幼なじみの心境
幼なじみの心境
私には幼い頃からずっと共に過ごしてきた、半身とも言える幼なじみがいる。
彼は決して世間で言うところのイケメンでもなければ、頭脳明晰でもない。
運動も中学の頃はやっていたけれど、目立つ選手と言うわけでも無い。
高校生になって部活に入るそうれが無いのも、そこまでスポーツに未練が無いからだろう。
私の生活は彼と共にある…中学生で起きたあの事件で暫く話すこともできなくなった時は自分の体が引き裂かれるほどの苦痛を感じた。
この感情を他の人に相談したらきっと恋であると言われるのかもしれない。
確かに、それに近しい感情を抱いていることは否定しない。
けれど、近いだけであって私の感情と恋は恐らく交わることのない感情であると断言できる。
もちろん好意はあるし、何なら家族よりも深く想っている。
しかし、私は彼にふさわしい彼女ができることをむしろ望んでいるし、それは私ではなくとも構わないと想っている。
私のせいで、彼には中学の頃多大な迷惑を掛けたと言うのもある。
あと彼は私にとって近い存在であって、恋愛感情なんてものでは表せないのかもしれない。
ここまでずっと1人で語ってきたけれど、結局言いたい事は私は彼、新城奏多のことを愛していることだ。
ベッドで横になりながら好きな歌手の曲を聴きながら、こうして考えにふけることは珍しくない。
寝る前のこの時間は私にとって朝の散歩に次ぐ幸せな時間だろう。
彼のことを考えている時間だけは自分が自分でいられる感覚がする。
学校や世間の望む蘭堂玲奈である必要がなく、ただ普通の女子高校生の私。
彼だけが知る、私の姿。
面倒臭がりで、人付き合いも本当はそんなに好きじゃない、お洒落だって彼が見てるって思えなきゃ頑張れない。
そんな格好悪い私。
曲が流れ終わって、いよいよ明日に備えて寝ようと電気を消すために立ち上がると向かいの部屋の電気が付いているのが見えた。
彼はまだ眠っていないようだ。
私の告白現場で彼が言っていたラブレターでも読んでいるのだろうか。
きっと彼はとても優しいからどんな相手からの告白でも真剣に悩み結論を出すことだろう。
誰が彼に告白したのか気にならないはずがない…けど、それはすぐにわかることだから悩む必要はない。
今まで彼が私に隠し通せたことなんて1つもないんだから。
いよいよ、寝ようかと彼の部屋のカーテンに覆われた窓から目を離したところで、ちょうどよく私の部屋の扉がコンコンと叩かれた。
「姉ちゃん、まだ起きてる?」
「うん、健人何か用?」
夜中に私の部屋に来たのは弟の蘭堂健人。
姉の私が言うのもなんだけれど、とても顔の整った男の子だと思う。
告白された回数だけで言えば、私よりも多いだろうし、入学したばかりの高校でも同級生や先輩から思いを告げられているらしい。
そんな健人が特定の彼女を作らないのは深刻な問題点があるから。
「姉ちゃん、かなにいって彼女いるの?」
部屋に入ってきて早々、健人は私に本題を告げる。
私たち姉弟はあまり会話をする方では無いと思う。
挨拶はするけれど、わざわざ話題を振ってまで会話をする事は滅多に無い。
そこまで姉弟としてお互いに興味がなさすぎるのかもしれない。
けれど、私たちにとって共通の話題が1つだけある。
「いないと思うけど。何か奏多にあったの?」
そう、それは奏多の事だ。
健人は昔から異常なほど奏多に懐いていて、実の兄のように慕っている。
実際の姉である私なんかよりよっぽど親しげに離しているのは、少し引っかかるところがないでも無いけど。
それだけ奏多が魅力的な人であると思うのは、私の弟であれば寧ろ当然のではと納得することにした。
「いや、かなにいのことを聞いてくる人がいてさ。上級生だと思うけど。」
「なんで健人に奏多のことを?」
「さあ、姉ちゃんの弟だって知ってたからじゃ無い?」
上級生なのに私に聞くのではなく、入学したての健人に聞くのは疑問だ。
私と奏多は幼なじみだけど学校ではほとんど会話していないし、他の生徒から見れば幼なじみだけど今では大して接点のないただの同級生に映るはず。
「奏多について何を聞かれたの?」
「いや、かなにいに今付き合っている人いるかって。知らないって答えたけど。そもそも初めて話した先輩だったし、かなにいのこと聞かれたしで俺もびっくりだったからさ。」
「…。」
やっぱり少しおかしい。
健人に奏多のことを聞くのもだけど、そもそもの話健人はあくまで奏多の幼なじみの弟であって普通に考えればそこまで仲が良いと思う事はないはず。
「その人の名前は?」
「いや、なんか教えてくれなくてさ。姉ちゃんに『そのうち会いましょう。』って伝えてくれって。俺には何が何だかさっぱりだ。」
「私に?…、健人、伝えてくれてありがとう。ーーーもしかしたら私の知り合いかもしれないから、もう気にしなくていいよ。」
「そう?…まあ姉ちゃんがそう言うなら大丈夫なんだろうけど、かなにいに嫌な思いさせんなよ?」
少しだけ語気強めに健人が言ってくる。
健人にとっても奏多はとても大事な存在で、私と同様に気にかけている。
「うん、もちろん。ーーーもう二度と奏多を辛い目に合わせたりしない。」
健人にそう伝えるのと同時に自分の中で再確認するように言い聞かせた。
その言葉を聞くと健人は「おやすみ」と素っ気無く出て行った。
私も同じように素っ気無く返す。
1人になった部屋で私は先ほどの話から考えられることを探す。
近いうちに向こうから寄ってくるのは間違い無いんだろうけど、誰だかわからない状態で奏多や私のことを嗅ぎ回られるのはいい気分ではない。
確かな情報はその女子生徒は私に対して宣戦布告をしてきていると言うこと。
私と奏多のことをやたら調べて、今でも親しい交流を持っていることを知っている、もしくは調べた人物。
その上で奏多に恋人がいるかを確認して、私のことを警戒させるのが目的だとすぐにわかる。
「誰であろうと、ストーカーまがいの行為を平然とするような人に、私の大切な人は絶対に渡す事はできない。」
強くそう誓って、明日をいつもより待ち遠しく思いながら私は眠りにつくのだった。