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素直になれない俺と彼女たち  作者: re:まったり
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バスケ部と勝負

試合が始まり、序盤は一方的な展開になっていた。


「くそ、この女。」


「何なんだよ、こいつは。」


男子をドリブルで華麗に抜き去り、シュートの体勢に入る。


「何度も、何度もうまくいくと思うな!」


長身の男子はシュートをブロックするために飛び上がる。

目の前にあったシュートコースは消え、そのまま撃てば間違いなくブロックされてしまうだろう。


「そうみたいね。ならーー大谷くん!」


ボールを持ちかえ、咄嗟にシュートからビハインドパスで拓哉の元にボールを通す。


「おう、任せてくれ!」


拓哉はフリーでボールを受けて、そのままシュートへ。


「おらぁ!!」


ダンクシュートをリングへ叩きつけたのだ。

華麗なパスを出した玲奈は拓哉にわずかに微笑み、すぐに守備へ戻る。


試合の現状は開始5分で14対6で男子部が圧倒していた。

10分ハーフのルールなので、これで4分の1ほど進行したところだ。

リードしている大きな原動力は玲奈だろう。


ポイントガード、司令塔の役割を果たしながら自らもゴールを決めるため切り込んでいく。

そのドリブルの鋭さはバスケ部の男子ですら反応できないほど。


そして、リードしている理由はもう1つ。


「こいつ、どこから。」


高嶺は男子からボールを奪うとそのまま男子部員へパスを出す。

このような展開はこの試合が始まってから何度かあった。


気づいたら後ろに回り込まれて、ボールを奪取されてしまう。

向こうにとってみれば思ってもみない展開だったのかもしれない。


高嶺がここまで活躍するのは俺でも想定外ではあったけど、彼女を勧誘したのには理由があった。





今よりも2ヶ月前、テスト勉強に追われていた頃。


「高嶺は、中学の頃部活とかやってたのか?」


「私、ですか?」


俺は図書室でテスト勉強を教えてもらい途中、少しの休憩時間に尋ねた。


「そうですね、私はバスケ部に所属していました。」


「そりゃ奇遇だな、俺もそうなんだ。」


「新城くんも?」


こんな偶然があるとは…俺と高嶺って何かしら関係があるんじゃないかってくらい気が合うな。


「まあ、そこまでうまかったわけじゃないけどな。」


「私もそうです。そんなに試合にも出れませんでしたから。」


俺にとっては中学の部活には複雑な思いがある。

バスケ自体は嫌いになっているわけじゃない…ただ、今の俺を作っている一因があの部活にあることもまた確かなんだ。


「高嶺は、高校でも続けようとは思わなかったのか?」


「あ…一度は考えていたんですが、どうやら私の場合パスを積極的にもらいに行けなくて。先生に怒られてしまって、高校でも同じようになるのかなって。」


「それは…。」


部活には仕方ないことだが、チームである以上皆で同じことを共有して強くなっていくという流れを必要とする。

高嶺や俺のように内向的な人ももちろんいるが、それが認められる部であるかはそれぞれというところだろう。

彼女の所属している部活では認められなかったのだろう。


「でも、楽しかったです。足はそこまで早くなかったんですけど、ボールをスティールするのが得意だったのでよくドリブラーを止めていました。」


高嶺の得意な分野を聞いた時俺は今回の試合で重要になると思ったのだ。


こちらも向こうも即席のチーム。

元々チームプレーなんて大したものができるわけじゃない。

そうなれば高嶺のように、ボールをスティールがうまい選手は輝く可能性が高い。






「あっ…っクソ!」


相手チームの男子が出したパスは澪の元には届かず、高嶺がインターセプトする。

それは高嶺にとって難しいことではないのだろう。

チーム連携がうまくいっているチームから奪い取ることができるなら、今日初めてパスを受け渡しするような相手のパスなど出所が簡単にわかってしまう。


「ありがとう、高嶺さん。」


高嶺からパスを受けた玲奈は止まることなく、そのままシュートへ。

そうして、前半の終わりを告げるブザーが鳴り響いた。




「お疲れ様。」


俺は玲奈と高嶺にドリンクを差し出す。


「ありがとう、奏多。」


「新城くん、ありがとうございます。」


玲奈も高嶺もまだそこまで疲労しているわけではないが、慣れない環境での疲れはあるだろう。


「2人とも調子いいみたいだな。」


俺は2人に尋ねると


「うん、奏多が教えてくれたから。それに高嶺さんがボールを奪ってくれたから、楽に前にボールを運べたよ。」


「私はっっ…そんなでもないですよ。ディフェンスだけですから。」


正直、他の男子部の選手が霞んでしまうほど2人の貢献が大きいだろう。

スコアボードを見ると29対14とダブルスコアほどのリード。


澪もまさかここまで差をつけられるとは思わなかっただろう。

向こうの男子選手がイラついているのはこっちにも伝わってくる。


男子にやられるならともかく女子2人にここまで一方的なんだから。



玲奈がここまで成長したのは、無論俺の力などではない。

玲奈に教えたのは基礎のシュート、ドリブル、パスなど…誰でも最初通るであろうこと。

逆に言えば玲奈にはそれだけで十分だった。


そこさえ、丁寧に身につければ彼女の才能からして自らの体、頭脳を生かした可能な最高のプレーを生み出すことができるから。


途中からは俺も見ていただけだがその成長の速さに驚きを隠せなかった。

やはり蘭堂玲奈は天才なのだと…そう再認識するには十分すぎる出来事であった。






「あちゃ〜、これは困ったね。」


想定外の展開に北島澪は頭を悩ませる。

想定外は2つ、蘭堂玲奈の異常なスキルと高嶺あずさという謎の生徒の活躍。

特に後者に関しては全くの予想外であったので対策も何もない。


蘭堂玲奈も1週間とは言えバスケをある程度習得してくるとは思っていたが、そんなもんじゃなかった。

正直、私でもまともにやれば一対一で歯が立たないだろう。


それほどのスキルを身につけてくるとは思っても見ないことだし、ベンチにいる新城奏多がそれに大きく関わっていることは考えるまでもない。


「澪、どうすんの後半。このままじゃ負けちゃうよ。」


女バスの部員は澪に心配そうに尋ねる。


「あ〜、心配いらないよ。玲奈っちたちがすごいのはわかったけど、これはあくまでチームプレーだって教えてあげよ。」


澪の凄さが発揮されるのは後半になってからだということは奏多にも想像はできていなかった。

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