俺の日常4
俺は一瞬何が起こったのかわからなかった。
「ねえ、もう先輩いなくなったよ。ーーー出てきたら?奏多。」
俺のいる方向に玲奈がそう声をかけてきたことを理解した時には玲奈は、もう俺の側まで来ていた。
「私の告白見ててどうしたの?ーーわざわざ覗きに来るなんて。」
玲奈は意外そうに言うが、雰囲気からとりあえず起こってないことだけは理解できた。
「えっと、まずはごめん。覗くつもりなんかないって言っても言い訳になると思うけど、わざとではないんだ。」
頭を下げて玲奈の返答を待つ。
玲奈が告白を受けているのを目撃したことは何度かあったが、それでも今回のように覗き見るような形で告白を見た事はない。
俺がこの旧校舎裏に来たのも、玲奈がそこで告白を受けたのも完全に偶然ではあるけど、その後隠れて見続けてしまったのは俺の罪だ。
「ん、素直に言えて偉いね。よしよし。」
玲奈はそう言って俺の頭を撫でてくる。
まるで母親が小さな子供にそうするように。
俺は頬が急に沸騰したかのように熱を帯びたのを感じた。
「な、何すんだ。やめろって。」
俺は玲奈の手を振り払う。
「嫌だった?昔は喜んでたのに。」
「昔って、幼稚園とかくらいの頃だろ!?高校生にもなってやめろって。」
玲奈は急に手を握ってきたり、こうやってスキンシップをとってくる。
昔よりはマシになったとは言え世間の目を考えて欲しいものだ。
玲奈は昔と変わらない…その純真さも俺に対する態度も。
でも俺は変わってしまった、俺だけじゃない…周囲が俺たちを見る目も昔とは違う。
俺がストッパーにならなきゃ、また中学の時と同じことを繰り返すことになる。
「ーーーねえ、何で見てたの?別に謝って欲しいわけじゃなくて、私はそれが気になっただけ。」
「そ、それは…。完全に偶然と言うか。俺が先にいた所に玲奈たちが来て出るに出れなくなっちゃって。」
しどろもどろになりながら何とか答える。
純粋な疑問、俺にとって今答えづらいものではあるものの、至極真っ当な疑問だ。
「そうだったんだ。でもじゃあ何で来てたの?旧校舎なんか部活動に所属してない奏多には用がないと思うけど。」
「えっと…。」
旧校舎は普段使われてない。
その名の通り以前は使われていたが、今はその役目を果たしているわけではない。
部活動で文化系の部活が一部空き教室の関係で使用していると言う噂はあるが、実際ほとんど使われていないんだろう。
活発な部活動が行われているなら、俺が旧校舎裏でラブレターを見るなんて暴挙は起こしていないだろう。
「もう隠しても仕方ない気がしてきたな…。」
知られたくはないが、玲奈にはそのうち見抜かれそうだしな。
「隠すような事?言いづらい事なら無理には聞かないけど。」
玲奈は一見気遣ってくれてるように聞こえる。
しかし、これは罠だ。
俺から直接聞く事はないが、どんな手段かはわからないけど俺の隠していることをどこからか情報を仕入れてきていつの間にか知られている。
勘違いを生まないためにはもはや自分から白状したほうがいいのかもしれない。
以前、俺がカッコつけてつけていた指抜きグローブを発見して家族の前で一緒につけようなんて楽しそうに言ってきたのを思い出す。
玲奈は俺とお揃いのものを付けたかっただけなのかもしれないが、おかげで家族会議が開催され部屋にあった厨二病グッズは全て撤去された。
「いや言うよ。玲奈に隠し事はあんまりしたくないし。」
「ん、ならいいんだけど。」
玲奈が俺に対して隠し事をするなんてことなかったし、俺だけ言えないことがあるってのは幼なじみの関係的には都合があまり良くないだろう。
「実は、ラブレターかもしれないものをもらったんだ。それを見るためにここまできて、流石に1人になれると思ったんだけど…。」
「ラブレター…ーーーー本当?」
玲奈は少し考え込む仕草をして、信じられないと言った表情で聞いてくる。
その態度は少し失礼じゃないか…確かに自分でも信じられないことではあるが。
「ああ、まだ読めてないから本当にそうなのかわからないんだけど。」
「そうなんだ…。それで、読もうとしてた所に私たちが来ちゃったんだ。」
「そうそう。だから、まだわかんないんだけど、ピンク色の封筒で中に紙が入ってたのが見えたから多分そうじゃないかなって。」
「話してくれてありがとう。ーー言いづらいこと話してくれて嬉しい。」
玲奈はあまり表情を崩す事はないが、俺に対して花が咲いたような笑顔を見せてくれる時があるのは本人には恥ずかしくて言えないけど嬉しいと感じてしまった。
「ううん、玲奈も許してくれてありがとう。」
俺はそんな内心を必死に隠しながら、いつも通りに玲奈と会話を終えたのだった。