協力と強力
俺は拓哉の相談を最後まで聞いて、まず一言言った。
「お前、何でそんな勝負引き受けたんだよ。」
「そ、そりゃ…。」
「大方、澪に乗せられて引くに引けなくなったんだろ。」
大体こう言うことになる流れは予想がつく。
澪の性格からして、いつものように拓哉を沸騰させるのは容易であるだろうからな。
「それで、玲奈に力を借りたいってことか。」
「おう。」
拓哉にも勝算があるから引き受けたのだと言うことはわかるが、その勝算が玲奈とは。
「で、玲奈はどうするんだ?」
俺は俺の部屋で勉強していた玲奈がリビングに戻ってくるや否や問うことにしたのだ。
「ら、蘭堂さん??」
拓哉は眼に見えるようにうろたえているが。
「ごめんね、大谷くん。盗み聞きみたいな形になっちゃって。」
「い、いえそんなことは。全然大丈夫っす。」
拓哉がいつもより数段小さく見える。
まず、俺の家に玲奈がいることにも驚いているのだろう。
「さっきの話だけど、助っ人するのはかまわないんだけど…私バスケットはそこまでやったことなくて。」
玲奈は女バスのマネージャーを三年やっていたが、それでもプレイヤーになったことは一度もない。
それは彼女にとってバスケ部は奏多と共にいられるから入った部活であって、バスケに特別な感情はなかったのだろう。
「そ、そんなの全然大丈夫っす、出てくれさえすれば。」
「そう言うわけにもいかないだろう。澪のことだ…多分何かしらの策を講じてくる。」
澪は昔から悪知恵が働くやつだったからな…バスケ経験者の男子で固めてくることくらい容易だろう。
「そうだね、澪ちゃんは手は抜いてこないと思う。」
それは玲奈も同意のことだ。
澪のことは俺も澪も中学の頃からよく知っているから。
「で、でも俺たちがいるから何とかなるぜ。うちのバスケ部だって弱いわけじゃない。」
拓哉も弁明してくる。
「それはそうだろうが…。ーーーそういや、あと1人はどうするんだ?」
俺は具体的なことを何も聞いていなかったが、玲奈をチームに入れたとしても後1人足りない。
「それは…蘭堂さんにご紹介いただければと…。」
こいつ何も考えてねえ。
とりあえず玲奈さえ味方にすればどうにかなるとでも思っていたのだろう。
「玲奈、誰かバスケのできそうな知り合いはいるのか?」
「いることにはいるけど、みんなも部活があるだろうし…。」
そうだろうな。
そもそもバスケが好きならバスケ部に入っているだろうし、入っていなくてもスポーツが好きなら何かしらの部活に入ってもおかしくない。
そんなのを満たすのは俺くらいのもんだ。
「そうか…。俺に1人心当たりがいるから、そっちは任せてくれ。」
「本当か!?奏多。」
「ああ、多分協力してくれると思う。」
俺の思い浮かべた人物が協力してくれる可能性は高い。
あとは…
「1週間後に試合だったな?」
「ああ、1週間後の午後1時だ。」
「わかった。お前たちはいつも通りに練習しておいてくれ。玲奈も生徒会で忙しいと思うけど、その時間は空けられるか?」
「おう。」
「うん、大丈夫。奏多と大谷くんの頼みなら断ることはないよ。」
拓哉、玲奈ともに意外と乗り気であることに助かった。
俺も人肌脱ぐとするか…。
「ねえ、奏多。こんな時間にどこいくの?」
夕飯後、少しまったりした時間を過ごした後俺は玲奈の了解を得てある場所に向かっていた。
「ここだ。悪いな、わざわざついてきてもらって。」
俺は目の前にあるバスケットコートを指差す。
「あ。」
玲奈も気づいたようだ。
俺もバッグからボールを取り出し、地面に何度かつく。
「流石に鈍っているな。」
明らかに中学の頃よりも下手にはなっているだろう。
体力だってだいぶ落ちてしまった。
「玲奈、少しだけバスケットの基本をレクチャーする。」
「少しだけ?」
「ああ、ある程度まで行けばきっと俺の教えより自分で掴んだ方が玲奈の場合早いと思うから。」
俺はボールを手元に戻して玲奈にパスを出す。
「玲奈…拓哉の頼みを受けてくれてありがとう。本来であれば玲奈を巻き込むのはどうかとおもったけど、玲奈ならきっとうまくできると思ったから。」
「ううん、そんなこと。私はいつだって奏多の役に立ちたいから。」
玲奈の優しさに浸かってしまっていることはわかっている。
だからこそ、俺は謝るんじゃなくて感謝を伝えて一緒に頑張ることに決めた。
春沢からの相談を受けてから俺自身も考えていたことだ。
「じゃあ、早速はじめよう。時間はあまりないから。」
「うん。お願いします。」
そうして俺と玲奈の短い師弟関係が始まったのだった。
時は過ぎて、試合の日。
俺はバスケ部の本拠地第二体育館を訪れた。
もちろん、玲奈も一緒に。
「お、来てくれたみたいだな。」
拓哉が俺に向かって話しかけてくる。
「当たり前だ。それよりお前たちは大丈夫なのか。」
「それこそ当たり前だろ。絶好調だぜ。」
力瘤を見せてくるが、本当に拓哉は調子がいいんだろう。
俺が見る限り、他の部員も調子は良さそうだ。
「あ〜、玲奈っちを連れてきたんだね。まあ、そんなことだろうと思っていたよ。」
澪は俺たちに何の気なしに話しかけてくる。
「ああ、敵のベンチに来てていいのか。澪。」
「奏多っちは堅いな〜。まあ、いいじゃない、これから戦うって言っても奏多っちが出るわけじゃないんだし。」
「それもそうだな。」
出るのは俺じゃなくてあくまで玲奈。
澪に対して冷たく当たるのは、そもそも前提としておかしい。
「澪ちゃん、今日はよろしくね。」
「こちらこそ。玲奈っちとプレーできるなんて思わなかったよ。」
2人が握手をしたのを見てから向こうのベンチを見ると…
「なるほどな…。」
「奏多?どうしたの。」
玲奈は俺の声が聞こえていたようで何かあったのかと聞いてくる。
「澪、お前随分と強引な手を使ったな。」
「ありゃ、もうバレちゃったか。流石に奏多っちは勘がいいね。」
向こうのベンチでアップをしている男子は明らかに初心者ではない。
かといってしばらくやめている俺みたいな経験者でもない。
普段からボールに触れているであろうボールの扱いのうまさ。
「な、何だあいつら。」
拓哉も向こうの男子の思った以上の実力に驚いているようだ。
「あれは他校のバスケ部だろうな…。」
「はぁ!?そんなの反則じゃねええか。」
拓哉は俺の答えを聞くと途端に騒ぎ出す。
「ちゃんと入校許可は取ってるから大丈夫だよ〜。それより、反則ってのは聞き捨てならないね。」
「だ、誰が見たって反則だろうが。」
「私は最初から男女の合同チームであることって伝えたけど、それ以上は言ってないよ。他校の人を連れてきても別に反則じゃない。」
「なっ。」
拓哉から見たらとんでもない理不尽な行為だが、確かに反則とは言い難い。
そこまでルールを明確にしなかった拓哉の落ち度だ。
実際、本当に他校の生徒を連れてくるなんて考えるのは澪くらいのものかもしれないけど。
「そっちは女子が1人足りないみたいだけど、大丈夫?そろそろ時間だよ。」
時刻は後5分ほど、アップは済ませてくると言っていたが
「心配するな、もう来たからな。」
「え?」
玲奈も拓哉も…そして聞いた澪すらも驚いている。
「新城くん、お待たせしました。ギリギリになってしまって、申し訳ありません。」
俺の呼んだ助っ人は高嶺あずさ。
俺の友人にして、誰の予想ともつかないであろう人選をしていたのだった。




