俺の日常5
俺の日常5
結局あれから玲奈と別れ、家に着くまで例の封筒を開く事はなかった。
タイミングがなかったと言うよりも、あんな事があったらもう誰もいないと確信してる場所で見るのが安全だと思ったからだ。
我が家である新城家は至って特徴もない平凡な家庭だ。
父親はしがないサラリーマンだし、母親はアルバイトをしていて共働き。
妹はいるにはいるんだが、俺とは違い才能を開花させ首都圏にある超進学校で寮生活を送っているため、長期休みでもなければ会う事はない。
つまり、この夕方の時間はほとんど俺が家で1人っきりと言う状況になる。
俺にとってもそれは好ましいことではあった。
妹と自分を比較して劣等感を抱くなんて事はないし、両親にそれを責められ勉強しろなんて急かされたこともない。
家族といる時間が嫌だから好ましいと言うことではなく、俺にとって家に帰ってきて1人でボーッとするこの時間が私服というだけなのだ。
部屋で一息ついた後
「さて、見るとするか。」
俺は自分のベッドに腰掛け、鞄から例の封筒を取り出した。
封は先ほど切ってしまったが中身については何も見れていないし、ほぼそのままの状態だ。
封筒の裏側なり見てみたが、名前は書いておらず誰が書いたかはわからない。
ただ、封筒の表側に「新城君へ」と書かれていただけだった。
中には一枚の手紙、俺は恐る恐るそれを読む。
「新城くん、このような形で気持ちを伝えることになった申し訳ありません。
真面目な君はとても驚いてしまったことでしょう。
でも、これを書いている私もとても緊張しているのでおあいこと言うことにしておいてください。
単刀直入に言います。
私はあなたのことが好きです。
理由という理由はないのかもしれません、でもあなたが周囲を見る目や自分に対して一定の諦めを持っていることを私は気づいてしまいました。
それに気づいた時とてもあなたのことを愛おしく思えてしまったのです。
今付き合って欲しいというつもりはありません、そもそも私は名前を明かしてはいませんし。
でもこうして伝えることであなたが少しなりとも私を意識してくれればそれで良いと思っています。
長くなってごめんなさい。それではまた近いうちに。」
読んだ感想としては全く意味がわからない。
これはラブレターといえばそうなのかもしれないが、結局のところどこの誰かという情報はまるで無いしこの手紙を俺に出して手紙を書いた彼女は何をしたかったのか。
いたずらという線もなくは無いが、「あなたが周囲を見る目や自分に対して一定の諦めを持っている」
という一文には少なくとも、学校でそう見えないようにしていた俺の表面を看破したということになる。
手紙の筆跡や語り口調に覚えもないし、本当に見知らぬ誰かさんということなのだろうか。
文章の最後で近いうちにと書いてあるという事は向こうからそのうちまた接近してくる機会があるのかもしれない。
俺はもはや告白されたことよりも、これが誰なのか…そのことばかり気になって仕方ない。
「ん?」
手紙の裏に小さな紙がひっついている。
剥がして見てみると、そこにも文字が書かれていました。
「PS 幼なじみの女性と大変仲が良いという事は隠しておいたほうが良いと思われます。それに私も嫉妬して朝の密会にお邪魔してしまいそうなので。」
「な…!!」
俺は声が出るほどの1番の驚きをこの僅かな文字で起こされるなんて思いもしなかった。
玲奈と俺が今でもつながっていることだけでなく、朝一緒に散歩していることまで知っている。
可能性的には近所に住んでいる中学の同級生が怪しいが、俺が中学で虐められていた状況を知っていればそもそも俺を好きになるとは思えない。
それに、中学の同級生であるなら今でも仲が良いと言う方が自然に思える。
「ストーカー…なのか。」
大変人気のある玲奈のストーカーならまだしも、俺にそんな人がいるとは…。
これはラブレターよりもとんでもないもんもらっちまったな。
つまり手紙の彼女、Xと以降呼ぶことにするが…彼女はいつでも俺と玲奈の今の関係をバラすことができると言うことだ。
高校に知れ渡れば俺は残りの高校生活が、また地獄に変わり果てるのを容易に想像できる。
「このタイミングを…まさかわざと狙ったのか。」
玲奈が好きな人がいると宣言し、注目がより集まった状態で俺と仲がいいなんて情報が出回れば俺に対して追及されるのは明白だろう。
「どうすりゃいいんだ…。」
「俺のことを好きな人は実はストーカーでいじめの根源でした」なんて流行らないラノベタイトルみたいな状況は勘弁してくれ。