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素直になれない俺と彼女たち  作者: re:まったり
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後半と結果

後半が始まって、すぐにその異変は訪れた。


「っく。」


玲奈は前半ほど、自由に動けなくなっていた。

理由としては単純な話で、男子が2人でマークするようになったからだ。

女子に対して、身長も圧倒的に高い男子が2人でマークしていれば玲奈といえど簡単には振り切れない。

その上、何とかボールを受けてもシュートまで持っていくのは厳しい。


「こっちにパス!」


拓哉も必死にボールを繋ごうとするが、澪を含む女子部員がパスコースを限定する。

そうすることで攻め手の数を減らして、攻撃をしにくくなる。


結果はすぐに点差となって現れた。

あれだけ前半リードしていたが、たったの5分で残り34対29と5点差まで迫られてしまったのだ。


高嶺も前半で必死にディフェンスをしていたのが仇となったのか、運動量が落ちてパスのインターセプトはほとんどできなくなっていた。


あの2人は今普段からバスケをしているわけではないので、スタミナの問題は俺も危険視していたがここまで露骨にディフェンスのやり方を変えてくるとなると澪も相当に勝ちたいのだと伝わってくる。


「このままじゃ…。」


「女子に体育館を奪われちまう…」


男子部員の悲痛な声が聞こえてくるが、女子部員たちも負ければ同様の措置を取ることになっているので手を緩めるはずもない。


そもそもの話、澪の連れてきた他校のバスケ選手はかなりの実力者に見える。

前半は玲奈の個人技に反応することすら厳しかったが、後半に入ってからは2人がかりとはいえ簡単には突破はさせない。


拓哉たちも頑張ってはいるものの、このままじゃ追いつかれるのは時間の問題だろう。


残り5分で何ができるのか…俺ももはや傍観者としてコートを見つめることしかできないのであった。



「玲奈っち、これで終わりかな?」


澪は玲奈に問いかける。

切り札はもうないのかと…なければ自分たちが容易に勝つことができると。


「…。」


玲奈は息を切らせ、言葉もなく澪を強く見つめる。


「へえ…まだ何かあるんだ。さすがだね。でも、時間もそんなにないんじゃないかな?」


「見てて。私は奏多の前でかっこ悪い姿だけは絶対に見せたくないの。」


玲奈はそれだけ言って、味方選手からボールを受けにいく。


玲奈にとってはこの試合、ただの男子部の手伝いとして臨んだものではない。

寧ろ、そうでない理由の方が大部分を占めていた。


(私が奏多に初めて頼られてたことで、ガッカリされたらきっと奏多は負い目を感じてしまうから。)


奏多が恋人になり、初めて玲奈に頼み事をしてきた。

彼が人に頼み事をすること自体珍しく、基本的には自己で完結する。

しかし、友人の助けになりたいという彼の根本的な優しさを玲奈も理解していた。

だからこそ、頼みを断るという選択肢はなかったし…失敗はできない。


そして、そういうプレッシャーを受けることは蘭堂玲奈にとって日常的なことだったのだ。

期待にはそれ以上で答える…そうすることで彼女は人とかけ離れた才能を持った少女だと認められ続けた。

それが望んだものであったかは別にしても、そういう他者から期待を受けるということには慣れていたのだ。



「絶対に勝つからね、奏多。」


玲奈はボール、選手の位置、ゴール…コートの全てを見通し最適なルートを頭で思い浮かべる。

解はすぐに求めることができた。

彼女の並外れた頭脳は…こうした展開になることすらも読み切り、()()()()()()()してきたのだから。


玲奈はドリブルで前に進む。

敵選手は2人がかりで止めようとする、先ほどと同じ戦法。


しかし、先ほどまでとは違うことが起きたのだ。


「は!?」


「何だ、今の。」


2人の選手は驚くことすら、遅れてしまうほどに立ち尽くした。

男子選手のスピードに慣れているはずの彼らが2人がかりでも全く反応できないほどの一瞬で、何もできずに抜かれてしまったのだ。


「これは…参ったな。」


見ていた澪も、起きたことを全て理解することができなかった。

彼女が高速でフェイクを繰り出し、抜き去ったことはわかったが…それはあくまで結果の話。

無論真似することができるとも思えない。


「たった、1週間だって聞いたのは間違いだったのかな?」


澪はいよいよ笑ってしまうのだった。



「すごい。」


高嶺も同様に驚いていたが、彼女が見ていたのは蘭堂玲奈ではなく新城奏多だった。

奏多はこの試合中一度も私たちに対して、心配そうな目をしなかった。

それは奏多があずさと似た人種であるとわかっているからである。

だからこそ、私はこの状況にかなりの恐怖感を覚えていた。

スタミナも枯れかけていて、前半とは真逆の展開。

凡人であるあずさはもちろん、不安を抱いていたし、このままでは負けると思っていた。

しかし、奏多は全くそんな目をしなかった。


「わかっていたんですね。」


羨ましくも思う。

これだけ理解し合える相手が恋人だという彼のことを。







玲奈が得点をまた、次々と決めていく姿を見て、俺は安心していた。


「やっぱすごいな、玲奈は…。」


俺は最初から玲奈が負けることは考えていなかった。

どんな策を澪が張って、どんな不利な展開になろうとも玲奈が負ける姿は想像できなかった。

それは今までもそうだったからだし、今後もそうだろう。


「本当に綺麗で、カッコ良くて敵わないな。」


俺は今どんな表情をしているのだろうか。

嬉しい、それとも悲しい。


届かないのは随分と昔から知っていたけど、玲奈の隣に立つことができるとしたら一体どんな人なんだろうか。

少なくとも俺には全く想像がつかない。

そして、玲奈の孤独を埋められる人がいたとして、俺はその相手に対してどんな感情を抱くことになるのか。

きっと、嫉妬してしまうのかもしれないなーーーーーーーーーー。







「ビーーーーーーー」


ブザーの音が鳴り響き、決着する。

結果としては45対36と男子部が勝利した。

単純なスコアだけであるならば、男子部が優勢だったのだろうということになるのかもしれないが今回に関してはそういう話でもない。


「な、納得できないわよ。ほとんど蘭堂さんにおんぶに抱っこで勝っただけじゃない。」


女子部員の1人が負けたことを認められず、怒りを隠しきれない。


「確かにその通りだよ。蘭堂さんいなかったら私たちが絶対勝ってたし。こんな勝負なしね。」


他の部員もそれに賛同していく。

こうなることは、なんとなく想像がついていた。

男子部が勝とうと、女子部が勝とうと…潔く敗北を認めることなんかできやしない。

それはこの勝負が…


「はいはい、そこまでそこまで。ごめんね、玲奈っち。私たちの言い訳もしようもない負けだよ。」


「澪ちゃん。」


玲奈が澪が介入したことに少なからず驚いている。

俺らが中学生の頃は玲奈も俺も澪とは交流がそこそこあったが、部活の部長をやるほどの前に出るタイプではなかったし見た目もはっきり言ってしまえば地味だった。

しかし、澪も俺らの知らない間に立派な部長になったということだろう。


「最初から、部外の人を入れた混合チームでやろうって提案したのもわたしたちだしね。玲奈っちを味方に杖けた拓哉っちを素直に褒めるべきじゃないかな?」


「それは…。」


「うっ…。」


澪の言葉に部員たちも怒りが少しずつ冷静になってくる。

やはり混合チームにしたことで、少なからず他者の力が介入した勝負になってしまうと彼らにとって納得のいくものになることは難しい。

勝った時には憂いなく喜び、負けた時には理不尽だと嘆く…人間としては当然の感情なのかもしれない。


果たして玲奈も負けた時にそんなこと考えるのだろうか…。


すっかり、冷め切った目でコートを見ていた俺は、スポーツマンたちの戦いにどこか…胸にチクッとしたモノを残したまま終わりを迎えるのだった。








「いや〜、今回は助かったぜ。奏多も蘭堂さんも、そんで高嶺さんもありがとな。」


帰り道、拓哉は俺たちに礼を言う。

これで男子部は夏休みの間優先して体育館の使用権を得ることができた。

他の部員たちも玲奈たちに感謝を告げていた…その時の彼らが感謝以外の想いを持っていたような気がするのは気のせいだろうか。


「あ…。」


そう思って気づいたら玲奈の手を握ってしまっていた。

高嶺も、拓哉も気づいていないだろうけど…握られた玲奈は少しだけ声を漏らしていた。


「ごめん。」


そう言って離そうとした俺だったが


「ううん、嬉しい。」


そう言って握り返されてしまい、逃げられなくなってしまった。

俺も嫉妬したのかも知れないな…本当に変わらんな俺も。








気づいたのは偶然でした。

新城くんと蘭堂さんが手を握っているのを見てしまったのは。

2人が恋人という関係であるのは私も知っていました。

けれど、こんなに仲睦まじい姿を見ると私は驚いてしまいます。


私は昔から人付き合いが少なかったため身近に恋人がいるって人にも滅多に会ったことがありません。

そのため、どこか恋愛というものは遠い存在のような気がしていたのです。

少なくとも私が関わることがないだろうなってくらいには。


新城くんも蘭堂さんも少し恥ずかしそうにしながらも、お互いのことを信頼しているのが伝わってきます。

とても素晴らしい光景なのでしょう…なのに、なんで私は少し胸の奥が痛むのでしょうか。

この私の知らない感情は何…新城くんが大怪我したと聞いた時にも似たような胸の痛みを感じました。


もしかしたら私はーーーーーーー。



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