表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
素直になれない俺と彼女たち  作者: re:まったり
51/57

春沢優の過去3

私たちは2年生になった。

それは、新学期を迎えるというだけではなく…クラスも変わることになる。

私と玲奈、香織が同じクラスになって、喜んでいたけれど、私はもう1人の名前が気になっていた。

新城奏多…今年は彼とも同じクラスだ。

彼のことが気になることを今はもう否定できない。

それは交際相手としての感情ではないと思う。

少なくとも恋人としては、遼を想っていると間違いなく言える。


「けど、私は…。」


遼のことをなんで好きになったんだっけ。

苦しい時の私を助けてくれたから?

わからない…でもこれはきっと恋なのだろう。

そうでなければ、私がここまで落ち着いて話すことはないだろうから。







「玲奈ってやっぱ凄いよね〜、テニス部圧倒してんじゃん。マジの天才。」


体育のある日、男子生徒は持久走をして女子がテニスをする機会があった。

男女が体育で近い場所でやることは少ないけれど、今回は何か事情があったのだろう。


「うん、玲奈は凄いわね。本当に。」


完璧といえば彼女と言えるほどに玲奈は完成されていた。

彼女が感情を荒ぶらせているところを私は見たことがないかもしれない。


「でも、残酷ね。」


私は小さな声でそう呟いていた。

玲奈が凄いのは誰でもわかる。

女子生徒たちが、歓声で湧くのもわかる。

けれど、それは私には酷く歪に見えた。

以前の私だったら、こんなことは思わずに玲奈は凄いなと思っていたことだろう。


男子生徒の方を向くと、その中で私のように浮いた人がすぐに見つかった。

新城奏多…彼は他の生徒とは違い、暗い表情をしていた。

顔色も悪いように見える…一体何があったのだろうか。

私はそれが気になってしまい、先ほどまで考えていたことが頭から飛んでいた。


そんな時、コートの隅で怪我をしたのであろう女子生徒が1人で足を引きずり気味に歩いている。

確か高嶺さんという子だったかな?

去年、同じクラスだったはず。

私は、周りを見渡したけれど…誰もそれには気づいていないようだ。

彼女のクラスメイトも、授業を担当している体育教諭であっても。

みんなが玲奈のプレーに夢中で誰もそれに気がつかない。

私はそれがなんというか不気味で複雑な感情を自分の中に感じさせた。


例えば一見色彩のバランスが整っているように見えて、全体が少しずつ歪んでいるみたいな。


「ごめん、私少し外すわ。先生が何か聞いてきたら適当に誤魔化しといて。」


私は、隣に座っていた香織にそう告げて彼女の元へ走り出した。

香織が「え、どうしたの?」と言っていたが、私は止まることができなかった。






そうして、校舎の方へ向かっていくと…1人の生徒が彼女の元へ駆け寄っていた。

その人物を私が間違えるはずがない。

新城の顔は、ここからだとどのような表情をしているのかわからないけど…女子生徒の方は少し警戒しているか。


しかし、2人が保健室の方に向かっていくのを見て私も安心できた。

高嶺さんと新城…関わりのある2人には思えないから、恐らく新城がお節介で話しかけたのだろう。

私の知っている新城らしくはない行為ではあったけど彼のそういうお節介なところは、私は嫌いじゃない。


「私は…」


このまま、体育の授業にまた戻るか…それとも…。

それとも?

私は何を考えているのか…今、新城に話しかけようとしたのか。


話しかけてどうするのか、そんなもの何も考えていない。


でも…今、私の気持ちはそちら側に傾いてる。

私は玲奈のように完璧じゃない…合理的なことを選んで実行するなんてことできないんだ。


「私は、新城とやっぱり話したい。」


きっと遼が言ってくれたのは、そういうことなのだろう。

私が飢えて物足りないと感じているのはやはり彼だ。


「あの時は、今よりは安定していないし…悩みも多かったけど」


それでも今より楽しかった。

苦しかったかもしれないけど、新城と話しているのが嬉しくて仕方ない。

私は本当に臆病で、1年も掛かってしまったけど…逃してやらないわよ、新城。


そう思いを決意に変えて私は彼の元へ駆け出した。






話してみたら、こんなものだったんだって思わされたくらいだった。

新城を本当に目の前にしたら、言葉は自然に出てきた。

それから幾度となく新城と話したりすることができた。

美術室に招いたことも1年ぶりだったけど、全く違和感がなかった。

新城も最初は、遼と付き合っている私と話づらい雰囲気を出していたけれど、すぐに打ち解けることができた。


夏もだいぶ近づいてきたある日


「なあ、春沢?」


「何よ、動かないで。集中してるんだのがら話しかけないで。」


「そんな理不尽な…。」


私は、新城のことをモデルにして描いていた。

彼には全く動くなって言っているのに、全然止まっていられない。


「なんで俺をモデルにするんだよ…。」


彼がそういうのも無理はないだろう…つい最近玲奈と交際を始めている新城だが、玲奈は私と新城がこうして話すことを許可してくれている。

遼に関しては、特に何も言ってこない。

私と新城が和解した辺りから、話すことがあまりなくなった。

別れてはいないが、彼自身何か最近変化があったように思う。


「それは、新城の顔って書きにくいから練習になるからよ。」


「悪かったな…特徴のない顔で。」


新城はすごく不満げにしている。

絵描きではないから私の気持ちはあまり理解できないのだろう。


「そんなこと言ってないわよ。新城のことは他の人より見た回数が多いから特徴がある程度掴めているのよ。」


「はいはい、そりゃどうも。」


随分と投げやりに返事しているが、先ほどよりはなんとなく不満さは抑えられたと思う。


「それで、春沢…あの。」


「玲奈と何かあったの?」


「お前って本当勘がいいよな。」


「新城が分かり易すぎるのよ。私じゃなくてもすぐわかるわ。」


「そんなにか…。」


新城が思い悩むのは玲奈のことがほとんどだ…彼のせいでもなんでもないけど、私は少しそれに関しては不満を抱いているものだ。

玲奈は交際相手だから、悩むことは別にいいと思うけど…私のモデルをしている時くらいは、それに集中して欲しいものだ。


「春沢は滝谷とどうやってやってきたんだ?ーーー俺は、付き合ったことなんてないし…どういう風にしていけばいいかわからないんだ。」


「そう…けれど、あまり私は参考にならないと思うわ。私が交際している上で悩んでことはないし、そういう悩みは遼が引き受けてくれたと思うから。」


「まあ、そうか…滝谷だもんな。」


「新城こそ、玲奈に頼ったらいいじゃない、あんなに完璧な彼女がいるだのがら。」


「そうは言うけどな…。」


男は女に頼ることがカッコ悪いとか時代錯誤なことを本当に考えているとしたら、私は新城のことをぶっ飛ばしているところだけど…見栄と言うものもあるだろう。

私には理解できないが、男はカッコつけたい生き物だと聞いたことはある。


「俺には、春沢みたいに自分を突き通すようなこともできないし…やっぱ難しいのか。」


「新城…私をとんでもないわがまま娘だとでも言いたいのかしら?」


「そりゃ、そうだろ。春沢に付き合えるのなんて、滝谷くらい仏のような心を持つ人間じゃなきゃ無理だ。」


「言ってくれたわね!!」


私は椅子から立ち上がって抗議を全身でアピールする。


「おいおい、絵描くじゃなかったのか?」


「そんなの後回し!!」


逃げる新城を追いかけ回す私。

美術室で埃を立てるのはどうかとも思ったけど、運よくそんな作品はないので私は速攻で新城を捕まえることができた。


もちろん、新城が考えを改めるまで逃すことはなかった。


そんな日々が楽しくて、夏休み前にあんなことが起こるなんて想像もしていなかったのだった。











修学旅行での1日目の夜、新城は玲奈が狙われているかもしれないと私に相談してきた。

私は、もちろん新城に協力することにした。

一体どうやって協力するべきか迷ったが、新城は…なるべく大事にせずに解決したいらしい。

玲奈…彼女に修学旅行を楽しんで欲しいと言う新城の気持ちは私にも理解できたが、新城は大丈夫なのだろうか。

私は一抹の不安を抱えながら、次の日の自由行動で私たちの行動を新城に連絡すると約束した。





気づいたら玲奈がいなくなっていた。

私の不注意だった。

油断はしないつもりだったのに、歩いていたら気づいたら玲奈がいなくなっていたのだった。

私は新城に急いで連絡した。

神社では一緒にいたのに、歩いているうちにどこへ行ってしまったのかわからないと。

そんなこと言い訳に過ぎないと分かっていたが、新城は私のことを怒りもせずに電話を切った。

きっと、玲奈を探しに行ったのだろう。


「遼、玲奈見つかった?」


「いや、こっちにはいないみたいだ。少し遠くまで行ってしまったのかもしれない。」


「玲奈ってばどこ行っちゃったの。」


遼も香織も玲奈がストーカーに追われていることなんて知らない。

探してくれてはいるが、近くでは見つからないため私たちは神社の方へ戻ろうとしていた時に遼のスマホに着信が入った。


「ああ、…うん、…わかった。ーーーじゃあ奏多や蘭堂さんのことはよろしく頼む。」


遼は電話を切ったので、私は駆け寄って内容を聞く。


「遼、2人は見つかったの?」


遼は少し息を吐きながら


「ああ、奏多がどうやら怪我をしたらしい。」


「新城が怪我をした?」


私は、遼からその言葉を聞いた時…平静を保てていただろうか。

新城が怪我をする…私が考えうる限り最悪な予想は当たってしまったのか。


「そうみたいだ。蘭堂さんを庇って刺されたとか聞いたけど、具体的にはまだわからない。」


「ねえ、その病院はどこなの?」


「具体的なことはわからないって言ったろ?北島さんから話を聞いただけなんだ。」


北島澪…女子バスケ部の部員だったっけ。

そんなことはどうでもいい…新城は、どうなっているの。

私があの時、あんな無茶なことはやめさせればよかった。

なんで、ちゃんと玲奈やみんなに言っておこうって言えなかったのか。

今更悔やんでも悔やみきれない。


「でも、何か言ってなかったの?今どう言う状態とか、ねえ、遼!!」


私は激しく取り乱しているだろうとここでようやく気がついた。

香織も「ちょっと落ち着きなよ、優。」と声を掛けてくれているのに頭の中に入ってこない。


「落ち着け!ーーーお前が取り乱してどうする。俺や優が慌てたって何も良いことが起こらないことくらいわかってるだろう。」


「ッーーーー。」


私は冷水を頭からぶっかけられた気分になった。

暑くなっていた頭が急速に冷やされる。

それは、落ち着いたって言うのとは似て非なるものだろう。

頭が冷やされ…私は自分のやってしまったことに向き合わざるを得なかった。








宿に戻った後先生から詳しい話は聞けた。

新城は入院しているが、命には関わらない怪我だと言うこと…意識がまだ戻らず、玲奈と新城、そして事件の目撃者である北島さんは修学旅行から外れると。


「ねえ、香織…私どうすればいい?」


部屋でも涙が止まらなかった、私は香織に答えのない質問をしてしまう。


「それは…。でも玲奈は大丈夫だって電話で言ってたじゃん。」


玲奈が病院から電話をかけてくれた。

新城に付き添いたいから、今は離れることはできないと。

新城がすぐにどうこうなる容体ではないから安心してくれって。

でも話している玲奈の声は震えていて、あの玲奈がそんなに取り乱すなんてこと今まで見たことなかったから私の心は激しく揺さぶられてしまった。


「そう…よね。」


「優、今日はもう休みなよ。明日もあるんだし…。」


「ごめん、もう修学旅行のこととか正直考えられないわ。ーーー少し、外出てくるわね。」


「優!!」


私は香織の静止を振り切って外に出た。




宿の外にある庭園のようなスペース。

昨日、新城と話した場所だ。

私は結局何がしたかったのだろう…新城の無茶を止めることができず…玲奈も悲しませた。

新城が私を信頼して相談してくれたのに、何の力にもなれなかった。


こうして、外の風に当たって自分の考えを整理しようと思っていたが…結局のところ何も解決はしなかった。


彼女がここに姿を現すまでは…


「やあ、無理してきた甲斐があったよ…。こんにちは春沢優ちゃん。」


気づいたら彼女は目の前にいた。

私たちと同じ制服を着ているのに、彼女には明らかに普通の人とは異なるところがあった。


「私のことを知っているみたいね。ーーーというより、そのふざけたお面はどういうことかしら。」


彼女は猫の模様が描かれたお面をつけていた。

顔を隠すためにつけているのか、悪ふざけか…どちらにしても私は付き合う気分じゃなかった。


「ごめんなさい。今は1人にしてもらえるかしら。」


私はそうしてその場を立ち去ろうとしたが、彼女の言葉によってそこに止まらせられることになる。


「あ〜、行っちゃうのか。ーーー折角、新城奏多君についてのお話をしてあげようと思ったのに。」


「え…。」


「聞きたくないかな?彼のこと。私は蘭堂玲奈よりも彼のことをよく知っているんだ。」


仮面で表情がわからないのに、彼女は笑っている…しかも不気味な笑みで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ