいんだが……」

「あのすいません、師匠。新生ってどういう意味ですか?」

「それはねザラーム、新しく生みなおすって意味でね……」

「いやそうでなく……」

「冗談さ壊滅したんだよ、一月前≪昇陽≫との抗争で全員死ぬか長期療養が必要な大けが負ってね。俺たちの仕事はその立て直しさ、まあ≪昇陽≫も似たような状況だけどね」


 当然といえば当然だが≪月夜≫と≪昇陽≫は不倶戴天の敵である。

≪月夜≫からすれば≪昇陽≫は地獄という監獄から脱走を企てる不逞のやから。

≪昇陽≫からすれば≪月夜≫は人間たちの希望を摘み取ろうとする邪霊に準ずる存在。

 争い殺しあう抗争など日常茶飯事である。


「さて話を戻すけどこの央都から北東に50kmの砂漠で≪昇陽≫央都支部の生き残りの命刀士と炎術士が何かやってるらしい、舐められたままってわけにはいかないからちょっと首をとってきてくれ」

「情報はどこからですかい、ずいぶんアバウトですが?」

「情報屋の≪真実≫からだ、確度は高いよ」

 その言葉に納得したのかダールはそれ以上言葉はつづけなかった。


「さて、早速行ってきてくれ」

『はい』 

 三人が声をそろえ、ロクサナとザラームが外へ出て、ダールが遅れて酒場の片隅で転がっていた大絨毯を抱えて外に出る。

「あ、すいませんダールさん。気が利かず」

「いいよ、別に」


 地に広げられた絨毯、それにロクサナが術をかける。

「飛べよ、絨毯、空をかけ、遠くへと」

 ロクサナの真言に応え絨毯がふわりと浮き上がり、そこにロクサナ、ダールは乗り込む。

 ザラームも乗り込もうとするも


「そう言えば僕たちは≪昇陽≫の神理者を殺しに行くとして師匠はどうするんです?」

「ああ、≪昇陽≫も補充と懲罰を兼ねて人員を送ってきたからね。挨拶してくる」

 笑いながら言うシェザード。その笑みは魔術士の理知的なものでなく、戦いを好む戦士のものだった。

 ターバンと外套は命刀術の開祖がまとっていた物、ゆえにそれを継ぐ者たちが好んで着こむ物。そうシェザードは魔術士である以上に命刀士なのである。


 師の言葉を聞いたザラームは納得したように絨毯に乗った。

「それでは行ってきます、師匠」

「ああ、行ってきなさい。君たちが平安と共にあらんことを」

 ごく普通の別れの挨拶、そして今から首を取ってくる相手に言うのは相応しくない言葉を背に絨毯は天へと舞い上がる。そこからは央都の全貌――王城が、オアシスが、市街が、異界域の農場が、城壁が見えやがて遠ざかり見えなくなった。


 三人を見送ったシェザードは歩みだした。無論のこと≪昇陽≫の神理者たちに挨拶しに行くためであるが……

(ここから50km北東ね……何かあったかな?)

 思い当たる節のなかったシェザードは先に≪真実≫に話を聞くことにした。


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